第46話 雨の日は家で遊ぼう (地)

 料理も並び終えたしみんな席に着いた。

 こっち(調理側)は騒動だらけだったがあちらはどうやら無事うちの妻たちの勝利に終わったようだ。


「あれで勝ったとは思わないでことね!無貌の神はここからよ!

 はむっ!…これを食べ終えたら再戦よ!」


「…ん…望むところ…」「私たち姉妹に勝てると思わないでよね!」


「それはいいけど…食べながら話しちゃいけません」


「「「はーい」」」



 ニャルとアサトとヨルトが口に食べ物を含みながら再戦を誓っていたので注意すると同じ動作、同じリアクションでこちらに返事をする3柱。

 いつも通りに微笑ましいくらいこの3人は仲は良い。


 その横では2組がそれぞれの反応を示す。


「うまー」「んまいぃー」


 ほのぼのと落ち着いた表情でいそいそとポテトサラダを頬張るネムトとツァト(エコ)。


 とても静かに、そして黙々とポテトサラダを口に入れていく。


 …気に入ったのはわかるが全部食べちゃダメだよ?…ダメダヨ?




「うむ、問題ないな」


「クロネ」


「なんじゃ?ベル?」


「卵スープ内部。焦げの混入。発見」


「……見逃してほしいのじゃ…」


 味が問題ないことを確認して、油断の隙をベルに突かれるクロネの図。

 半分は俺の責任だがな。



 周りのみんなを眺めながらホクホクのジャガイモを噛み砕き…ちょっぴり舌を焼いてしまったそのとき、俺の肩をチャウグナーがツンツンする?


「どした?」


「…この料理…足りません」


「ん?量、少なかったか?」


「この料理!血が!足りません!」


「はいるわきゃねぇーだろ!」


 この後ごねるチャウグナーに結局、血を混ぜた調味料を使用して味付けを付け足してやると、


「うんめ、うんめ!」


 と元気に食べ始めましたとさ。




 ◆◆◆◆◆





 昼食を終え皿洗いも済ませた俺とクロネは現在、

 食卓側で机に突っ伏し寛いでいる。


「今日は雨は降ってるけどあんましじめじめしてないからいいなー」


「じゃのー。…まぁそれでもツァトグアには嫌な環境らしいがの」


 だらーっとしながらリビング側に視線を向ける。

 そこでは…。



 ピシッっと敬礼をし、軍服を着ているニャル、チャウグナー、ツァトたちがいた。


「ふっふっふ!軍略を備えた我らの力とくと見るがいい!」


「これで私たちの勝ちは揺るがないのですよ。

 ナイアー軍曹勝ちましたな、これは」


「………はぁ…」



 やったる感を体から出しているニャルとチャウグナーがどこかの国の歌を歌い始める。

 その横で呆れ果てているツァトはただただ2柱を「ジーッ」と見つめることしかしないのだった。


 だが対戦相手の3妻はツァト程優しくなく現実を2柱へと突きつける。


「…軍服着ても…賢くなるわけじゃない…」


「…ていうか領地を管理するのと軍略って関係ない」


「あとー計画してもールーレットの出目頼りだよねー」



言われたことを吟味したニャルとチャウグナーが「あっ」という顔をし、

 それを見たツァトが再び「…はぁ」とため息を吐く。


 ……頑張れツァト!多分お前が頑張らないとそっち勝てない。



 他2柱に振り回されるツァトを応援していると、

 突然人型になったベルがツンツンしてくる。


「マスター。呼び出し」


「呼び出し?誰から?」


「眷属」


「眷属ってお前の?」


「父の」


 無表情のまま首を横にふるふるし話すベル。

 どうやらニャルの眷属の呼び出しがベルに届いたらしいが…

 肝心の神様はというと…。


「もう後悔しても遅いぞ!我らの本気みせてやる!」


「……かかってこい…」


「やり方はさっきので分かったからもう大丈夫」


「だよー」


「キィー!」


 余裕の敵を見てハンカチを咥えて引っ張るニャル。

 絵面は「この泥棒猫め!」といった感じだ。


「行くぞ!我らの力思い知れー!」


「そうです!私たちが今回で勝つことはすでに確定済みなんです!

 もうこれ命賭けます!私達3柱の命賭けます!」


「こらお前ら私を巻き込むな!」


 戦いが始まる前から既に揉め始めた駄神組。

 恐らく結果は…。


 と、まぁこんな感じなのでニャルは今動けない。


「…はぁ…仕方ないな。俺が行くか。

 ベル、門開いてくれ」


「了解」


 正面に門が出来上がったとき、クロネがこちらに話しかける。


「我も手が空いておるし付いて行くのじゃ」


「さんきゅ、クロネ」



 気遣いのできる良妻を連れて俺は門をくぐるのだった。




 ◆◆◆◆◆



 ―――???


