第37話 隙を見せたら…喰われるぞ!

 宗教団体とのプチ戦争を無事終えた俺達は無事家に戻ってきていた。

 …ていうかぶっちゃけ相手にならなかった。


 まぁ俺とベルでもそこそこオーバーキルだったところに、

 アサト、ネムト、ニャル、ツァト、

 クトゥグア、チャウグナー、バースト…うん過剰火力だよねこれ…。


 神様が頑張ってくれたおかげで宗教団の拠点は更地になりました。

 ……俺は悪くねぇ!他の神様たちがやりすぎたんだ!

 俺はクレーターを50個くらい作っただけなんだ!


 …はい。すいません。ちょっと頭に来てたんでやりすぎました。

 ……でも目的のヨグソトース救出は無事完了したから見逃してほしい。


 で、そのヨグソトースなんだが…

 さっきから俺にギューッと抱き着いて離れてくれません。

 嬉しそうだから無理に剥がすのも嫌だしな。


 そうしていると抱き着いたままのヨグソトースが顔を隠したまま俺に話しかけてくる。


「…お姉ちゃんが…羨ましかったの。

 私は宇宙の端でずっと一人だったから…。

 …でもナユタは初めて…私にお願いをするんじゃなくて…

  私のお願いを聞いてくれたの…だから嬉しかった」


 多分これは初めての心の言葉、彼女の心からの声なんだろう。

 俺にできることは少ないんだけどな。

 俺は優しく頭を撫でる。


「そのくらいのお願いならいつでも叶えてやるよ」


 それを聞いたヨグソトースは少しだけ離れて下からこちらを覗き込む。


「…ナユタお願いがあるの…」

「おう!いってみ」


 顔を赤らめて躊躇った後に覚悟をきめたような表情になった彼女は言う。


「今ならお姉ちゃんの気持ちがわかるの。

 私も同じ気持ちになったから…だ、だから…その…

 わ、私もナユタのことが好きなの!

 …だから私と…け、結婚してください!」


 顔を真っ赤にしながらそう言い放ったヨグソトース。

 …てか…えっ?…求婚されとるやん俺。

 3回目とはいえ慣れは…しないなぁ。


 っと…真面目に告白されてんだし真面目に答えるとしよう。

 と言っても答えは決まってるんだけどな。


 見ず知らずのやつにいきなり告白されたなら先延ばしとか…断るとかあったのかもしれないが…仲良くもなったし俺はこの子が寂しがりなのも知っている。何より守ってやるって決めた以上、守り通す。

 …後は妻たちだが…。


 俺は「チラッ」と妻たちの方を見る。

 そこには嬉しそうに拍手をしているアサトとネムトの姿。

 どうみてもOKです。ありがとうございます。


「…こんなのでよければ喜んで…な。

 これからよろしくなヨグソトース」

「…!…うん!よろしくねナユタ!」


 今まで見た中で一番の笑顔を浮かべた彼女が再び俺に抱き着く。

 この笑顔を守れたなら…よかったんじゃないかな。


「じゃあ今後についてなんだが」

「ちょーっとまったぁ!」


 そして俺が抱き返しながら今後の問題点に触れようとしたそのとき、

 会話に割り込んでくる神がいた。

 それは「積極という言葉に恨みでもあるのか?」とその存在でいつも語っているツァトグアだった。

 何故かバーストを引きずりながらこちらの会話に割って入ってきた彼女が何故か呆れたような表情で話し出す。


「ちょっと待った。

 まだナユタに伝えるべき事を伝えてない阿呆がいる。

 だからちょっと待て」

「…はい?」

「……ほらとっとと言わないか!」

「ま、待つのじゃ!まだ準備が!」


 立ち上がったバーストを何故かツァトが急かしている。

 対するバーストがそれに反発している様だが…何故かツァトが怒りだす。


「おまえのぺースで待っていたら千年くらいいるわっ!

 おまえが言わぬなら私から言うぞ!」

「…!?…ま、待て!わかった!わかったのじゃ!

 我から言うから言わんでくれ!」


 その言葉を聞いたツァトは「やれやれ…」と呟いて後ろに下がる。

 俺とバーストの間にいたヨグソトースも何かを察したのかアサトとネムトの隣に移動する。…なにごと?


