第47話 奥さんへの隠し事はやめよう
久々に雨が止んだ今日、代わりに起きていたツァトはお眠りになられた。
知ってた。
新しくうちの家族になったシャンタクは無事、
我が家の家族として溶け込みました。
今も楽しそうに背中に猫たちを乗せて庭の空を飛んでいる。
体も猫と同じくらいまで小さくすることもできるので特に困るところもないし、俺とクロネに懐いているので小鳥のような感じで可愛いものです。
猫やシャンタクが外で遊んでいる今日この頃。
俺やアサト、ヨルトやクロネやニャルはリビングでテレビを見ている。
ネムトはソファの横ですやすや。
タイトルは「侵略!隣星の晩御飯!っす!」
いつもは違う番組を見ているタイミングなんだが…
「これこれ!この番組にクアチルたんが出るんだよ!」
とニャルが見たそうにしていたので現在この番組である。
内容はよくあるアイドルとかが突然お宅にお邪魔して晩御飯を頂くというもの。少し違うのは隣の家ではなく星なところだろう。
……一歩間違えれば宇宙戦争では?
「…はーいっす!どうもー!クアチルっす!
それじゃあ今日はこの『惑星D』に住んでいる生き物を尋ねた後、
晩御飯を食べさせていただければ…と思うっす!」
クアチル・ウタウス…これがニャルお気に入りのアイドルか。
どんな神かは知らないが明るい元気っ子っといった印象だな。
「…あっ早速第1村人発見っす!早速話しかけてみるっすよ!
すいませ~ん!」
その辺を歩いていた人型の何かに近寄るクアチル。
その相手は全身真っ黒の人型のネズミだった。
……なぜだろう…テーマパークで見たことあるようなシルエットだ…。
「すいませんっす!
突然なんですが今日の晩御飯ご一緒してもいいっすかー?」
その言葉を聞いたネズミ人が牙の出た口を開いて振り返る。
「コンバンノ ゴハンハ オマエダヨ! ハハッ↑」
『ピンポーン』
おや…?…誰か来たようだ。
テレビを見ている途中で来客が来たようなのでソファから起き上がり玄関に向かう俺。あの後、アイドルとネズミのバトルがあったらしいです。
◆◆◆◆◆
―――玄関。
「はーい。今開けまーす」
玄関に到着した俺がドアを開け目にしたもの…それは、
純白のワンピースを着ている年上のお姉さんっぽい方でした。
「こんにちは」
「はい、こんにちわ。えっと…」
「初めましてナユタさん。私はイホウンデー。
女神です。いつもうちの神がお世話になっています」
「ご丁寧にどうも。
知ってると思いますが俺は星野那由他です」
朗らかに挨拶をしてきてくれたイホウンデーさん。
うちの神って誰だろう?
疑問を口にしようとしたそのとき、
俺の腰のベルトになっていたベルが急に人型になって姿を現す。
「母。久しぶり」
「あら久しぶりねリベルギウス。
元気にしてた?よしよし」
笑顔になってベルの頭をよしよしする彼女を見ながら気づく。
…あれ?今、母って…?
「…ベル、お母さんなの?」
「肯定。私。父と母。合作」
ベルを作ったのはニャル。ニャルが父でイホウンデーさんが母。
「つまり…ニャルの奥さん?」
「はい。駄夫がいつもお世話になっています」
まさかの奥さん登場である。しかも普通に美人さん。
あいつこんな綺麗な奥さんいてなんで俺ん家で遊んでんだ?
とりあえずこのまま玄関で話すのもあれなので奥さんをリビングに案内する俺なのだった。
◆◆◆◆◆
『ガチャッ』という音を出しつつ扉を開けたそこはリビングです。
並んでリビングに入った俺とイホウンデーさんが見たもの…それは…。
「キャー!クアチルー!」
テレビの前ではしゃいでいる駄目な神様の姿だった。
「「 ………… 」」
無言のまま無表情になる俺とイホウンデーさん。
恐らく心境は一緒だろう。
無表情のまま固まって駄目な奴を見ていると駄目な奴がこちらに気づく。
俺の隣に誰がいるのかも。
「…おっナユタ!誰がき…たん…だ?…」
「……あなた?どうしたんですか?そんな『馬鹿な何故ここがばれたんだ?』みたいな顔をして?前から知っていましたよ?」
顔面蒼白になって固まるニャルの図。
どうやら立場は奥さんの方が上のようだ。
「…えっ?何で?…処刑?処刑なの?」
だんだんパニクっているニャル。
ガクブルである。
それに満面の笑みで答える奥さん。
「今日はあなたがいつも世話になっているナユタさんに挨拶に来ただけなので…メイデン送りは勘弁してあげましょう」
「やったぜ!!!」
ガッツポーズし処刑を免れてたことで気を緩ませるニャルの後ろから小さくて可愛いサイズのシャンタクが奥さんに向かって飛んでいく。
「ぎゃう!」
「あら!シャンタクちゃん!
