第44話 腹八分目で我慢なさい
ハイどうもナユタさんです。
現在は6月、梅雨の時期ですね。
外に出られない分屋内でゆったりと出来る落ち着いた季節です。
えっ?「いつも屋内だろう?」……知らんな。
今日も今日とて梅雨時のじめじめした雨。
庭でも「ゲコゲコ」「ケロケロ」「テケリ・リ!」という元気な声が聞こえてくる。…あれ?なんか混じってね?
いつも通り平和な日常を送ろうとしていたんだが…梅雨の影響で予想以上に影響があったようだ。それは…。
「ぬわーっ!じめじめ暑くて快眠できぃーん!!!」
とこんな事情で今現在、世にも奇妙なツァトが普通に起きている。
怪奇現象に近いかもしれない。
というか…なんか姿が変わっている。
いつもは大人の女性の体だが今は14歳のくらいの年齢に変わっている。
「なんで体小さくなってんだ?」
「起きているときになるべく体力を消耗したくないからな。
省エネだ。寝るときにこそエネルギーを使うべきだろう?」
「…いや、どう考えても逆だと…」
「そんなことよりナユタ!」
いつもより幼くなった容姿のツァトが神妙な面持ちでこっちを見る。
「…なんだ?」
「飯!」
…こいつ…。
どうやらこいつの中には寝るか食べるかの選択肢しかないらしい。
アサトたちはソファーで寛いでテレビを見ているし、今はやることもないのでまぁいいとするか。
まず最初はラーメン。
「うまい!」
次に
「肉と野菜のバランスがいいな!」
お次はシチュー。
「濃厚でいい味だ!」
その次、カレー。
「定番だな!ラッキョウくれ!」
…こんな調子で料理を作り続けること4時間。
さすがにいい加減にしろ。
「はい!ここまで!注文しゅーりょー!」
「ええええええ!!!
まだ食い足りないのか駄々をこね始めるロリ駄神。
やっぱこれ体に引っ張られて精神年齢も幼くなってんじゃねぇか。
だが別に俺はロリコンではないからな。
はっきりと「No!」で断っておく。
「…ちっ!まあいい。腹八分目くらいだろ多分」
「……おなかが妊娠何か月みたいになってるけど?」
これを見て思い出すのは学校で飼われていたメダカだ。
とか何とか話しているうちに急にツァトの顔色が悪くなる。
ぷるぷる震えながらこちらに首を向けつつこちらに放った言葉、
それは…。
「…おなか痛い…」
「…お前小さくなると頭悪くなってないか?」
「…省エネモードだしな!」
「…はぁ…いいからおトイレ行ってきなさい」
「はーい」
とぼとぼとトイレに消えるツァトを見送ったとき、
かわりに俺の傍に来たアサトとヨルトが何やらこちらをジーっと見てくる。
「どった?」
「…ん…私達も…作ってほしいの…ある…」
「ああ…そういう。よし来い、なんでも良いぞ」
「えっと…じゃああれ作って!」
アサトとネムトが指さす先、そこにあったのはテレビ。
そしてそこに映ってたのは料理番組。
そして芸人たちがフカヒレスープを食べていいる所だ。
「フカヒレ?」
「ん」
「食べたことないから食べてみたいなって。
……ダメ?」
「駄目ってことは無いんだけど…」
調理自体は問題ない。
魔術師になる前から暇つぶしの趣味で料理をしていた俺に死角はないんですよ。
決して友達の中に料理ができる奴が少なかったわけではないのだよ。
探偵事務所の料理番だったわけではないのだよ。
問題はフカヒレ。
どこにあるかなー…スーパーにはなかった気がするな。
そう考えていた俺の服をさっきまでネクタイピンの姿だったベルが人型になって引っ張る。
「鮫。データ在り。
連続の錬成にて生成可能。実行?」
「おお、その手があったか」
なんとこの魔導書ちゃんは鮫を錬金術で作ると言い出しました。
便利ですね。さすがマイ魔導書!
