第52話 COC…クトゥルフの呼び声…妻の呼び声?
だんだん気温も高くなりクーラーをつけておくのも必要になってきた今日この頃。
洗濯物も気持ちよく乾き、のども鬱陶しい程乾くような日はやはり室内で遊ぶのが良いだろう。
涼しい室内でアイスを食べながらゲームをして過ごすに限る。
と言ってもテレビゲームじゃあない。
今日やっているのはTRPG…テーブルトークアールピージーだ。
説明するのは骨が折れるので簡単にまとめるとテレビゲームでやっているRPGなどをテーブルでやり自分のキャラクターになりきりながらダイスなどで行動の是非を決めるいわゆる手の込んだごっこ遊びのようなもの。
自分の分身のようなキャラクターを作ってその世界に送り込むもよし。
自分とは全く別の人間を演じるもよし。
楽しみ方は人それぞれだろう。
…まぁ俺は探偵事務所にいた頃から
でもって今回そういう遊びをするって話になりゲームの進行役に慣れている俺はプレイヤー側には入れないのである。悲しいね。
いつか俺もプレイヤーとしてやってみたいものだ。
とか頭の端で思いながら俺はナレーションをKPとしてする。
今日のゲームタイトルは「クトゥルフ神話TRPG」
つまり俺のまわりにいる神様がラスボスとかで出てくる現代アクションもの。
自分たちに関係のあるやつならが初めてでもやりやすいだろう、
と思いこのゲームを始めたが一つ問題点があった。
それは…。
KPナユタ
「はい、あなた達が見つめたもの。それは腹部に鉄の棒が刺さってしまっている人間の惨殺死体でした」
「…ん…武器で特定可能…」
「肯定。槍武器」
「槍で惨殺死体でしょ?私は多分『ムーンビースト』だと思う」
「私もーそうおもうー」
「じゃの。じゃあとりあえずムーンビーストが出る前提で行動するのじゃ」
はいこのように少しの情報で即座に出てくる敵の情報が速攻でばれます。
そりゃそうだよね。だってここに出てくるのって妻たちの知り合いとかだもの。
KPとしてここまでネタバレが早いとは思ってませんでした。
「…はい、この部屋には明かりがありません。
あなた達はどうしますか?」
「…ん…十中八九天井とかに敵がいる…」
「私、懐中電灯持ってるからいけるよ」
「うむ、では警戒しながら進むのじゃ!」
「突撃―」
「警戒。必須」
普通にシナリオを読まれるというのはKPとしてはそんなに嬉しくはない。
ないのだが…、
「にゃー!思った以上に数がいたのじゃー!」
「…あ…SANチェック失敗した…むむ…」
「精神分析。推奨」
「待っててお姉ちゃん今助け…あっ失敗した…」
「こっちー成功ー」
慌てるクロネとヨルト。
冷静に分析を続けるベル。
マイペースなアサトとネムト。
楽しそうにキャラクターの
◆◆◆◆◆
やんややんやと騒ぎあい、笑いあいぐだぐだとゆる~い昼を謳歌してこの日行ったTRPGのセッションは無事終了するに至った。
だがゲームが終わった後に妻たちからこんなことを言われる俺。
「…ねぇ…ナユタ」
「どうした?なんか聞きたいのか?」
「…ん…私は出ないの?」
「ふぇ?アサト?」
「…ん…アザトースは出ないの?」
「…あー…」
「確かに…ネムトだけ出番があって私たちはないのはなんでなの?」
「そうじゃの、まぁ猫でも関わってないと我はでんじゃろうがの」
「便乗。出番」
「いえい~」
とのことです。
実はこのゲーム中にクトゥルフは出ました。
で、その結果
『自分たちの出番もあるのでは?』
と変に期待してしまったようです。
この中で唯一出番のあったネムトだけは眠そうな表情のままドヤ顔をしている。
とりあえずその説明を…する前に。
「ベル、お前は実は本棚のなかにあったんだよ。
目星とかに失敗したから出番がなかっただけでな」
「歓喜。わーい」
いつも通りの表情のまま俺に抱き着いてくるベル。
出番が用意されていたことが結構嬉しかったようだ。
