第42話 すいません俺がやりました
―――沖縄県警特殊捜査課「神話係」
室内には緊張した雰囲気が流れている。
理由はここを任せられている常盤が電話をしている相手のせいだった。
人の限界を超えた魔術をたやすく扱う、神と人間の中立的存在。
「星野・那由多」
協力を得られれば今彼らに起こっている問題は解決に近寄ることが出来るだろう。だが相手は神すら従える者。ある意味危険な賭けに近かった。
…那由多を知っている常盤と相楽以外には…。
とそのとき、通話をしていた常盤の横に「門」が現れる。
それに驚愕する特殊捜査課の者たち。
当然だ。ここには転移などの魔術を妨害するためにいくつもの呪術や陰陽術などを組み合わせた妨害術式が張り巡らされていた。
しかしその「門」はそのど真ん中に現れたのである。
驚かないほうがおかしかった。
そして門から一人の人物…と彼の腕に抱き着いた女性が常盤の横に現れたのだった。
「お疲れ様です常盤さん」
「那由多さん、わざわざこちらに来てもらってすいません」
「いえいえ。これくらいなら別に構いませんよ」
「…ところで腕に噛みついている彼女は…」
状況をガン無視して那由多の腕にはむはむとしているチャウグナーを気にする常盤だがそれを那由多は気にしない。
「付録みたいなものなので気にしないでください。一応、無害です」
ごり押しでチャウグナーをスルーさせた那由多はさっさと要件を済ませるために常盤に
「これがロリコンのなれの果てです。後はよろしくお願いしますね。
呪い漬けになってるんでしばらくはおとなしいと思います」
「わかりました。…おい!これを地下に封印しておけ」
彼の一声で部下たちが元は神のゴミ袋を持っていく。
「おかげで助かりました。今うちは忙しいもので…」
「そうっすよ~。鬼の先輩のせいで残業三昧ですよ~」
常盤の横にシャツがズボンからはみ出している相楽が歩いてくる。
「ああ、相楽さんどうもです」
「どもっす那由多さん!いや~こっちも大変だったんですよ~。
福岡のあたりにあった…」
とそこまで言ったところで毎度の恒例行事のように常盤に拳骨をくらう。
「何度も言うが簡単に事件についての情報を話すんじゃない!
…まぁ那由多さんなら問題はないが」
「ならなんで殴ったんっす!?」
「今後の教訓だ」
いつも通りの二人を見ながら苦笑いの那由多が先ほど常盤の言いかけた言葉について問いかける。
「福岡で何かあったんですか?」
「ええ、実は…福岡にあった危険思想の教団が一夜にして姿を消したのでその調査をしていたんです」
それを聞いた那由多は「ん?」という顔。
なぜなら最近彼も福岡にカチコミに言ったらである。
「……どんな奴らだったんですか?」
「この世から福岡以外を消し去るとか言っていた狂信者たちです。
名前は確か…『福岡修羅教団』だったと…
奴らがいた場所の調査の応援に行ったらあの化け物たちが沢山いて交戦に…って那由多さん!?何で正座してるんですか!?」
常盤が話している途中、特に教団の名前を出したあたりから那由多はもう床に正座し始めていた。
なぜなら思い当たるどころか原因が自分だと自覚したからである。
「すいまっせんっ!その教団潰したの俺なんです!