俺はベルの頭をなでなでしつつお願いする。
「よし、じゃあ頼む」
「了解」
もくもくと床に錬金術用の陣を描くベル。
……これ材料…家の床なのでは?
そしてしばらくすると床が光りだし錬成が始まる。
目の前が見えなくなるほどの激しい光が収束し消えたその場所には…。
「完了」
「「「 ……… 」」」
そこに錬成されていたのはまぎれもなく鮫だった。
見事なまでに立派な鮫。どこからどう見ても鮫。
ただ一つ、虹色に光っていることを除けば…。
色鮮やかだなー。
俺は黙ったまま「門の創造」を発動。
虹色の鮫を隣の部屋に転送する。
これは食べれないわ。
『……ぎゃああああああ…』
ニャルの部屋から何か聞こえた気がするが気のせいだろう。
どうやらうちの子は料理と錬成によって生み出す物は全て、
虹色に輝くトラぺゾヘドロになるようです。
生産性皆無だな。
さて…これでまたフカヒレの入手経路が経たれてしまったわけだが、
どうするかなー?
と今度はクロネに抱っこされたネムトが眠そうな顔をこちらに向け話しかけてくる。
「旦那様ー」
「…ん?どした?」
「えっとねーフカヒレならー多分ルルイエにあるよー。
ときどき周りにいる鮫を狩ったりしてたー」
「おお、ナイスアイディア!」
そう言えばあそこは海の上だったな。
確かに鮫くらいならいそうだ。
そして鮫より強い方々もわんさかいたな。
そうと決まれば善は急げだ。
俺は家の主のネムトを抱き抱えてルルイエに門を開き出発しようとしたそのとき、後ろから呼び止められる。
「ナユタ!」
トイレから生還し仁王立ちでこちらを見ているツァトが叫ぶ。
「たこ焼き食いたいからタコも頼む!」
「お前は少しは懲りろ」
◆◆◆◆◆
はい。やってきました。ルルイエの中。
…のはずだったんだけど…
今現在、俺は広い海の上に抱き抱えているネムトと一緒にいる。
あっれー?おかしいな?
ルルイエに門を開いたはずだったんだけどなー?
とやっている俺にネムトがツンツンする。
「なんぞ?」
「いまー、時期揃ってないからールルイエ沈んでるー…よー?」
「あー…そういや普段ルルイエって沈んでんだっけ?」
「うんー」
場所があってても家が沈んでるならそりゃ海の上に出るわな。
はーい。下に参りまーす。
◆◆◆◆◆
魔術の泡の中で寛ぎつつ下に参った俺達は海の底でㇽルイエを発見。
前回と同じで立派な扉ですね。
で、扉を開けようとしたんだが…開かない。
ガチャガチャしても開かない。
しゃーなし、抱きかかえている妻に聞くとしよう。
「これどうやって中に入んの?」
「んー?そこにインターホン―」
「インターホン…あるのか…」
よく見ると確かにインターホンがある。
これで中の人(?)を呼び出せばいいんだな。
中の誰かを呼び出すために俺はインターホンを押す。
『イアーイアーイアーイアー』
……これは果たして呼べているんですか?
困惑しながら待つことしばし、
インターホンの音が途切れて代わりに声が聞こえる。
「…はーい。すいませんがセールスはお断りですよー」
対応し慣れた女性の声、と言うか聞き覚えがあったので誰かはすぐにわかった。ヒュドラさんだな。…ていうかここセールス来るの?
