第35話 国語の教科書って大人のほうが楽しめるよな   『3駄神のすゝめ』

 ある昼下がり。

 俺とアサトとベル、ネムトと一緒にリビングのソファーに座り、

向かいに座っているバーストがアサトたちに童話を読み聞かせている。


「『メロスは激怒した。必ずかの邪知暴虐の王を除かねばならぬと決意した』」


「…むむ…」

「王、乱心?」

「いや、もとから人を信じられないってだけだ。

 だから周りの人間が信用できずに殺したりしているんだ」

「……悪い王様…」

「排除。抹殺。削除」


 話にのめりこんでいるアサトとベルは興奮気味である。


「……む…バースト…セリヌンティウス死ぬの?」

「詐欺?」

「待つがよいのじゃ…今続きを言う。


『友のため自身の村にメロスは走る…ように見せかけ途中でヒッチハイクをし車を拾う。


 そして村まで辿り着き妹達とパーティーをする。


 途中のパーティー2日目でセリ何たらのことを思い出したメロスは自宅のガレージに向かう。


 そして大型バイクにまたがりながら「必ず邪知暴虐の王を除かねば」と決意を新たにして王城へとバイクを走らせる。


 途中でフィロスト何たらを轢いてしまったが些細なことだ。


 そして城に乗り込んだメロスはバイクに乗りながら背に背負った火炎放射器で王を焼き払う。


「汚物は…消毒だぁ!」


 こうしてメロスは無事友を助け暴虐の王ディオニスを葬ったのだった』


 のじゃ。」


「「おー」」


 無事物語は終わった…のだが…こんな話だったっけ?

 この話は小学生の時に国語で勉強して以来だから少しうろ覚えである。

 ちょっとだけ気になった俺は本の背表紙を見る。そこには…


「走れよ!?メロス! 作者 太宰らとてっぷ」


 確認したらパチモンでした。

 まぁおもったけどさ…走れよ!って。


「…バースト…次の本…」

「迅速」

「よしよし、すぐに次の本を読むのじゃ。

 次は『外宇宙鉄道の夜』じゃな」


 どう聞いてもまたパチモンだなこれ。

 …でもすこし内容は気になるな。


 そう思いアサトたちと一緒に内容を聞こうとしたそのとき


『ピンポーンッ』


 という音が聞こえてくる。

 誰か来たみたいだな…しゃーない、行くか―。


 …で、やってきました玄関。

 扉を開けるとそこには沖縄県警警察コンビがいた。


「ご無沙汰してます那由他さん」

「こんにちわ常盤さん。それに相楽さんも」

「ちーっす!」


 軽い挨拶をした相楽さんが拳骨をくらう。

 これはこれでこの二人のコミュニケーションかもしれない。


「えっとここに来たってことは俺に何か用ですか?」

「あー…えっと…実はですね…」


 常盤さんと話している途中、後ろからぴょこっと鎖でぐるぐる巻きにされたチャウグナーが出てくる。


「ナユタさーん」

「おう、捕まったか。お疲れ」

「冷静にスルーするのやめてください…」


 ぐるぐる巻きで捕まっているこれをみて何となくきた理由を察した俺は気まずい感じの常盤さんに事情を聴きだす。


 最近、悪夢を見る人間が多数出たことで沖縄県警が捜査を始めたらしい。

 そして調査の先で見つけたのは…人型になってぐっすり眠っていた

神チャウグナーだったそうな。

 で…寝ているう間に縛り上げ、事件について問い詰めるが脂汗を流しながらも答えてくれないので知り合いかもしれない俺のもとに来た…と。


「すいません、こいつが犯人です」

「即答!?」

「いや…だって…ねぇ?」

「ナユタさんも1回連れていってあげたじゃないですか!?」

「ああ…うん、あのくそみたいな夢な」


 駄々こねる神を放っておいて常盤さん達の方を見る。

 他人ではないのだし一応、捕まらないように交渉だけはしておこう。


「えっと…こいつ逮捕ですか?幽閉ですか?」

「いえ、夢で死んだりしても影響が現実に出ないようになっていることは調べがついているので逮捕まではいかないです。

 ですが注意はしなければいけないので…そちらの神に反省してほしいのですが…」


 警察2人と一緒にチャウグナーに目を向けると…。


「くっ!?ころせぇ!法には屈しても心は屈しないですよ!」


 何で「くっ殺」してんんだろうこいつ…。


「ほら謝れ。というか謝るので済むことに感謝しろ」

「ナユタさん!私にも神としての誇りがあります!

 たとえどんな状況でも人に屈したりは…」

「謝らないともう血やらんぞ?」

「すいませんでした」


 とても綺麗な土下座を常盤さん達にするチャウグナー。

 誇りとは…?


