第50話 そして老人介護へ

 ……ちょっと前の話をしよう。

 数分前。


「…ああ、常盤さん。どうかしたんですか?」


「…いえ…そのですね…実は相談したいことがあるんですが…」



 唐突に俺の携帯電話が鳴ったと思い手に取って出てみると相手は常盤さん。

 若干困惑気味の常盤さんからの相談事、それは…例のロリコンのことだった。


 呪い袋から復活し姿を現したらしいが何やら様子がおかしいとのこと。

 説明してもらおうとはしたが、


「…すいません。なんて言っていいか分からないです…」


 説明不能の状態らしく仕方ないので俺があっち側に向かおうとすると…


「!?…い、いえ!こちらが行きます!

 なんども足を運ばせては申し訳ないですから!」


 と激しく返答された。

 その後小さな声で「気軽に神を連れてこられても困る…」と聞こえた気がする。

 …すんません。



…で、そこから数分後にうちに拘束された状態のイゴーロナクが連れてこられた。


 何か企んでる危険性もあると思い妻たちは別室待機させてリビングに連れて入り現在に至る…至るんだが…


「…ああ、お茶ありがとうございます」


 …目の前にいるスレンダーな体格の首がない執事服のこれ。

 これがイゴーロナクと言われても俺は困る。

 …なにがあったの?


「…いえいえ、お構いなく…」


 小さく返事をしながら常盤さんと相楽さんを凝視する俺。

『どういうことですか!』をアイコンタクトで表す。


 ブンブンと必死に顔を振る2人の図。

 あの感じは…『俺達にもわかりません!』だ。


 聞いても答えが返ってこない以上本人に問いかけるしかないだろう。


「…イゴーロナク…いやイゴーロナクさん?

 えっと…随分と御姿が変わっていらっしゃいますが何かあったんですか?」


「ナユタさん、

 知らない相手というわけでもないですし呼び捨てで構いませんよ?」


「…ああ、うんソウダネ…」


 俺からしたら知らない相手なんだよなぁ。

 誰だよこの朗らかな感じの執事。


 この前の


「wwフォポwwフォポww」


 みたいな感じのきもいオタクっぽい神はいずこへ?


「…えっと前はもうちょっとこう…太ったおっさんみたいな感じだったと思うんだけどなんでそんなに変わってるの?」


「それなんですが…ナユタさんにミンチにされて私は心を入れ替えまして、

 これからは『他人に迷惑をかけないように』と『他人に優しく』をモットーに頑張ろうと思う次第です」


「いやさぁ…まぁそれは良いことなんだけど…なんかこう前と変わりすぎじゃね?

 前は小さな子供を追いかけていたじゃんか。今は子供についてどう思うんだ?」


「ああ、子供ですか。

 以前は好ましいと思っていましたが今にして思えば若気の至りですね」


 …神の若いってどこまでなの?


「…そうか。じゃあもう子供を追いかけたりもしてないんだな」


「もちろんです」


 謎の心の入れ替えにより完全に別人…いや別神べつじんだがロリコンでなくなったのは良いことだ。これなら妻たちをこっちに呼んでも大丈夫かな?


 などと俺が考えていたそのとき、

 イゴーロナクが小さく呟いている言葉が俺の耳に届く。


「…まったく私はなぜ子供なんて好きだったのでしょう?

 生まれたばかりの無知蒙昧な愚かな幼体など…

 役に立つまで鹵獲しておくべきなのでは…?」


 ……前言撤回。

 どちらかというと子供嫌いになってるよこいつ。

 これ下手すれば前よりも子供たちが危ないかもしれない。


「ちなみにだが…今は何か好きと言うか興味があることはあるのか?」


「はい!今は老人に興味…と言うか尊敬の念を抱いています」


「………老人?」


 胸に手を当てて、

 なんかこう劇をする役者さんみたいなポーズでそういうイゴーロナク。


「…なんで興味が?」


「短い人生ながらも必死にこの世界で生き抜きそしてその蓄えた知識を無知な子供たちに教え、導くその姿のなんと素晴らしいことか!」


「なるほど…なるほど?」


 駄目だなんかだんだんよく分からなくなってきた。

 何をいっとんのだこいつは…。


どう考えても思考回路が変わったとしか言えない元ロリコンで今は老コンの神様。

 自然現象とは思えなかった俺は原因を問いただす。


「えっとだな…どうして以前のお前と思考が全然違うんだ?

