第45話 雨の日は家で遊ぼう (天)

 ザァーッという雨音で目が覚める。

 …おはようございます。


ベッドから起き上がる…前に周りで寝ている妻たち+1冊の頭を撫でる。


 よし良妻エネルギー補給も終わったし、動くか―。


 寝室から出て洗面台に向かう俺のポケットの携帯が鳴る。

 …こんな朝っぱらから電話?…誰だろ?



『…私ニャリーさん…今ベッドにいるの…』


「………『ピッ!』」


 間違い電話だった。


 ◆◆◆◆◆


 顔を洗って髭を剃る。

 そんなに濃くないからって剃らなかったら女の子に知らないうちに嫌われたりしちゃうから気を付けましょう。


『ピリリリリリッ!ピリリリリリッ!』


 ……『ピッ!』


『私ニャリーさん…今トイレにいるの…「ピッ!」』


 …よし!顔も綺麗になったしあとは口の中かな。


 ◆◆◆◆◆


 歯を磨くことすなわち心を磨くことなり。


『シャカシャカッ!』と歯を磨く俺。


 裏とか歯茎とかしっかりな。

 血が出るのは悪い血が出ておるんじゃよ。


 歯医者の人みたいなことを頭の中で言っていたそのとき、

 再度携帯が鳴る。…しつけぇ。


『「ピッ!」……私ニャリーさん…今あなたの口の中にいるの…』


 そう言われた俺は落ち着いて咥えていた歯ブラシを口から出す。

 すると…、


「おはよーナユタ!」


 歯ブラシが喋りだした。


「今日はこんな感じのサプライズだよ!驚いた?びっくりした?」


 クネクネしながら人語を喋る歯ブラシホテプ。

 どうやらメスのようです。


 歯ブラシを持ったまま無言でリビングに歩いて移動した俺はある物の前に行く。そこにあるのはそこそこ高性能のシュレッダー。

 いらない新聞とかを『ガーッ』してくれるすごい奴です。


「……あのナユタ?…それシュレッダー…」


 無表情の俺はシュレッダーに歯ブラシを放り込む。


「…あああああああああ」


 小さな悲鳴とともに歯ブラシはシュレッダーの中に消えていく。


 …よし!日課も終わったし!朝食作るか―。


 こうして今日も俺の一日が始まるのだった。





 ◆◆◆◆◆





 今日も今日とて雨にて候。


 俺はクロネと一緒に昼ご飯を作っている。


「クロネー、そっちの肉じゃがどうだ?」


「問題ないのじゃー。ポテトサラダはどうなのじゃ?」


「んーもうちょい。…っと皿持ってっとかないとな」


 と俺が思ったそのとき俺の後ろで猫たちが隊列を組んでいる。


「にゃ!にゃにゃにゃんニャ!」


 …ふむふむ、「皿は任せるにゃ!」とのことです。

 よくできた猫です。なでなで。


 俺が皿を渡すとそれを物凄いバランス感覚で頭の上に乗せ、

 すらすらと食卓へと持っていく猫達。やりおる。


「そう言えばクロネ」


「なんじゃ?」


「この猫達もう別に狙われたりとかしてないんだろ?

 元の場所とか戻んなくてもいいの?」


 後ろから俺にそう聞かれたクロネは、

 少し苦笑いしながらその答えを返してきた。


「元の場所に帰るかと聞いたら『ここがいい!』と返されての。

 だいぶここでの生活が気に入っておるようじゃ。

 ナユタが帰したいならそうするがの?」


「いや、あいつらがいいって言ってんならいいよ。

 帰る場所でもあるんじゃないかなって思っただけだからさ」


「そうか、ならよかったのじゃ」


「ああ…って熱っ!?」


 喋りながら料理をしていた結果、近くにあった鍋に指が当たってしまい火傷してしまいました。


 おおっナユタよ!火傷してしまうとは情けない!


