第49話 第2次お菓子大戦 開催!

「…えっと…あれは買ったし…これはまだ冷蔵庫にあったよな

 後は旬の野菜と…」


「魚が安いそうじゃぞ?」


「魚…よし、今日はムニエルかな」


「うむ、よさげじゃの。野菜とも合いそうじゃしの」


 今現在、俺はスーパーにベルとクロネと一緒に買い物に来ている。

 今晩の食材と料理を妻と肩を並べてする買い物はなかなかいいものだ。

 …周りの男達が妻に見惚れているのは少し気になるが…。


 今日のクロネは清楚な白色ワンピース。

 いつも黒色な分、白色だととても印象が違って見える。

 これがギャップ萌えですか?


 しかし周りの目も気にせず、俺の腕に嬉しそうに自然に腕を絡めてくるクロネ。

 そして俺に注がれる男どもの殺気。

 …そんな顔しても家の可愛い妻はやらんぞ?


 周りの男どもに妻の頭を撫でる所を見せつけながらレジへと向かっていたら、

 今まで黙っていたベルが急に話し出す。

 ちなみに今日は普通に人型ゴスロリ幼女である。


「ぱぱ」


「ぱっ!?……ああ、そうか。

 周りから見ればパパか。んで?どしたベル?」


 周りに知らない人がいるといつもの「マスター」ではなく「ぱぱ」にする有能な娘に問いかける。


「お菓子」


「ほいほい、じゃあ行くかクロネ」


「じゃの」


 1人+1柱+1冊が並んで手をつなぐ姿はもう家族にしか見えないだろう。

 実際家族だしな。心なしか周りの男達の殺気が1レベルアップした気がするが。


「………ん?」


 ふとあるお菓子が視界に入る。


 思い返される数カ月前の出来事。

 ……リベンジ…するか?


 スーパーの棚のところにあるその2つのお菓子を全て買いレジへと向かう。

 あの時の雪辱を晴らすために。




 ◆◆◆◆◆



 ―――ナユタ家


「…はい、というわけでこれから第2次キノコタケノコ戦争を始めます」


「いや待てよ。どういうわけだよ!?」


「静かにするがいいキノコ派の手先がっ!」


「えええええ…」



俺はキノコ派のニャルに牽制を与えた後、まわりに集まっている神達に告げる。


「いいか!我らタケノコ派はかつて惨敗を強いられた!

 だが今日は違う!

これだけの数がいれば必ずやタケノコ派の数も増えていることだろう!」



 今回のメンバーは前の倍くらい。

 アサト(敵)、ベル(敵)、チャウグナー(敵)、ニャル(敵)、

 ツァト(味方)、クロネ、ネムト、ヨルト、クトゥグア、である。


 改めてみると敵多すぎるな。

 今のところ判明している味方はツァトだけ。


 だが俺は信じている。 あとの全員がタケノコ派だということを!


「いくぞ!ニャルゥ!」


「ふははははっ!来るがいいナユタ!」


「「 いざぁ!尋常に…勝負!!! 」」



 ◆◆◆◆◆



 ―――15分後。


『ズサァッ!』と音を立てて膝をつく俺。

 …馬鹿な…そんな馬鹿な…。


「…ちくしょぉ!お前なんかイカサマしただろ!」


「口を慎みたまえ!君は今キノコ王の前にいるのだよ!フハハハハッ!」


 床にいる俺とテーブルでサングラスをかけ、

「素晴らしい!最高のショーだと思わんかね!」とこちらを煽るニャル。


 〇◎〇◎〇     〇◎〇◎〇     〇◎〇◎〇      

 ・結果発表


 ・キノコ派:アサト、ベル、ネムト、ヨルト、チャウグナー、ニャル

   

      …計5柱+1冊=キノコ


 ・タケノコ派:ツァト、クトゥグア、クロネ、ナユタ


     …計3柱+1人=タケノコ



 ★VICTORY:キノコ派


 〇◎〇◎〇     〇◎〇◎〇     〇◎〇◎〇



 …なんだこれは…?

 キノコ派の情報操作か?幻術か?白昼夢なのか?


 愕然とする俺を見下ろすニャル(グラサン)が、

 あざ笑いながら言葉を投げかけてくる。


「くっくっく!所詮はタケノコなぞ、その程度のお菓子だということなのだよ!」


「くっ!…だ、だがタケノコにとて『クッキーみたいで美味しい』や『食感がいい』などの利点がある!決してキノコより劣っているなどということは…!」


「だから君たちタケノコ派はダメだというのだ」


「何?」


「気づかないのかね?