「あーヒュドラさーん。ナユタですけどー」
「…!?…ち、ちょっと待っててください!」
インターホン越しでもわかる。めっちゃ慌ててる。
『ドタドタ』という音がこっちに聞こえてくるもの。
何らかの方法で連絡すればよかったな。
後の祭りだけどね。
5分ほどした後、大きな玄関が開けられる。
そこには少し肩で息をしているヒュドラさんがいた。
「…はぁ…はぁ…お待たせしました。
すいません、お越しになるとは思っていなかったもので…
出迎えが遅くなってしまい…」
「いやこっちこそすいません。連絡しとけばよかったですね」
「いえいえ!お気になさらないでください!」
「いやぁ急に来たのはこっちですからね。…なっネムト」
「んー…ごめんねぇーヒュドラちゃんー」
「…えっ!?…あっ…いえっ…お気遣いありがとうございます…」
先ほどまで普通に話していた彼女がネムトを見た瞬間物凄く驚いていた。どうかしたのかな?
「えーと…それで今日はどうしてこちらに?」
「あーそれはですね…」
彼女に今回、ここに訪れた目的を話す。
フカヒレを求めて深海にきました、と。
「…なるほど…鮫なら今日捕ったものがありますので今、下っ端に持ってこさせましょう」
と快く返事をくれるヒュドラさん。
すいませんね。急に尋ねて来た挙句、
「フカヒレください!」
なんて失礼なお願いして。
すると懐から携帯電話を取り出すヒュドラさん。
あれで下っ端さんにお願いするんだな。
『はいーもしもしー?』
「あっあなた?今日捕れたフカヒレ持ってきてください。大至急で」
『…へっ?なにいきなり?』
「…早くしないとあなたの持ち物全て海に流しますよ?」
『すぐに持っていきます!』
「『ピッ!』…下っ端がすぐに持ってくるのでお待ちください」
下っ端…っていうか今のダゴン君じゃ?
ダゴン君はどうやら家では妻の尻に敷かれているようです。
えっおれ?うちはほら…一心同体だから。
待っている間に暇だったので気になったことをヒュドラさんに質問することにした。
「あのヒュドラさん、
さっきネムトを見たときなんで驚いていたんですか?」
「ああ、先ほどの、ですね。
…実は…星辰が揃っているとき以外はほとんど行動なさらなかったネムト様が…眠っているときに行動なさっているのを初めてみたので驚いてしまいまして…」
「…えっ?」
普段から割と眠っている状態でも行動しているところをよく見る俺としては初耳だ。
意外に感じた俺は妻自身に聞いてみる。
「そうなのかネムト?」
「…んっとねー前は眠い時はねー動きたくなかったのー」
「…じゃあ今は?」
「いまはねー寝てるのよりもー旦那様と一緒にいる方が幸せなのー」
そう言いながら嬉しそうに俺に抱きつくネムト。
言われる俺として感極まる。可愛い妻よのう。
ぎゅっとネムト抱きしめて長い髪の下にある可愛いおでこに俺のおでこをくっつける。
この大事な温もりはコタツの中から偶然見つけだした俺の大切な宝物だ。
いままでも…そしてこれから先も…ずっと。
そんな感じで俺とネムトがイチャイチャしていたそのとき。
それに割り込んで遠くから遠投された鮫が滑り込んでくる。
『ズザサササァーッ』
鮫のスライドが止まった後、
その後ろから軽~い感じでダゴン君が出てくる。
ちなみにあま~い雰囲気は台無しです。
そしてヒュドラさんがプルプルしてます。
「あーっナユタさんちーっす!いやぁ来てたんで『ガシィッ!』
痛い!?顔が割れる―!」
「せっかくの!いい雰囲気が!台無しですよ!この馬鹿夫が-!」
「ああああああああああああ」
怒りに満ちた奥さんのアイアンクローを受け、
引きずられながら奥へと消えていくダゴン君。
その後、彼の行方を見たものは…いなかったという。
※生きてます
尚、持ってきてもらった鮫を持って帰ったおかげで、
うちの今晩のご飯は鮫のフルコースでした。
タコ?忘れていたのでスーパーで買いました!
ちなみに食べたアサトたちの感想は、
「…ん…ワンタンのほうが好き…」
「高級な割にそんなに美味しくないんだ」
あんまりお口には合わなかった模様です。
ぶっちゃけ俺もそこまで美味しいとは思わなかった。
今日も我が家は平和です。
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