「にゃっ!?ナユタ大丈夫かの!」


「軽いやけどだし多分大丈夫かな」


「ちょっと貸すのじゃ」


 火傷した指をブンブン振っていると近くに寄ってきたクロネが突然俺の指を咥える。


「はむっ……どうじゃ?痛くなくなったかの?」


 どうと言われても…必死に俺の指を咥えてくれている妻がとても可愛らしいという感想しか出てきませんハイ。


 可愛い過ぎる妻を抱きしめたいという衝動に素直になり、

 指を咥えさせたまま後ろにまわって空いた腕でクロネを抱きしめる俺。


「…どうしたのじゃ?」


「…いや、クロネが可愛すぎてつい…」


「そ、そうか…それなら仕方ないのじゃ…」


 しばらく甘噛みをしてくるクロネを抱きしめて二人だけの世界で見つめ合ってました。夫婦の特権ですね。


 ―――ちなみに…。


「にゃんにゃあああああ(鍋が沸騰してるにゃ!)」


「にゃにゃにゃん…にゃっ!(火を消すにゃ!…早く!)」


「にゃっ!(わかったニャ!)『ガチャ!…ボッ!』」


「にゃあああああああ!(それは強くするほうにゃ!)」


「ぎにゃあああ!(熱い!肉球焼けたにゃ!)」


「にゃんにゃにゃっニャ!(早く火を消すにゃ!)」



 俺達が自分達だけの世界に入り込んでいたそのとき、

 猫たちが鍋と奮闘していた。



 ◆◆◆◆◆



 ―――一方その頃。


 ナユタがクロネとイチャイチャし、猫たちが鍋と戦っていたその頃。


 リビングでは6柱の神達が静かに(?)戦いを繰り広げていた。


「がはははははは!金じゃー!金じゃー!」


「領地ゲット!順調です!」


「いまのところはな」



 対戦型ボードゲーム「転生したら没落貴族でしたww」


 人生ゲームに領地を管理するルールを加えたもの。


 最後にお金と領地の多い方が勝ちという少し変わったルール。



 こちらのチームは、

 ニャル(男らしい女)、チャウグナー、ツァト(エコモード)。

 いわゆる3駄神チームである。


 序盤にお金と領地を手に入れてそこそこ調子に乗っているニャルとチャウグナーを盤面を冷静に眺めているツァト。


 対するチーム。

 現状負けているが落ち着いた様子で状況を見極めている、

 アサト、ヨルト、ネムトのナユタ奥様チーム。


「…対抗カード…集まった…」


「お姉ちゃんそろそろ攻めたほうがいいかも」


「敵ー防御ー手薄だよー」


 虎視眈々と戦況を見て油断しまくりの敵を観察する奥様達。

 反撃はもうすぐである。


 優位をとったことにより油断しまくりで無警戒の3駄神チームで警戒しているのはツァトぐらいのものだった。


「これであたしたちの勝ちね!はっはっはっは!」


「じゃんじゃん領地を手に入れましょう!

 後で沢山、納税で血を絞らねば…ゲヘヘヘヘ!」


「…お前ら少しは警戒しろよ?

 相手が後手に回っているから私たちが有利なだけなんだ」


「でぁっはっはっはっは!ツァトグアどん!

 この程度あたしにとってはおちゃのこさいさいよぉ!」


「我ら!このくらい実力の半分も出していませんよー!」


「…はぁ…こっちで対処しきれるか…?」


 慢神2柱を呆れた表情で見つつも、

 自分の手持ちで何とかしようとするツァトグア。


 だが組んだのがこの2柱だった以上、結末はなんとなーく見えている。



 ◆◆◆◆◆



「…ごめんて。つい幸せな気持ちになっちゃったんだって…」


「にゃぁぁぁ…」


「…す、すまぬのじゃ…

 今度、猫缶の新商品を買ってくるから許してほしいのじゃ…」


「……なー…(プイッ)」


 正気を取り戻し周りの惨状に気が付いた俺とクロネ。

 今はやけどをして拗ねてしまっている猫達を治療しながらご機嫌を取っている。


「悪かったって…猫缶と…それに高級マタタビボール買ってやるから機嫌治してくれって」


「…………(プイッ)」


「…それに爪研ぎセットもつけるから」


「………ニャッ!ニャニャ!」


 猫高級品3点セットを聞いて『ピクンッ』と耳を動かした後、

「…それで手をうつにゃ!」とっ返事を貰えたことでようやく安堵のため息をつく。



 それと同時に隣から、


「…私たちの…勝ち…」「やったわ!」「しょうりー」


 という声と、


「…あーあーあー」「馬鹿なぁ私が負けるなんてぇ!」「…しってた」



 という声がこちらに聞こえてくる。


 どうやら妻たちが勝ったようだ。

 つまりゲームも終わったってことだろうし、あちらに出来上がった料理をもっていかなきゃな。


「…っし!んじゃ料理運ぶかクロネ」


「なのじゃ!」


「それと…改めて手伝ってくれるか?」


 猫達にそう問いかけると元気に「ニャッ!」という了承が返ってくる。

 機嫌が直ったようでなによりだ。


 料理をリビングに持っていくと、

 机に突っ伏しているニャルとチャウグナー、そしてそれをジト目で見ているツァト(エコ)が目に入る。


 多分あいつらがやらかしたんだろうなぁ。


 俺とクロネも同じようにジト目で見つつも料理を並べる。


  こうしてナユタ家は無事、昼食に辿り着いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る