 そして真剣な表情のバーストが俺の顔を見る。


「ナユタ…我はな…人間が嫌いだった。

 自分勝手で…他者を貶め…

 自然を破壊し…自分より弱き者は平然と殺す。

 そんな人間が大嫌いだったのじゃ。

 …でもの、ナユタは違ったのじゃ。

 猫だろうと、神だろうと迷わずに。

 弱かろうが強かろうが平等に。

 何が相手でも迷わずに正しいと思った事を成す。

 そんなナユタのことが私はずっと大好きだったのじゃ。

 優しく私の頭や耳を撫でてくれる…そんなナユタのことを…

 …我は愛しておるのじゃ。

 我の求婚を…受けてほしい…のじゃ」


 真っ直ぐにそして燃えるようなその心をバーストは俺に伝えてくれた。

 途中から顔が真っ赤になっていた所もまた可愛いものです。


 で、それを聞いた俺。

 今日2度目の告白を受けた俺の感想はと言うと…


 プチパニック


 の一言に尽きる。

 思いも伝わっている。

 俺もバーストのことはもともと嫌いじゃなかったし、

 告白してくれたのは正直嬉しく思う。

 でも…でもな…今じゃなくてもいいと思うんだ。

 非モテ勢の俺がいきなりこんなに告白されたらさすがに混乱します。


 妻もすでに3柱いてみんな俺のことを好きだといってくれて…

 こんなんメチャクチャ幸せじゃないか!

 という状況真っ只中の俺にさらに畳みかけてくるとは…。


 いろいろぐちゃぐちゃの頭をさっさと整理する。

 ここで変なことを言って相手を傷つけるのは一番駄目だからな。


 一応、再び「チラッ」と妻たちを確認。

 さっき増えた妻も含めて3柱全員が頭の上に腕をあげて「〇」を作っている。俺の妻たちは寛容である。

 その妻たちからさっきから「…やっと告白した…」とか「結構時間がかかりましたね」とか「…なんとなく知ってた」とか聞こえるのはきっと気のせいだろう。気づいてなかったのは俺だけですかそうですか。


「…俺も優しくて可愛いバーストのことが好きだ。

 …これからもよろしくな」


 俺の言葉を聞いたバーストが嬉しそうにしながら顔を真っ赤にし、

 尻尾と耳が「ピーンッ!」となる。


「…うむ!うむ!よろしくなのじゃ!ナユタ!」


 今日二人目の新しい妻が嬉しそうに俺に抱き着いてくる。

 そんなバーストの耳を俺は優しく撫でるのだった。



 ◆◆◆◆◆



 それからしばし。

 新しい妻たち、もともと一緒にいた妻たち計4柱を交代しながら抱きしめる。

 うーむこれから4柱の妻たちに嫌われないようにしっかりしなきゃな。


 とか考えながら抱きしめてなでなで。

 チェンジしてなでなで。


 そんなことを繰り返しているうちにツァトに遮られて止められた会話の内容を思い出し、話し出す。


「さてみんな、知ってると思うがヨグソトースは強制的に召喚される術式を人に知られているんだが…何か解決方法はないか?」


 う~んとみんながうなる中、ツァトとニャルが話し出す。


「そんなに難しくはないと思うぞ」

「そうですね!

『ヨグソトース』という名前で縛ってある術式なんですよあれ。

 つまりヨグソトース自身がそれとは別の自分だけの名前を持てばいいんですよ。

 ヨグソトースという人間がつけた名前じゃなくて…自分だけの名前を」


 つまり今の「名前」を「そう呼ばれている名前」に変えて新しい名前を持つことで召喚術式の影響を受けなくするという言ことだろう。


「えっと…じゃあ名前を変えるってことだけど…

 ヨグソトースはそれでいいのか?」


 聞かれたヨグソトースは若干興奮したように頭を縦に振る。


「欲しい!お姉ちゃんみたいな自分だけの名前!欲しい!」


 すっごい嬉しそうである。

 なら夫としての一番最初のプレゼントは名前かな。


 ……う~ん…トース?…いや?…ヨグト?

 …どっちもあってない気がするな…。


「…よし決めた。姉が朝兎アサトだし。

 その反対で夜兎ヨルトだ。…どうだ?」


 少し安直かな?などの不安に駆られつつも彼女に聞いてみると…。


「…ヨルト…私だけの名前!ありがと!ナユタ!」


 確かめるようにつぶやいた後、満面の笑みを浮かべたヨルトが俺に抱き着きながらピョンピョンする。

 気に入ってくれたみたいだな。よかったよかった。


「……ん?」


 嬉しそうなヨルトを撫ででいたそのとき、俺の足がカリカリされる。


「どした?」


 足元に集まり俺の足をカリカリしていた猫たちが一斉にある方向を猫の手で指し示す。そこには…


(´・ω・`)


 ……口に人差し指を加えて「…いいな…」という雰囲気を漂わせているバーストの姿だった。言ってくれればいいのに…。


「よくやった」の意味を込めて足元の猫たちを撫でた後にバーストに向きなおる。


「…バーストも名前いる?」

「…いるのじゃっ!」


 すっごい嬉しそうなバーストを見ながら名前を考えようとしたそのとき。

 ニャルが俺の前に出て手で場を制する。


「ふっふっふ!不肖ニャルラトホテプ!