 明らかに別神べつじんなんだが?」


「どうしてと言われましても…呪い詰めの袋に入れて性格を変えたのはナユタさんではないですか」


「んー?」


 とのことです。

 いや?性格に影響するようなものは使っていない…ハズ。


 悩んで頭をブンブン振って考える間にあることを思い出し、それを確かめるためにあいつらを呼ぶ。


「…おーい、ニャル―、ツァトー」


 

 俺が呼んだのは3駄神の二柱だった。


「どうしたんだ?ナユタ―――ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」


「何か用か…もうそろそろ1000回目の二度寝をしたいんだが」


 眠そうにあくびをするツァトと、

 俺との戦争(お菓子)に敗北して語尾がモーツァルトのフルネームになっているニャル。偉人の名言みたい。


 モーツァルトさん、本当にごめんなさい。



 2柱に現状を説明。

 確かこいつらはイゴーロナクの入っていたゴミ袋に呪いを入れていた。

 もしかしたらこいつらが原因かもしれない。



「……というわけでな。お前らイゴーロナクがこんな風になるようななにかをしでかしたか?」


「「 ………… 」」


 プイッと横を向く2柱。

 何か思い当たる節があるなこいつら。


「…正直にいいなさい。何したの?」


「…いや俺はあの…あれだよ。

 煩いから反転エネルギー的な感じの呪いを流し込んだだけで…。

 そんなふうになる奴なんて使ってないから…

 ――ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト」


「モーツァルトが言い訳言ってるみたいになるからその語尾やめーや」


「私は別におかしいことはしてないぞ?

 ただ安眠を妨害されたから憂さ晴らしに…なんだ…その…精神浸食の呪いを…」


「寝るの邪魔されただけでおっそろしい呪い使ってんじゃねぇよ!!!」


 …とりあえず原因判明。

 要するによくわからない反転エネルギーと精神浸食の呪いが一緒になってかけられていたらしい。


 反転エネルギー+精神浸食=精神浸食反転の呪い


 的確にひどい効果が誕生してしまったようだ。


 そりゃロリコンじゃなくなって老人を好きにるわけだ。


 他人に優しくなったのはおそらく自分勝手な性格が反転した結果だろう。





 こうして問題点は無事早期に発見し2柱は現在廊下で正座。



反転してよさげな感じになったイゴーロナクに今後の方針を聞いてみたところ…、


「はい、これからはとりあえず以前からいた私の信者たちに新しい教えを説き心を入れ替えさせてから、『イゴ―ロリコンナク教団』を『イゴ―老人介護福祉教団』に作り替えようと思っています!」


 と熱い思いを語っていた。


 そして事情を常盤さんと相楽さんに説明。

 ある意味、改心(呪術)をしたことを説明しこれなら社会に悪影響はないだろうということでイゴーロナクは後日、釈放されることとなった。




 それ以降、沖縄にはある都市伝説のようなものが流れ始めた。


 曰く、台風の日に「田んぼ見に行ってくる」と言って行方知らずになっていた

 お爺さんが首のない執事に避難所に連れてこられただとか。


 曰く、老人が道路を逆走しているとその横を並走しながら

「おばあちゃん!ここは反対車線なので危ないですよ!」と教えてくれた首なしの執事がいたとか。


 曰く、首なしの執事に信号無視して老人を轢きそうになったトラックが巴投げで

 海に投げ飛ばされたとか。


 どれも首のない執事が老人を助けている内容のものが流れている。


 その話を聞くたびに俺は思う。


(イゴーロナク。人助けはいいんだが…首は何とかしてくんない?)



 今日もナユタ家は平和です。

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