 我らキノコ派は純粋に『掴みやすい』や『チョコが付きにくい』などの意見が多い…だが君たちタケノコ派はやれ『クッキーみたいで美味しい』や『食感がいい』だの…味や食感以外の利点がないではないか!」


「!?…た、確かに」


「だから君たちは勝てないのだよ!それが我らと君たちとの戦力の差なのだ!」


 そこそこ筋の通った正論で論破される俺。

 

 言われてみれば…

どちらも味は美味しいのでこっちのチョコが美味しいとかはあんまりない。

 …だとすれば味以外の評価が多いあちらの方が良いということになる。


「…くっ!この戦い…俺の負けだというのか…」


「くっくっく!ハーハッハッハッハ!

 お前たちでは私の相手は務まらぬということだ!」


「くっ」


 …まだ、届かないか。


 圧倒的な戦力の差に俺が地に伏そうとしたそのとき、

 リビングの扉が勢いよく開かれる。


 そこにいたのは両手にタケノコのお菓子としいたけを持ってポーズを決めている2柱の神…イホウンデーさんとイグさんだった。


「あなた、それは早計ですよ」


「な、何しに来た!すでに勝負は決して…」


 奥さんを見るだけですでに逃げ腰のニャル。

 …何かあったのか?


「ナユタさんタケノコ派の同志を連れてきましたよ。

 ちなみに私はタケノコ派です」


「やぁ!ナユタ君!イグ里さんだよ!

 ちなみに僕もタケノコ派さ!」


 朗らかな笑みで現れた2柱はまるで神様のようだ。……神様だけど。


 来てくれたかバンブーファミリア…心の友よ!


 新たなタケノコ派の襲来に身構えるニャル。


「だ、だがこれでもまだ6対6!つまり今回は引き分け!

 よって前回勝利している俺達キノコ派の勝ちに…」


「あら…それはどうかしら?」



 余裕満々のイホウンデーさんが指をさす。

 そこにニャルが視線を向けると、そこには…


「ぎゃう!」


 小さめな羽をパタパタとさせてお菓子の箱の横に降り立ち、

 中のお菓子を食べていくシャンタクの姿があった。

 そしてそのシャンタクが口にしていたのはタケノコのお菓子。


「…なん……だと…」


「はい!そこまで!」


 俺とニャルの間に楽し気に割り込んでくるクトゥグア。

 両手で場を制す様はさながら審判のようだった。


「6対7。

 この勝負タケノコ派の勝利よ!」


「くっ…」


「よっしゃぁぁぁぁぁ!」


 崩れ落ちるニャルとガッツポーズを決める俺。

 ここに反逆の旗は上がったぞ!タケノコ派の戦いは…これからだ!


 勝利の喜びでちょっとピョンピョンしていた俺の横で、

両脇を奥さんと奥さん(自称)に固められているニャルの姿があった。


「は~い、敗者の夫には罰ゲームですよ」


「そうね!罰ゲームね!」


 嬉しそうに黒い笑顔を浮かべる2柱。恐ろしや。


 2柱がニャルを固定したまましばらく今回の罰ゲームを考えて、

 そして楽しそうにこちらに問いかけてくる。


「ナユタさん、

 ナユタさんの中で昔の人で『凄いな』とおもう名前の人って誰ですか?」


「えっ?名前?

 …そうだな、確かモーツァルトの名前が長くて凄いなと思った事はあるけど…」


「…なるほど、いいですねそれ」


「じゃあ決定ね」


「何が決定なの?」


 楽しそうな2柱とは裏腹に不安そうなニャル。

 そしてその不安は的中した。


「では…旦那様あなた

 これからしばらくの間、私たちがいいというまでは語尾に、

『ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト』とつけること!

 …いいですね?」


「えええええ!?」


「…語尾」


「…ヴ、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト!」


「よくできました」


「あんまりだ~…ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト~(泣)」


 敗戦国の王の悲しい様を見ながら俺は一言呟いた。


「モーツァルトさん、ごめんなさい」





 ◆◆◆◆◆




 醜い争いがテーブルで繰り広げられている中、

 ソファーでお菓子を食べているちびっこ神たちは不思議そうに向こうを眺める。

 その手にはキノコとタケノコ、両方のチョコが握られている。


「何やってるんだろナユタ達?」


「…ん…あれは男の譲れない戦いってナユタが言ってた…」


「そうなのお姉ちゃん?

 私はどっちも美味しくて好きだけどなぁ。

 どちらかというとキノコってだけで」


「…私も…」


「うまーうまー」



 こちらは特に気にせずにチョコを食べているキノコ派の3柱たちだった。


 ちなみにこの後の就寝時、

 妻の中で唯一タケノコ派だったクロネがナユタにお礼代わりにぎゅっと抱きしめられて眠っているところを見た3柱は頬を膨らませるのだった。




 今日もナユタ家は平和である。

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