第40話 女性の機嫌はしっかりと窺おう

 額に流れる汗を拭う俺。


「…ふ~いい汗かいた」


 家の中に入ってきた大きな害虫を無事駆除して黒色の中の見えないゴミ袋に入れ終えた俺は達成感に包まれている。


 ロリコン死すべし。慈悲はない。


 妻たちに襲い掛かってきたロリコンへの仕返しを終えた俺はふとこのゴミ袋の処理方法を考える。


 焼却炉にいれてもいいが…もともと捕まってたんだし、警察に引き取ってもらうことにしよう。


 そう考えたい俺は携帯を取り出し現役で警察の常盤さんに電話を掛けた。


「………あっもしもし?常盤さんですか?」

『……常盤です!すいません那由多さん!今…っ!?

 ……い、今忙しいので後でこちらから掛けなおします!』


 そう言った常盤さんは電話を切る。

 …どうやら今忙しかったようだ。とても焦ってたし。

 …しかしほんとに焦ってたな

 邪魔をしてしまったことが申し訳なくなるほどに。


 電話にも応対できないほど忙しかった常盤さんが何をしていたのか気になった俺はベルに頼んで常盤さんの現状を脳裏に映し出してもらう。

 すると…。


「…うわー…なにこれ…」


 そこに映し出された光景はなんていうかすごかった。


 ライオットシールドと魔術で壁を作り銃を撃っている沢山の人たち。

 そしてそれと相対し槍を投げつけているムーンビーストの姿。


 沢山の人間と沢山のムーンビーストによるプチ戦争といった感じの光景だ。そしてその中にお目当ての常盤さんもいた。


 ……なんちゅータイミングに電話したんだおれは。

 むしろよく電話とってくれたな常盤さん。


 事情はよく分からないがなんか大変そうだし、先ほどの申し訳ない一件がある俺は常盤さんの近くに門を創り出す。

 詫びもかねてちょっくら手伝ってくるか。


 そう思い門に入ろうとした俺の後ろで俺を呼び止める声が聞こえる。


「ナユタ!」

「ん?どうした?」


 そこにいたのはアサトとヨルトの姉妹神。

 二柱の可愛い妻たちだった。


「……ん…どこか行く?」

「えっと…ちょっと軽めの人類VSカエルに参加してくる」

「…ん…私も行く」

「私も行く!」

「それはダメ」


 銃弾や槍が飛び交う戦場に妻たちを連れていくのはご遠慮願いたい。

 たとえ2柱が俺より強くてもな。

 断られた2柱はちょっぴり悲しそうである。

 …いかん。フォローしなくては!


「…そんなに危なくないから心配するなって」

「……んむぅ…」

「……わかった。お姉ちゃんと一緒に待ってる…」


 聞き入れてはくれたが姉妹は不満そうだ。

 …俺の力になろうとしてくれているのはわかるが…さすがにな―。


「…あー…その代わりに戦うときにはアサトとヨルトの力を借りようと思うから…その時はよろしくな」


「…!…うん!…」 「わかった!」


 返事をした姉妹はハイタッチをしながら「いえーい!」といったご様子。

 機嫌が直ったようでなによりだ。



 こうして俺は2柱に笑顔で見送られながら門へと入るのだった。




 ◆◆◆◆◆


 ―――とある地下空間


 少しじめじめとしたその空間。

 本来は大きな空洞になっているだけの地下空間では現在、集められた特殊捜査担当の警察官たちが百体近くのムーンビーストとの銃撃戦を行っている。


 ことの発端は福岡に存在していた危険な宗教団体。

 その教団のアジトになっていた神殿が一夜にして消滅したことから始まった。


 異例の緊急事態に福岡担当の特殊捜索科は他部署に助力を要請。


 合同で更地になった場所を調査していた所、地下への入り口を発見。


 奥へと進んでいったところ異常な数のムーンビーストと遭遇して現状へと至った。


 そしてその戦場の中に、銃を撃っている沖縄県警の常盤と相楽の姿もあったのだった。


「ヒー!ヒー!先輩!全然減らないっすよ!」

「喋ってる暇あったらリロードして『ズドン』を繰り返せ!

 休んでる暇はないぞ!」

「鬼~!!!」


 激戦が続く中、突然常盤の携帯電話が鳴り響く。


「…チッ!誰だ…こんな時に……げっ!?」


「どうしたんすか先輩!?」


「…ナユタさんからだ…おい相楽少しこっちのやつらも相手頼む…」


「ええええええ!?」


「無視するわけにもいかないだろ!?

