第38話 昨晩はお楽しみでしたね!

 おはようございます。

 童貞を卒業した星野那由多です。


 布団から起き上がる俺。

 こ、腰が…

 20代後半で腰が痛くなる俺は老後大丈夫だろうか…いや魔術で体の老化はとまってるけどさ。


 俺の後ろでは幸せそうな寝顔が4つ。

 こちらを見つめる瞳が一つ。


「おはよベル」

「起床。おはようマスター」

「まだ寝ててもいいぞ?」

「装備後。二度寝」


 そう言ったベルは銀色のネックレスになって俺の首にかかる。

 俺に引っ付いているのが一番落ち着くんだとさ。


 他の妻たちを起こさないように部屋から出る。

 寝室から出た俺を待ち構えていたのは…予想通りニャルだった。

 そしていつの間にかキッチンが宿屋の受付みたいになっている。


「昨晩はお楽しみでしたね!」


「言うと思ったよ畜生!」


 言い終えて満足したニャルはキッチンをもとの姿に戻す。


「よかったじゃん魔法使いになる前に卒業出来て」


「…もう魔術師になってっけどな!」


「まあ幸せそうでなによりだなこっちも飽きなくていいし」


「まあ、始まり方からはここまで想像してはなかったな。

 ……っとそういえば言い忘れてたな…ニャル」


「んー?」


 そこそこの真顔でニャルを見ながら言う。


「あの時、あの場所に来てくれてあんがとな。

 本来俺はあそこで終わってたと思うし。

 妻たちやベルと出会えたのはお前のおかげだよ」


「んー受け取ってはおくけどそれは多分不要だ。

 俺もここまで面白くなるとは思ってなかったし。

 それにここでは退屈しないからな。

 俺も儲けだ」


「親しき中にも礼儀ありってな。

 一応、伝えておいた方がいいだろ?こういうのは。

 …んじゃ今後もよろしくな」


「おう!こちらこそな!」


 言いたかったことは多分、伝わっているだろう。

 俺の悪友だしな。


 顔を洗ったり着替えを済ませた後、俺はニャルと一緒に朝食の準備をするのだった。


「…で、これなに作ってんの?」

「これはな…鯛入り天津赤飯だ!」

「…おかしくね?」


「おめでたいの『鯛』!おめでたい時に食べる『赤飯』!

 …そして俺が『食べたいな』と思った『天津飯』!

 これらすべてを配合した食べ物!

 それが鯛入り天津赤飯だ!!!」


「…鯛の吸い物と赤飯と天津飯でよかったのでは…?」

「…はっ!?」


 こうして今日も混沌な朝が始まる。



 ◆◆◆◆◆



 お昼のひと時。


 現在俺はリビングで待機中だ。

 何故かって…フフフ!実は俺の妻たちが料理を作っているのだよ!

 俺のために作ってくれるって言うのが心に染み渡るぜ。


 だいぶ前に洗剤ケーキを作ったころとは違いアサトもそこそこの知識は付いてきたし多分大丈夫だ。

 手料理が初めてと言っていたヨルトとクロネがどんな感じになるかはお楽しみといったところだろう。


 ふと隣に目を向ける俺。そこには…


「達磨さんがー……転んだ!」

「「「「「……」」」」」


 猫と達磨さんが転んだをしているニャルの姿がある。

 隙あらば猫に勝とうとする神のなんと悲しいことよ…。


「達磨…サンガコロンダ!」

「「「「「…ニャッ!?」」」」」


「フハハハハ!お前らは動いた!俺の勝ちだ!」



 突如急に物凄い早口で言う卑怯者の図。

 遊びにもマナーがありますのでちゃんと遊ぶときはルールとマナーを守りましょう。守らなかったらどうなるかはこれからわかるから参照。


「俺の勝ちー!」

「「「「「にゃぁぁ!!!」」」」」


「負けた者が何を言おうと負け猫の遠吠えだずぇぇぇ!ぎゃははは!」


「「「「「フシャーッ!!!」」」」」


 怒り心頭の猫軍団はニャルへと飛び掛かる。


「かかってくるがいい弱者よ!お前たちごときではこの俺は倒せん!

