第33話 クッキーって形と味どっちを優先かな?    『蛇・猫神のすゝめ』

 今日も今日とて日常生活。

 寛ぎのひと時。

 マイスウィートホーム。

 ほのぼのとした毎日。

 う~ん…今日もいい一日で…


『ガッシャァーン!!!』


 はいなんでもないです。

 そんなものはなかったんや…。

 

 割れた窓から何かが飛んできたようだ。

 確認してみるとそれは人型のスーツの男性だった。

 その男性は血塗れの顔に笑顔を浮かべながら話しかけてくる。


「やぁ!ナユタ君!イグ岡さんだよ!」


 はい。イグさんでした。

 そして庭の方からもう一柱の神が焦りながらこちらに来る。

 こっちはいつもよく見ているかわいい黒色の猫耳と尻尾がある。


「ぬわっ!?な、ナユタ!す、すまぬのじゃ…窓を割ってしまったのじゃ…」

「いやまぁ…問題ないからいいけどさ…」


 この二柱、会うごとにこんな感じじゃないかな?

 殴られるのはイグさん固定だけどな!


 ガラス割れる音とか騒がしい状況とかあれば当然、

他にここに居るみんなもこちらに来る。

 アサトとかベルとかヨグソトースとかニャルとかの集まってきたみんなは状況を確認する。


「…ん…なにごと?…」


「……ねむー…」


「なんだなんだ…ってなんだバーストか」


「…襲撃…じゃあないみたいね」


 目元をこすっているアサトとネムトは多分昼寝中だったんだろうな。

 ニャルは「いつものことか」とすぐに事態を把握。

 ヨグソトースは周りの落ち着きぶりからいつもこんな感じということを感じ取っている。

 床でボロボロのイグ岡さんがみんなに申し訳なさそうに話し出した。


「いや~すまないね。ばったりバーストにあったんだけど多分そのときに余計なこと言っちゃったんだろうね。蹴飛ばされちゃったし」


「……すまぬ。こいつが余計なことを言うと反射的に蹴ってしまって…」


 バーストさん最近はやりすぎて条件反射まで達していた模様。

 慣れって怖いね。


「バースト…あんまりやりすぎないようにな」

「…本当にすまぬのじゃ…」


 謝っているバーストをイグ岡さんがフォロー。


「ははは、あまり責めないであげてくれ。きっと僕の言った『ところでいつになったらナユタに告…』」


「だから!それを!やめろと!言っとんのじゃぁぁぁぁ!!!」


 流麗かつ綺麗な動きで振り上げられた踵がイグ岡さんに直撃し床に半身が埋まったイグ岡さんが誕生する。


「い、イグ岡さぁ~ん!」


「…あー…」


「…ん…いつも通り…」


「…なのー…」


「何してんのこいつら…」


 それぞれのリアクションがあった後、

 イグ岡さんは俺の手で救出されました。


 ◆◆◆◆◆


 いろいろあったが無事みんなでリビングに落ちつく。

 アサトとネムト、ベル、ニャルは現在テレビの前のソファで3人並んでおとなしく特撮の映画を見ている。


 そして食卓兼任のテーブルではバーストとイグ岡さん、ヨグソトースと俺が一緒に席に座っていた。

 といっても俺は菓子作りの途中だったからすぐ台所に戻るのだが…

一応、リクエストを聞いておかないとな。


「これからお菓子作るんだけど…ヨグソトース凄い甘いのと甘さ控えめどっちがいい?」


「…お菓子のことは知ってるけど…食べたことないから…どっちも用意して欲しい…」


「あいあい。バースト達は好きに寛いでてくれ~」


「わかったよ」


「了解なのじゃ」


 確認の取れた俺は菓子つくりに戻るためにキッチンに戻るのだった。


 ◆◆◆◆◆


 ナユタがいない間の3柱。


「…あんたたちまであの男の家に来てるなんてね」


「久しぶりだねヨグソトース。

戦うとき以外でまともに話すのはこれが初めてかな?」


「ナユタのやつ流れるように厄介ごとに巻き込まれるのじゃな…」


 ヨグソトースはジーッとバーストを見つめそれに気づいたバーストは疑問を浮かべながらヨグソトースに話しかける。


「…?…なんじゃ?」


「確かあんたは私と同じで人間嫌いだったはずよね?