 門をくぐり抜け転移した先、

 そこは暗くてじめじめしたどこかの洞窟らしきところ。

 明かりらしい明かりもないので真っ暗だ。


 ベルとクロネの手はしっかり握っているのではぐれたりはしないだろうが…ニャルを呼んだ誰かがここにいても見えないのでは?


 そう心配していたがどうやら杞憂に終わるようだ。


「ガァァァァァー!」


 すこし大きめな咆哮の後、暗闇の中に赤い瞳が二つ浮かぶ。

 大きな蝙蝠と竜を足して2で割ったような体に馬のような顔の容姿の黒い獣。

 ……えーと確か…。


「ふむ、シャンタク鳥じゃの」


「そう、それそれ」


 シャンタク鳥。普段はドリームランドにいるニャルの眷属。

 簡単に言えば馬顔のドラゴンだと思ってくれ。


「えーと…呼んだのはお前か?」


「ゴアッ!」


「………日本語でオナシャス」


 いくら猫語が分かる俺でもこれはわからない。

 これは猫ではありません。

 言葉に困っている俺をよそにクロネが翻訳してくれた。


「…ふむ。『お前は誰だ!』…だそうじゃ」


「あー…俺はナユタって言って、お前の主人の友達なんだ。

 今お前の主人はこっちに来れないからかわりに来たんだけど。

 …ほらニャルの作った魔導書も持ってるぞ」


 自分の身分証明代わりにベルをシャンタク鳥に見せる。

 すると先ほどまでこちらに威嚇していたシャンタク鳥が急に小動物のようにぷるぷる震えだした。


 …あっれー?


「…ベル、お前見たらあいつ怯え始めたんだけど何か知らないか?」


「心当たり。無し」


「じゃあ前になにかあいつにした?」


「餌をあげた」


「餌?」


「肯定。錬成した肉」


「…あっ(察し)」


 シャンタク鳥が怯えている理由は判明した。

 どうやら過去に虹色の肉を食わされそうになったようだ。

 そりゃ怯えるわな。


 このままプルプルされても事態が進行しないし、

 ベルを後ろに隠して話をつづける俺。


「えっとそれでどうして…」


『ぎゅるるるるっ』


 突如大きな腹の虫が聞こえる。

 発信源はシャンタク鳥。

 それと同時に地面に体を伏せて弱弱しく鳴き声をあげる。


「がう…」


「もしかしてお腹すいてるのか?」


「きゅーん」


「ふむふむ。翻訳するのじゃ」



 クロネ翻訳の元、

俺はこのシャンタク鳥が置かれていた状況を把握する。


 主人にここで待っていて訪れた人間を驚かすように言われてずっと待機していたらしい。

 しかも3年。餌も貰えず過去渡されたのは虹色に輝く肉のみ。

 いじめかな?


 弱弱しく地面で伏せているシャンタク鳥を見ているとクロネが俺の手を握りしめながら俺の目にアイコンタクトを送ってくる。

 …わかってる。やるべきことはな。


「クロネ、家から食べ物持ってきてもらっていいか?」


「うむ!もちろんなのじゃ!」


 しばらくして昼ごはんの残りをクロネが持ってくる。

 多めに作っておいてよかった。


「がう?」


「ほら食べていいぞ。よく言いつけを守ったな。

 偉いぞ~」


「がう!」


 俺とクロネに撫でられ嬉しそうに涙を流しながらご飯を食べるシャンタク。体はごついがなんだかとても可愛く見えてきた。

 あのちゃらんぽらんの命令をしっかりとこなしていた良い子だしな。


 ご飯を食べ終えたときにはシャンタクは俺とクロネにすり寄ってくるほど懐いていた。愛い奴め。


「うちに来るかシャンタク?ここにいるよか良いだろ」


「うむ。それがよいのじゃ」


「…がう?」


「『命令違反じゃない?』だそうじゃ」


「大丈夫だよ、俺はあいつと仲がいいからな。

 もし文句言ってきたら俺がガツンと殴ってやる。

 ……いやむしろ殴ってやる。…無条件で帰ったら殴ってやる」


「…そうじゃな。我も殴ろうかの」



 こんな健気な眷属を蔑ろにした奴の顔を思い浮かべながら俺とクロネはそう決意するのだった。


「がう!」


 嬉しそうに俺とクロネに顔をこすりつけるシャンタク鳥。


 こうして我が家に新たな家族が1匹増えましたとさ。




 今日も我が家は平和です。




 ◆◆◆◆◆



 ―――ちなみにその後。


「おーお帰りナユター!

 …あれシャンタク鳥じゃん。何でいんの?」


「…ニャル」


「…なに?」


「正座しろ」


「えっ?…いやなんで」


「…いいから…さっさと正座するのじゃ」


「……はい」



 眷属を蔑ろにしていた駄神はそれはもう修羅のように怒り狂ったナユタとクロネに正座のまま半日説教され続けましたとさ。

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