 倒せんのだぁ!はっはっはっは!」



 ―――数分後。


 倒れ伏すニャル。 その上に乗っかって雄たけびを上げる猫達。


 何故学習しないのか。


 幾度となく繰り返される光景に呆れた表情を送っていたそのとき、奥から「できたー」という声が聞こえる。


 さーて、食卓で待機しますか。


 ◆◆◆◆◆


 で、妻たちが手料理を並べることしばし。

 いよいよ実食のときである。


 左から順に、


 アサトのチャーハン。


 ネムトの握り寿司。


 ベルの「神託」と書いてある鍋。


 ヨルトのかつ丼。


 クロネのカルパッチョ。


 といった具合である。

 普通においしそうじゃないですか!やったー!

 …途中の真ん中にある「神託」の鍋は不明だが。


 まずはアサトのチャーハン。

 食べようとしている俺の傍ですこしだけそわそわしているアサトを視界の端に置きながら頂きます。


「……うん、いい感じじゃないか。美味しいぞアサト」

「……えへへ…」


 照れているアサトを撫で撫で。

 いい感じに料理の腕も成長しているようで安心である。



 次はネムトの寿司。

 作ったネムトはまだ眠かったようで寝室に戻っています。


「…寝てても味は変わらないのか。うまい!」


 後で俺の傍に来た時になでなでしてあげよう。



 さてさて次の番。

 …なのだが、


「…ベル?…これなに?」


 鍋のふたを開けるとそこには…虹色の液体(?)のようなものがあった。


「開発。新作」


「……いやだからこれなに?」


「…スープ?」


「なぜ疑問形!?」


 俺はこう…本能的なもので察する。これはやばいのではなかろうか…?

 確認のためにクロネに聞いてみよう。

 彼女の鼻はこういう時にいい仕事をするからな。


「…おいクロネ…これ…ってクロネ!?」


「…きゅ~…」


 意見を募ろうをして振り返ったそこに期待の神はいなかった。

 何故なら現在彼女は目を回して倒れていたからだ。


 ヨルト視点では「鍋の蓋をとったら気絶した」らしい。

 アウトなのではなかろうか?