抱き着いて顔を押し付けてくるベルを抱きかかえ撫でながら他の妻たちに説明を開始する。
「えっとだな、みんなも確かにこのゲームの中には存在してるんだがな、
出番はあんまりないんだ」
「…ないの?…」
「あんまりな。ほらアサトやネムトたちは人間サイドからしたら世界に現れたらもう世界滅んじゃうとかそんなだから。基本出現させないようにするのがこのゲームの目的なわけで」
「まぁ確かにの。敵にアサトやヨルトや私が出てきたら人間じゃあ勝てぬのじゃ」
「だろ?今回のクトゥルフだってほとんど不完全に現れただけですぐに退散の呪文とかで帰らせたし。そういうもんなんだ」
妻たちを納得させるため出来るだけナイーブに説明する俺。
こればっかりはしょうがないからな。俺が頭おかしいだけで普通の人間なら神の姿なんて見たら正気が削られるってニャルが言ってたし。
そしてどうやら説得はうまくいったようで『そうなんだー』みたいな顔で納得するえ出番がなかった組。争いごととかにならんでよかったよ。
無事に説得を終えられたか。
と油断していた頃には俺の後ろにトラブルメーカーが接近していた。
「甘いわねナユタ!」
「おわっ!?なんだニャルか、驚かすなよ…」
「あっごめん」
後ろに来ていたのは今日のニャル。
割烹着の日本女性っぽい姿。尚中身は(略)
ちなみにこの間まで音楽家の名前を連呼していたが最近ようやく解除していいとの許しが出たらしい。
「で、甘いってなんだ?」
「さっきの話だけどいろんな神達を一度に世界に出現させてもおかしくない神がいるでしょう?いるんでしょう?いるんでっしゃろ?」
「……………」
何故か嬉しそうにこいつがここに来た理由が何となく察せられた。
出番を求めてやってきたな這い寄る混沌め。
「えっへっへー!あっはっはー!そうこの私!
いつもあなたの後ろに這い寄る混沌はなんとこのゲームの中では何をやっても許されるんだよ。つまり私はこのゲームにおいては最強の神!GOD!仏様!
三回殴られても笑って許すだけのブッタとは格が違うのだよ!」
綺麗な顔でアホみたいなことを言っているこの野郎…女だった。
あと唐突にブッタさんを馬鹿にするんじゃありません。
俺の横でアサトが「ブッタって誰?」とクロネに聞き、
クロネが、
「3回までなら殴ろうが、銃で撃とうが、首から上を吹き飛ばそうが笑って許してくれるドMの仏なのじゃ」
と説明しているところを聞いてしまった。
ブッタさんごめんなさい。
後で正しい説明をするとしよう。
俺の前では嬉しそうに両手をワキワキしながら反復横跳びをしているニャルの姿。
うぜぇ…。
「ふはっはっはっは!さあKP!最強の神が目の前に現れたぞ~!
何とかして撃退しなければ~!」
めっちゃテンション高くてうざったらしいこの神。
言ってることが概ね事実なのがまた腹立たしいと俺は感じたのでこちらも召喚魔術を使わせてもらうとしよう。
「————————————二重召喚」
「ほう私に勝てる奴を召喚しようというのね!
でも残念!私に弱点なんて……」
「呼んだ?ナユタ~」
「ナユタさんどうしました?」
俺が呼んだのはニャルキラーEL組の二柱。
クトゥグアとイホウンデーさん。
…で?弱点が何だって?
「じつはかくかくしかじかでニャルが私は最強だから誰にも負けないってさ」
「「——へぇ…」」
後ろにいたニャルを振り返ってじっと見つめる二柱。
イホウンデーさんの手には縄が。クトゥグアの手には炎がそれぞれ出てくる。
そしてその二柱に睨まれた憐れな
「おのれー!ナユター!卑怯なー!っとう!」
涙目でクラウチングスタートからそのままガラスを破って外に逃げるニャル。
それを満面の笑みでニャルの妻と自称妻が追いかけていく…地平線の彼方まで。
その笑顔…怖いです。
今日も我が家は平和です。
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