なんでここに居るの?」


「ふむ…それを言うなら人間嫌いの副神もなぜここにおる?」


「……私は…お姉ちゃんがいるから仕方なくここに居るの」


「お姉ちゃん…ああ、アザトースか…納得じゃな。

 …えーと、我がここに居る理由じゃったな…それは…」


「あっはっは、ナユタ君が好きだからだよ」


 物凄い猫目でイグ岡さんを睨むバースト。

 猫に睨まれた蛇はただただ乾いた笑みを浮かべながら紅茶を飲む。


「…我も確かに人間は嫌いだ。

 傲慢で愚かしく…利己的で自分勝手な人間などの」


「……だったら…」


「だがあやつは…ナユタは違う。

 道路に出た子猫を助けたり、

 助けてと言われたら猫だろうが神だろうが気にせず全力で助ける。

 頑張っている他者を笑うものに怒る。

 それがあやつなのじゃ。

 だからこそ我はあやつが気に入っておるのじゃ」


 その言葉を聞いたヨグソトースはただ黙る。

 その様子を見たイグが微笑みながら語り掛ける。


「まだナユタ君がどんな人かわかってないなら教えてあげよう。

 彼は君が一番嫌っている『自分のことしか考えない人間』の正反対、

『自分のことを考えない人間』だよ」


「…自分のことを考えない…」


「少なくとも僕が知る中でもあんなのは彼くらいだろうね。

 神を恐れず、神だからと区別もしない。

 全てに等しいく接しすべて平等に扱う。

 ある意味、君がほんとに欲しかったものなんじゃないかな?」


「…私がほんとに欲しかった…もの?…」


「気づいてないならいつか気付けるさ。

 彼が持っているからね」


 イグの言葉とバーストの言葉。

 この二つの意味がまだ理解しきれないヨグソトースはナユタがお菓子を持ってくるその時まで考え続けるのだった。


(……私が…ほんとに…欲しかったもの…)



 ◆◆◆◆◆


 菓子が焼き上がり俺は注文通りのクッキーを作る。

 片方はすごく甘め。片方はちょっぴり甘め。


 いろんな形のクッキーをさらに割れないように入れてリビングの方へともっていく。


「おーい!できたぞ~!」


「おー」


「…わーい…」


「待っとったのじゃ!」


「おっ?できた?」


「楽しみだねぇ」


「待機。実食はよはよ」


「…それがお菓子?」


 他のメンツが皿の上のクッキーに夢中になっている中、

 クッキーの実物を初めて見たヨグソトースは不思議そうに見つめている。


「おう、クッキーだ。人間のお菓子の定番だな。

 こっちの皿が甘め。で、こっちが甘さ控えめのクッキー。

 食ってみ?」


 俺に差し出されたクッキーを恐る恐るヨグソトースが手に取り齧る。

 そして少ししてから驚いた表情の後に二つ目を手に取る。


「……おいしい」


「ならよかったよ。…で、甘いのと控えめどっちがいい?」


「……甘さ控えめ、かな。甘過ぎるのよりは好み」


「ん、わかった。

 じゃあ今度からはヨグソトースに作るときは甘さ控えめの菓子な。

 他にも食べたいものとかあったら遠慮せずに言ってくれ」


「ん…わかった」


 そう言いながら新しいクッキーを口に咥えるヨグソトースを微笑ましく見ていると後ろから声が聞こえる。


「ナユターこっちもうなくなったぞー。おかわりはよー」


「はええよ!…あーもう!すぐ持ってくるから待ってろー」


「「「「「「わーい」」」」」」


 空の皿をもって台所に行こうとしたそのとき後ろからヨグソトースの少し小さめな声が聞こえる。


「…ナユタ!…その…ありがとう…」


「どういたしまして。おかわりいるヨグソトース?」


「えっと…いる」


「ほいほーい」


 少しだけ信頼してもらえたかもしれないしそうじゃないかもしれない。

 でも笑顔でクッキーを食べているヨグソトースを見ているのは悪い気分はしなかったな。やっぱりだれでも笑顔が一番ってな。




 今日も我が家は平和です。

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