最近見ないと思ってたけど無事だったのね~
…でもどうして急に家からいなくなったの?」
「ぎゃうー!」
そう問われたシャンタクは指さしならぬ羽さしでニャルを指さす。
少し口に手を当てて考え込んだ後にイホウンデーさんは何かを察したのか満面の笑みのままニャルに近づく。
「…あ・な・た?…どういうことかしら?」
「い、いや~…これには海よりも高く、山よりも低い事情が…」
海から出てるし、山より下だから普通に地面だ。
要するに大した事情ではないと。
ニャルの頭を鷲掴みにして歩くイホウンデーさんと引きずられるニャル。
その間ニャルの顔はこちらに向いている。
「…ナユタ~助けて~」
「無理」
すっぱりと断るとニャルの表情が拗ねたものへと変わる。
が、どう考えても自業自得です。
「ナユタさぁ~んあなた私の友達でしょう?
友達なら助けてくださいよ~お願いすぃますぅよぉ~」
くっそうざい顔でくっそうざいことを言ってくる駄神。
流石に鬱陶しいので今回は冷たくあしらうことに決定しました。
ニャルにゴミを見るような目を向けて話しかける。
「…そうかー友達だったら助けないといけないのかー」
「へへっそうっすよせんぱぁい。だから…」
「そうかー。俺なんだが『友達』って単語をもっと安易に使ってもいいような気がしてきたわー」
「…えっ?」
「じゃあこれからもよろしくお願いしますねニャルラトホテプさん」
困惑するニャル。俺の言っている意図に気づいたようだ。
「……ぼ、僕と…な、ナユタ君は…しんゆー…」
「はっはっはー冗談きついですよー無貌の神・ニャルラトホテプ様~
親友なんて恐れ多いですよ~ただの友達ですよ~ただの~」
「…(・ω・)<そんな~」
口をパクパクしながら奥さんに連れていかれるニャルはそのまま庭の方向へと消えていくのだった。
◆◆◆◆◆
それから30分後くらい。
テレビを見終えて眠ったアサト、ヨルト、ベル、ネムト、をクロネと一緒に撫でて待っていると庭の方からイホウンデーさんが帰ってきた。
「お疲れ様です。あいつは?」
「はい。今、外で明日が晴れるようにお祈りさせてます」
彼女の指さす方向を見るとそこには庭の入り口のところに布団でぐるぐる巻きにされ足を縄で縛られ屋根に吊るされている悲しい神の姿がある。
さらにその表情はなんというか死んだ魚のような目になっており俺をずっと見つめて、ぶつぶつと何かを呟いている。
「…ボクハ…ココニイルヨ?……オロローン……オロローン…」
…どうやら俺がさっき遠まわしに言った「お前なんか友達じゃない」
発言がそこそこ効いているようだった。反省なさい。
そっと俺は視線を外しイホウンデーさんに戻す。
「それでは改めて。夫がいつもお世話になっています。
それとシャンタクちゃんの件、ありがとうございました」
「いえいえ、
一応あれの力を借りたりしながらここで楽しく暮らしてますから。
気にしないでください。
そういえば…シャンタクは連れて帰りますか?」
「いえ、無事ならそれでいいんです。それにあの子もここやナユタさんのことを気に入っているようですし…ね?シャンタクちゃん」
「ぎゃう~」
俺の肩に乗って頬ずりするシャンタク。
大きさが小さいと大きい時よりさらに可愛いいんですよこの子~。
声も「がう!」だったのがミニマム化して「ぎゃう!」という小動物のようになってたりと、もはや我が家のアイドルの仲間入りです。
「よしよーしグッボーイ」
「ふふっ…やはりあなたは不思議な力でもあるのかもしれないですね。
神も神話生物もみんなあなたと仲良くなるんですから」
「まさかまさか。俺だけだったら何もできないですよ。
それこそあそこで可愛い寝息を出している妻たちのおかげです」
「ご謙遜を。
私は知っていますよ。あなたの凄さを」
…凄さ?えっ俺の?
……腕力…妻に負けてるし…知力…ナッシング!…魔術知識…そこそこ…
…せいぜい神の撫でられて気持ちいいところを知ってることくらいしか誇れるところないんだけど?あと猫語
「いつも退屈そうに三千世界を眺めていたうちの主人が、
最近は心から楽しそうなんですもの」
「……あいつならいつも楽しそうですけど?」
「それはナユタさんに出会ったからですよ。
ナユタさんと知り合い、友達になる前は……いつも退屈そうにしていましたから」
「…へーあれがねー」
庭のニャルニャルぼうすを見ながら頬をかく俺。
そう言われると少し恥ずかしいな。
……しょうがない。もう少しだけ優しくしてやるか。
笑い合った俺とイホウンデーさんがふと庭のニャルに目を向けると…。
そこには怯えるニャルと吊るされているニャルをキラキラした目で見ているクトゥグアがいた。…あっ(察し)
躊躇わず着火するクトゥグア「いやぁぁぁぁ!」と悲鳴をあげるニャル。
その光景を見て思わず顔を見合せ、
また笑い合う俺とイホウンデーさん。
しゃーない。消火に行くか。
立ち上がった俺にイホウンデーさんが一言渡してくる。
「ナユタさん、どうかこれからも主人の良き友人でいてくださいね」
「うす!任されました」
会話を終えた俺とイホウンデーさんは庭へと向かう。
俺とイホウンデーさんで共通している現在、庭で燃えている
「お茶目で駄目な神様だけど大切な奴」を助けるために。
今日も我が家は平和です。
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