 ナユタさんの名付けパターンの解析に成功しました!

 …そう!バーストの!かしらの『バ』と、

   後ろにある『スト』をとってくっつける!

これによりできるバーストの新しい名前は…『バスト』です!

 あんまり胸ないですけどね!あっはっはっは!」


 ……笑っているニャルを残してバースト以外のみんなが避難する。

 猫達ですら。

…理由?…だってバーストから黒いオーラが出てんだもん。


 ◆◆◆◆◆


『ドガッ!バキッ!ゴスッ!』


 映像が乱れております…しばらくお待ちください


 ◆◆◆◆◆


「俺からしたら黒って印象が強いのと、

 猫の時の鳴き声が綺麗で好きだから…黒音クロネ、でいいか?」

「うむ!ありがとなのじゃ!ナユタ!」


 俺に名前を貰ったバースト改めクロネが抱き着いてくる。

 嬉しそうなこの顔をこれからいつも見れると思うと幸せだな。



 …これも犠牲になりながら時間をくれたニャルのおかげだな。

 南無南無。





 ◆◆◆◆◆





 …………。

 …はっきり言おう。油断してました。

 いやさ…だってさ…つい最近可愛い妻や可愛かったり綺麗だったりする妻たちが家族になってくれたのにさ…その後さらに可愛い妻と猫耳妻から告白されたらさ…男ならつい油断しちゃうでしょう?



 ―――風呂上り。


 風呂から上がった俺は膝枕しているアサトに耳掃除をしている。

 風呂上りの時にやってもらうと気持ちいいよね。


 それがすんでそろそろ時間も遅いな、

       と思った俺はつい言っちゃったんだ。


「よし。じゃあそろそろ寝るか。みんな一緒になー」


 ……おや?寒気が…。


 と俺が思ったそのときにはすでに手遅れだった。


 俺の両脇を突然、クロネとヨルトが持ち上げる。


「……あの?どうしたの?」

「…し、しょうがないわね!うん!人間の風習だもんね!

 人間と結婚したんだから…や、やらなきゃいけないもんね!」

「…う、うむ!これはしょうがない…しょうがないのじゃ!

はしょうがないのじゃ!」


 何か言い訳がましいことを言いながら嬉しそうに俺の両脇を抱えて引きずるクロネと大人の姿になったヨルト。

 その行先は…寝室。

 …あっ(察し)


 いかん!いかんぞこれ!これは流れで俺が20数年付き添ってきたDTが殺されてしまう流れや!

 …いや男としては嬉しいけども!卒業だけれども!

 さすがにこれは心の準備が欲しいやん!


 助けを求めて視線をネムトに向ける。


 そこにはきちんと正座したネムトがこちらにお辞儀をしていた。


「初めてですが…どうぞよろしくお願いします…旦那様」


 あっ駄目だこれ。



 ……い、いや待て!アサトはまだ勉強してない!

 これを利用すれば…


 アサトの居る方向に目を向ける俺。


 そこにいたのは…、


 子供の姿から胸が大きくスタイルの良い大人の姿になったアサト。


 バランスの良い綺麗でスレンダーな大人の女性になったベル。


 あら綺麗。アサトは将来スタイルがよくなるんだなー。

 それにまるで人形みたいに綺麗になったベルも可愛らしいね。


 ……じゃなくて!!!


「アサトと一緒に勉強。夜伽。頑張る」

「…結婚初夜……妻の務め…がんばる…」


 …おうふ。いつの間にかベルから教わってしまっていたというのか。

 ……い、いや!まだだ!まだニャルたちが…


「ニャル~!ツァト~!チャウグナ~!クトゥグア~!

 HELP ME-!!!!」


 4柱はソファに腰かけながら各々コーヒーや紅茶を飲みつつこちらにハモって返事をしてきた。


「「「「 ごゆっくり~ 」」」」


 止めようという意志を感じませんでした。はい。


 そして俺は寝室へと引きずり込まれる。


『ギィィィィ……パタンッ!』


「…あっ…ちょっ…やめっ……アァーーーーーーーーッ!?」






 ―――拝啓。親愛なる両親へ。


 あの世ではいかがお過ごしでしょうか?


 俺は今4柱+aの妻たちと幸せに暮らしています。


 小さいころに大事なものを沢山失いましたが…


 その分、沢山の幸せを妻や友神から貰っています。


 だから心配しないでください。


 息子・星野那由他より。






 今日も我が家は平和です。

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