 二人は厳重注意をしたら仕事は済んだとのことで帰っていった。

 うちの神が迷惑かけてすいません。


 その後さらに俺からの注意を受けてあの夢の閉鎖が決定。

 悪は滅びたのだ!



 ◆◆◆◆◆


 でもってその後、

 外出していたニャル、久しぶりに起きたツァト、

 棘マットの上で正座しているチャウグナー、

 その向かいで座っているヨグソトースがテーブルにいる。


 全員にお茶とお菓子を提供しながら先ほど起きたことについて話し合っている。


「…えーというわけで周りに迷惑をこうむる行動はとらないようにな」

「任せろ!他次元の俺も『ばれなきゃ犯罪じゃないんですよぉ』って言ってたしな」

「私は寝てるだけだから関係ないな」

「ブーブー!ただ血を貰ったり血祭りにする夢とかを見せたりしてるだけじゃないですかー!」

「……だいぶアウトだと思うんだけど…」

「…はぁ…ヨグソトースはこんなふうにならないでくれよ…」

「言われなくてもならないわよ…」


 俺とヨグソトースは3柱を見てため息をする。

 こうして考えてみればうちにいる神の中では余裕の常識神じょうしきじん枠である。


 …そう言えば最近は罵倒が減ってきている。

 まぁ減ってきたからって油断してアサトを抱きしめようとすると

「触るなロリコン!」と心に突き刺さる一言を貰う羽目になるんだが。


 注意も済んだし俺はリビングの方の絵本読み聞かせコーナーに戻ろう。

 さっき向こうから聞こえたが亀を助けて竜宮城に言った浦島がティンダロスの猟犬と戦っているらしい。続きが気になる。


「じゃあ俺はあっちもどるからお茶はニャルにでも言ってくれ」


 その言葉を残し俺はさっさとリビングに向かう。

 浦島まだ生きてるかな?



 ◆◆◆◆◆


 ナユタがテーブルから離れリビングに戻ったとき、

 テーブルではヨグソトースが呆れた表情でニャルラトホテプたちに話しかけていた。


「…あんたたちほんと自由ね。

 そんなでも一応神なんだからもう少し自重したら?」

「断る!」

「我やりたいことする故にわれあり、だ」

「他人が怖くて血が吸えますか!」


 元気にドヤ顔で返答する3柱。

 その駄目な潔さにはもはや清々しさすら感じられる。

 テーブルの横で3柱が戦隊ヒーローのようにポージングをしている。

 いらないところで息ぴったりである。


「そもそも副神、お前は考えすぎなのだ」

「…私が?」

「まあ…確かにそうですね。

 さっきも言いましたが我々は神です。

 好き勝手してもいい、とはいかないまでも…もう少し自分のやりたいことをした方がいいんではないですか?」


 チャウグナーにそう言われヨグソトースが考え込む。

 そして答えが出なかったのか曇った表情で返答する。


「…でも私はやりたいことなんて…」

「そう!それ!お前はそこで悩むだろ?

 とりあえずなんも考えずにやりたいと思った事をやればいいんだよ

 俺みたいに!多次元で人間遊びをしたり!」

「私のように平均30時間くらい寝たり!」

「私のように血をむさぼり観賞したり!」


「「「イエーイッ!!!」」」


 駄目な神様3柱衆はまるで打合せでもした様に息ぴったりな駄目さ具合を発揮する。

 そしてそれを見て、聞いたヨグソトースが若干呆れながら姉の居るリビングへ移動しようと立ち上がる。


「…あんたたちの意見の9割は役に立たなさそうね」

「「「(´・ω・)<そんな~」」」


(´・ω・)の顔で横並びにヨグソトースを見送る3柱。

 その3柱に振り向いたヨグソトースが少しだけ微笑みながら話しかける。


「……でも考える前にやりたいことをやるっていうのは、

 確かにまだやったことないかもね。

 だから…少しだけ参考になった。…ありがと」


 そう言って姉の横に走り寄るヨグソトースの姿は少しだけ体と同じ子供のような仕草だった。


 その様子を見た3柱は子供を見守る親のような表情を浮かべながら話し出す。


「まったく姉妹揃って世話の焼ける」

「姉は姉だが…妹も妹だな~」

「いろいろ正反対ですもんね」

「まぁ~ある意味、バランスいいんじゃねぇの?

『何も持ってなくて大切なものを手に入れた姉』と

『大体の物は持っていても大切なものだけは持ってない妹』でさ」


 顔を見合わせて笑い合う3柱。


「そうだな。

 それに…どうせここに居るならナユタがどうにかするだろう?」


 ツァトグアの発言を聞いたチャウグナーとニャルラトホテプは爆笑しながら返答する。


「それな!」「ですね~」



 なんやかんやで3柱から絶大な信頼を受けているナユタだった。

 ちなみにナユタはバーストの読んでいる本『ごんぎつね』を聞いて目を潤ませていた。



 今日もナユタ家は平和である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る