 すでにやばい雰囲気は出ているが確認は怠らずしっかりとしなければと思い俺はヨルトに聞いてみる。


「…これ大丈夫かな?」

「…だ、駄目だと思う…私でも危険って感じるし」


 副神が首をふるふる。

 はい。完全アウトですねありがとうございます。

 しかしこれがどんなものなのかの興味も若干ある俺は、

 あることを思いつきベルに伝える。


「ベル、せっかくだからあそこののどの乾いてるニャルにあげたらどうだ?日頃の感謝―とか」

「了解」


 そう答えたベルはてくてくとニャルに歩み寄り鍋を差し出す。


「父、勤労感謝」

「おお!なんと!成長したなぁ娘よ…。

 よーし!いっただきまーす!アムッ…」


 虹色の液体を口から摂取するニャル。

 直後、体からまばゆい虹色を発光しながらニャルが空に浮く。


「…ア…ヴィ…シャス!…あ…べ…ば…

 メェ……メェン…ト…モォリ!」


 意味不明な言語を叫びながら空に浮かんだニャルはそのまま虹色の粒子となって虚空へと消えていく。犠牲になったのだ。


 おれはそこから視界を元の食卓に戻す。

 俺は何も見ていない。見てないったら見てない。



 気を取り直して…次はクロネのカルパッチョ。

 本来なら横にクロネがいたであろうが現在、虹色の液体のせいで倒れているので感想はあとで伝えてあげよう。


 尚、普通にさっぱりとしていて味もよく、色合いも整っていていい料理でした。良妻の才能があるんだなきっと。



 で…最後にヨルトのかつ丼なのだが…。


「…どした?」


 自分の料理を後ろに隠す妻ヨルト。

 その表情は少しだけ暗い。


「……や、やっぱりいい。あんまりうまくできなかったし…」


 どうやら料理で何かしら失敗して俺にそれを見られたくないようだ。

 別に気にしないんだけどな。


「…ヨルト。別に少し不格好なくらい気にしないよ。

 俺はヨルトが俺のために初めて料理を作ってくれたことが嬉しいんだ。

 だから…その料理…くれないか?」


 俺にまっすぐそう言われたヨルトは少しだけ躊躇った後に器を俺の前に出す。


 そこにあったのは少しだけ黒いかつの乗ったかつ丼。

 初めてにしてはだいぶ上出来だろうな。

 多分、彼女が気にしているのはかつの色なんだろうが…揚げ物は少し感覚で作る部分があるからそれは初めからは難しいものだ。


「……はむっ!…」

「…あっ…」


 俺が食べる所を心配そうに見守るヨルト。

 そんな顔するなよ。普通によくできてるんだから。


「…うんうん。普通においしいよ。

 初めてにしてはいい出来だ」


「ほんと!?」


「ほんとほんと。ナユタウソ、ツカナイ」


「よかった。…かつをあげるときに生だったらナユタが危ないと思ってしっかり揚げてたらやりすぎちゃったの。今度は狐色を目指すね!」


 理由を聞いて心が温まる。

 俺のために黒色になるまで上げてくれたようだ。

 夫想いの良い妻に恵まれた俺は幸せ者だよ…まったく。


 嬉しそうなヨルトを抱きしめて、なでなでなでなで。

 幸せそうな緩んだ顔が見れてなによりです。


 こうして全員(約1冊を除き)無事においしい料理を作ってくれた妻たちに感謝しつつ食べていたそのとき、リビングの扉が開かれる。


「や~!イグ谷さんだよ!久しぶりに遊びに来たよ!

 はっはっは!」


 陽気な雰囲気のイグ谷さんが登場。

 久しぶりに見たイグ谷さんに俺が挨拶をしようとしたそのとき…、

 彼に歩み寄るゴスロリがいた。


「…おや?なんだい?綺麗なスープだね」

「新作。試食」

「ああ!いいとも!なかなか綺麗でいいスープじゃないか」


「あっ…イグ谷さん!スト…」


 俺が「ストップ」と言い終わる前にスープに口をつけるイグ谷さん。


 するとたちまち体から七色を発光しながら天へと舞う。


「…蛇の夜明けは…近いぜよ!」


 どこかで聞いたことのあるようなセリフをつぶやいた後、ニャル同様、光となって消えていきました。これで犠牲者二人目である。


 その後、ベルにはこの虹色の最終兵器レインボーリーサルウェポンの製造を封印指定。


 今現在この世に生み出されてしまった危険物は以前滅ぼした教団跡地に捨ててきましたとさ。


 めでたしめでたし。



 今日も我が家は平和でごわす。




 ◆◆◆◆◆



 ―――とあるところにて。


「手をあげろ!お前たちの凶行もこれまでだ!」

「ふん!我ら福岡県民が警察などに屈するものか!」


 とある場所ではナユタが滅ぼした教団の生き残りとその存在を嗅ぎつけた警察の特殊捜査班が激突していた。


「お前たちは完全に包囲されている!ここまでだ!」


 囲まれている狂信者たち。

 だが彼らは不敵に笑う。


「くっくっく!これを見よ!」



 そう言った彼らが懐から取り出したのは…虹色の液体の入ったフラスコ。

 …そうナユタが危険物として教団の跡地に捨ててきた虹色の最終兵器レインボーリーサルウェポンだった。

 跡地を訪れた生き残りたちはこれを見つけたのだ。


「これは我らの教団跡地にあった『神託』と書かれた鍋に入っていた神の液体!これを飲むことで我らは神と一体となるのだ!」


 そう言いながら「グビッグビッ」とフラスコの中の危険物を飲み干す狂信者たち。結果は言うまでもなく…


「…おお…楽園が…見える…」


 各々個人差のある独り言をつぶやいた後、例外なく空へと虹色の粒子になって飛んでいくのだった。


 それを見た警察側は当然SANチェック。

 発狂する者、意識を失う者、金切り声をあげる者、

 果てには他者に襲い掛かる者。

 阿鼻叫喚の地獄絵図であった。


 こうしてナユタは全く意図せずに「福岡修羅教団」を壊滅させるのだった。


 尚、一夜にして滅んだ教団の調査を協力して慌ただしかった沖縄県警の牢獄から一柱が脱獄していたことに誰かが気づくのはもう少し後だった。

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