すいません!」
とても流麗な動きでDOGEZAをする那由多。
開き直って「なんか文句でも?」と言えないあたり…小心者である。
世界を支配できるクラスの人間の土下座に室内は混乱極まる。
もはやカオスである。
「…えーとつまり…あの教団を消したのは那由多さん…ということでいいんですか?」
「はい…すいません俺がやりました…」
と会話がここまで言ったそのとき、もはやナマケモノのように那由多の腕にしがみついていたチャウグナーが「カッ!」と目を見開き声をあげる。
「…ちょっとまったぁー!あの教団を退治したのは那由多さんだけではありませんよぅ!トゥッ!」
空中でくるくると開店した後着地、そしてポーズをとる。
「今日も今日とて血を貪ります!チャウグナーフォーン!」
そして今度はその横に空間の穴が開きもう1柱が横回転しながら現れる。
そしてやはりポーズをとる。
「なんだかんだで今日も暇!這い寄る混沌!ニャルラトホテプ!」
そうニャルラトホテプが言い終えた後、
その隣の地面からさらにもう1柱が湧いてくる。
「布団の中にも3年!平均睡眠時間は30時間!ツァトグア!」
3柱が集まり戦隊ヒーローのような組み合わさったポーズを決める。
その直後、特撮でよくある煙の良く上がる爆発。
室内では迷惑極まりない。
3柱が「決まった!」とドヤ顔をしているそのとき、
那由多がある場所を指さす。
そこにあったのは那由多が即行で作った門。
それを指さしながらアイコンタクトで「帰れ」と告げる那由多。
首をブンブン振る神3柱。
それを見た那由多が無表情に空間を超えて手を伸ばす。
まず取り出したのは…輸血パック。
「…あっ!それ冷蔵庫に入れてた私の非常食!」
その言葉を無視して無表情のまま、
門の中に輸血パックを投げ込む那由多。
「ああああ!まってぇ~!」という声とともにチャウグナーが門の中に消えていく。まず1柱。
次に那由多が取り出したのは…枕。
「……それは私のお気に入りの枕!」
ぶんぶんとスイングした後、その勢いのまま門の中に投げ込まれた枕を「私のお気に入り―!」とおって飛び込んで消えるツァトグア。
これで2柱。
最後に無表情のまま取り出したもの、それは…プラモデル。
「それはこの前、完成したガ〇プラ!」
静かに…そしてもはや鉄仮面を被ったかのような表情でガン〇ラを床に置く那由多。そして彼は少し後ろに下がって助走をつけ門に向かってどこまでもクレバーにトーキックをガン〇ラにかます。
「ちくしょおおお!あんまりだぁぁぁぁ!」
バラバラに砕け散ったガ〇プラを追って、
門に飛び込んでいくニャルラトホテプ。
こうして突如現れた3柱は撃退された。
「…えーと…一応言っておくと俺と妻の神4柱とさっきの3柱…
…と後は…ああ、そうそうクトゥグアもいました」
「…な、なるほど」
さっきあったことはどうやら忘れて会話を続けることにしたらしい那由多と突然の出来事の連続ですこし動揺している常盤。
と、ここである違和感に気づいた常盤が那由多に問いかける。
「…奥さんは2柱ではありませんでしたか?」
「あー…実は最近新しく2柱の妻と結婚したんです。
その…ヨグソトースとバーストと…」
その言葉に唖然とし、周りにいる人間たちが固まっている中、
相楽は「おーおめでとうございます」とブラック〇ンダーを渡し、
「どもです」と相楽にお返しのポテチを手渡していたそのとき。
『ジリリリリリリッ!』
那由多の携帯電話からアラームが鳴る。
「っとすいません。
そろそろ昼ごはん作らないといけないので失礼します」
「ハッ!?」と意識を取り戻した常盤がしっかりと言葉を返す。
「ご協力ありがとうございました那由多さん」
「いえ…諸悪の根源は俺だったみたいですから…
これくらいならいつでも言ってください。
それじゃ」
申し訳なさそうな表情の那由多はそのまま、門にはいって家に帰る。
その場に残ったのはだいぶ疲れた常盤とその部下たち、そしてもらったコンソメのポテチをもしゃもしゃしている相楽だった。
…尚、あとで気づいた常盤にまた拳骨をくらったそうな…。
◆◆◆◆◆
ゴミ袋を無事回収してもらった俺は家に帰って来た。
そして帰ってきた俺に妻たちが寄ってくる。
「…お帰りナユタ…」
「おかえりー」
「お帰りなのじゃ!」
「お帰り!ナユタ」
「おう、ただいま!そろそろ昼ご飯作るけど何がいい?」
俺としては気分はチャーハン。
パラパラとしたお米が食べたい気分だが…果たして…。
「…ラーメン…」
「海鮮丼ー」
「カレーじゃ!」
「ハンバーグかな」
……OH…バラバラ
「あーい。しゃあないし全部作るかー」
と意気込みキッチンに向かおうとするとさっきどっかに適当に飛ばした3柱が帰ってきた。
「血定食!」
「麻婆豆腐!!!」
「回鍋肉!」
こいつら…少しは誰かに合わせようという気はないのか全く…。
…はぁ…仕方ないか。
「ほいほい。すぐ作るから待ってろよ~」
「「「「「「「 イエーイ! 」」」」」」」
よっし…じゃあ作りますか。
今日も今日とて料理を作るが…まぁ、これはこれで楽しくていいものだ。
…ところで血定食って…なんだ?
今日も我が家は平和です。
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