 すぐ終わるよう頑張るからそっちは任せた」


 すかさず電話に出る常盤。


『………あっもしもし?常盤さんですか?』

「……常盤です!すいませんナユタさん!今…っ!?」


 電話している際中の常盤の横を猛スピードでムーンビーストの槍が通り抜けていく。…もう少しずれていたら当たっていたかもしれない。


「……い、今忙しいので後でこちらから掛けなおします!」


 流石にもう一度、槍が飛んで来たら当たってしまうかもしれないので電話を返事も聞かずに切る常盤。元いたところに戻って再び銃撃戦を始める。


「電話切っちゃっていいんですか?」

「仕方ないだろ!

 …それにナユタさんならそんなことで怒ったりはしないだろう」


 そう話している二人の後ろに突如、魔術「門の創造」が開く。

 そしてその中から現れた人物に二人は驚く。


「お邪魔しま~す。あっ常盤さん、相楽さんお疲れ様です」


「なっ!?ナユタさん」


「おーナユタさんお疲れ様ですー」


 現れたのは先ほどまで電話をしていたナユタその人だった。

 現れたナユタは少しの詠唱の後に警察側全員を包む広域魔術防壁を発動。

 それによりその場にいた全員が先ほどまでいなかった一般人がいつの間にか現れていることに気づく。


「…いや~すいませんね。こんなに忙しい時に電話なんかしちゃって…」


「…い、いえそれはしょうがないと思いますが…」


「もしかして手伝いに来てくれたんすかー!」


「こら!相楽!」


 軽い言動をいつも通りしている相楽はいつも通り頭に拳骨をくらう。

 その光景を見ながらナユタは笑いながら答える。


「ええ。さすがに申し訳なかったですしね。

 じゃあ少しさせてもらいますね」


 そう言ったナユタは魔術でできた透明な壁の前に出る。

 そして姉妹妻二柱に念話魔術を飛ばす。


『おーいちょっとカエル掃除するから力を貸して~』


『……ん…了解…愛情込める…』

『うん!わかった。…えっと…頑張ってね!旦那様!』


 2柱の妻から愛情とともに送られた力を両腕に込める。

 右手は主神、左手は副神、それぞれの力を宿った拳を彼は力いっぱいムーンビーストに突き出す。


「受けてみろ!これが…姉妹丼パンチだ!」



 2柱の力を惜しみなく受け、振り抜かれる拳は空間を、次元を、理を、

 超越し薙ぎ払う。彼がラッシュで拳を突きだすごとに。


 数十秒後、そこにいたムーンビーストたちは片手で数えられるほどしか残っていない。ほとんどは跡形もなく消滅してしまった。


 常盤さん含めその場にいた人間たちは唖然とし固まっていた。

 隣で「おーすげー!」と言っている相楽以外は。


 もどってきたナユタが常盤に歩み寄る。


「…だいたい減らせたと思うんで俺は失礼しますね常盤さん。

 あーあと、用事があるので後で忙しくなくなったら電話していただけると助かります。…それじゃ!」


「…分かりました。残りを片づけたらすぐにします」


「お疲れ様で~す!ナユタさ~ん!」



 そうしてやることを済ませたナユタはそのまま門を開いて消えていく。


 その場に残ったのは突如現れた謎の魔術師に驚き固まった警察の人間達と数匹の怯えたムーンビーストだった。



 ◆◆◆◆◆



 ―――ナユタ家


 門から出て家の中に帰ってきた俺は出迎えてくれる4人の妻たちに視線を向ける。


 嬉しそうにこちらに走り寄ってくるアサトとヨルト。

 そしてその後ろで笑顔でこちらにゆっくり来るクロネとだらーとした状態でクロネに抱えられているネムト。


「……お帰り…」

「おかえり!ナユタ!」

「おかえりなさいなのじゃ、旦那様」

「旦那様ーおかえりー」


「ただいま」


 飛びついてきたアサトとヨルトを抱きかかえて俺達はソファーに向かう。

 会社帰りの夫ってこんな感じなのかな。




 …尚、その日の夜にゴミ袋が騒ぎ出しましたが睡眠を邪魔されたニャルとツァトが、「「安眠妨害反対」」と言いながらゴミ袋の中に数千の呪いを流し込んだことでおとなしくなったそうです。





 今日も我が家は平和です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る