第32話 ラーメンは豚骨が一番 『主神のすゝめ』

さて新しく住神は増えた。

といってもまぁもともと結構な数いるし増えても問題ないんじゃね?


…そう思っている時期が俺にもありました。


俺が室内に入ると…、


「近寄るなロリコン」


俺がアサトを撫でようとすると…、


「お姉ちゃんに触るな!このロリコン!」


ちらっと視線を送ってみると…、


「ガルルルル」


とまぁ、こんな感じでなんていうかもうね……心が折れそうです。

もう折れている俺でなければ即死だっただろう。

俺はイゴーロリコンナクではないんだよ!KENNZENN!ハイ復唱!


精神的強敵との戦闘をしながら俺は昼ご飯を作り上げる。

今日のご飯はラーメンですよ~。


食卓に並べて…実食と行こうとしたそのとき、


「……なにこれ?」

「ラーメン…食べ物だぞ?」


怪しいものを見る表情のヨグソトースがラーメンの器を食卓からポイッと投げて捨てる。…あぁぁ!お気に入りの器がー!


「私たち神が人間の食べ物なんて食べる必要はないわ!

こんなの別に食べる必要ない!」

「…はぁ…だからって投げ捨てないでくれよぉ…」


お気に入りを犠牲にされた俺はちょっぴり悲しみに暮れながら破片を回収する。


「ほらお姉ちゃんもこんなの食べる必要ないよ?」

「……天誅…」

「痛い!」


流れでアサトに食べないよう促そうとした彼女はアサトのチョップをくらう。姉に突如チョップされた彼女はなんでされたか分からないご様子。


「…お、お姉ちゃん?」

「……食べる必要はなくてもおいしいから食べるの…

いきなり捨てたりしちゃダメ……ナユタと農家さんに失礼……」


俺の妻が妹を諭そうとしている!ついでに農家さんのこともフォローしている!愛しの妻よ…せ、成長したなぁ…。


さっきまで強気でいたヨグソトースは姉に怒られてシュンとしている。

どうやら姉に怒られたことがショックみたいだな。


「……ご、ごめんなさい…」

「…謝るなら私じゃなくてナユタ…」


しょんぼりしたままのヨグソトースがこちらに向きなおり頭を下げる。


「……ごめんなさい…」


言われた通りにしっかりと謝罪するヨグソトース。


若干、人の話を聞かないがどうやら根は真面目でやさしい娘のようだ。

きっと大好きな姉の敵として俺を認識してるからあんななだけで本当はもっとかわいいのかもしれない。


「しっかり謝ったなら別にいいよ。

んっと…ほい、俺のあげるから食ってみ」


俺に新しいラーメンを渡されたヨグソトースはアサトの食べ方を真似して麺を啜る。


「……おいしい…」

「だろ?必要はないかもしれないけど…うちでは食べるんだ。

食べたくないならそう言ってくれればいいから」

「…わかった」

「素直でよろしい」


いつもの癖でヨグソトースの頭を撫でる。

…が相手の了承なしで撫でるから反撃を受けた。


「触るなこのロリコン」

「グッハァ!」


俺の心に不可視の槍がぶっささる。

肉体の保護は付いてても精神は守ってくれないようだ。


「…お姉ちゃん一緒に食べ合いっこしよ」

「…ん…わかった…こっちは味噌味…そっちは醤油味…」

「『ズルル』…なんか独特の味だけどこれもおいしいね、お姉ちゃん」

「……私は醤油も好き…」


仲睦まじく姉妹2柱は食事を楽しみ、

その横で両手両膝を床につけて崩れている俺。


さっきのストレートパンチの威力で復帰できない俺が呆然自失のそのとき食べ終わったニャルが俺の肩を叩く。

…おぉ悪友よ…慰めてくれるか!


俺の肩に手を乗せたままもう片方の手で親指を立ててグッジョブしながらニャルがいい笑顔で俺に言う。


「……おかわり!」

「……………」


その言葉を聞いた俺は再度床に崩れるのだった。


◆◆◆◆◆


さてその日の夜。

皆がお風呂に入り終えて就寝の時間が来た。

※不動要塞は眠ったままです。


お風呂に関してはヨグソトースも知っていたらしく最初は別にいいと言っていたがアサトに誘われると嬉しそうについていった。

結構お姉ちゃんっ子のようだ。

出会い頭に「お姉ちゃん攫ったろ?しねや」というだけのことはある。


だが問題は寝室に入ろうとしたそのとき起きた。


「…じゃあ寝室では私とお姉ちゃんで寝るから…人間はソファーね」

「なじぇ?」

「決まってるでしょ!……そ、そのお姉ちゃんと…その…いやらしいことしようとしてるでしょ!」


ニュアンスで何となく彼女が言いたいことはわかった。

どうやら副神の方は性教育は終わっている様だ。

が、今はそんなことはどうでもいい。

要するにアサトと寝られないということだろう。

流石にこれには俺も反論する。


「いやいや!ないって!今まで一緒に寝ていたけどそんなこと全然なかったし!ないって!俺、何もしてないよな?ネムト、ベル」


俺に聞かれた二人は黙って『コクコク』と頷く。

その横で頭に『?』を浮かべているアサト

だがそれを聞いてもヨグソトースの意思は変わらない。


「駄目!今までなくても今からする危険性はあるでしょ!」

「何を根拠にそんなことを…」

「これよ!」


俺に根拠を聞かれたヨグソトースは別次元から一冊の本を出す。

そこにあったのは一冊の…


『夜の蝶、淫らな舞』


というどう見ても「R18 」指定のエロ本があった。



「これがベッドの下にあったの!信用なんてできないわ!」

「……いや待ていや待て!俺、ここに来てからそんな本なんて買ってないぞ!本当だぞ!冤罪だ!」

「言い訳はいいわ!…行こ!お姉ちゃん」

「……ナユタ…お休み………ところで妹…その本何?…」

「…………お、お姉ちゃんにはまだ早いからいいの!」


俺に弁明の余地はなく姉妹はそのまま寝室へと消えていく。

尚、本について聞かれたヨグソトースは顔を赤らめて本を燃やしました。



姉妹が寝室に消えた後、俺は思案する。

……あんな本買ってない…はず…だよ…な?…そのはず…


と固まっている俺の横でベルが何かしょんぼりしているので構っておく。


「…どうしたベル?」

「…勉強用の教材。燃えた」

「お前か!あれ買ったのお前か!」

「肯定。マスターとの夜伽の勉強教材」


原因究明するまでもなく判明。

まさかのうちの本が本を買っていました。

しかも俺のためだそうです。男冥利に尽きるが…夜伽とな?


考えてるうちに下から覗き込むような感じで無表情なベルが話す。


「私はマスターの物。マスターを喜ばせる。だから勉強」


そのために夜の相手は飛躍しすぎな気はするが…。


「気持ちは嬉しいが…いつも通り俺の傍で寛いでくれてたら俺は一番嬉しいよ」


そう言いながら俺は見上げているベルの頭を撫でる。

いつも通り無表情だが最近では少しだけ喜怒哀楽がわかるようになった。

今は幸せでご満悦といった感じ。


ある意味、俺はベルのおかげでここに居られるんだ。

だから喜ばせなきゃいけないのは…こっちなんだよ。


いろいろ解決したので俺達は就寝する。


「んじゃ、寝るか」

「就寝」

「……私もー」


こうして俺はベルとネムトと一緒にソファーで寝ることになる。

二人は幸せそうに抱き着いてきているので俺も抱きしめ返す。


アサトがいないから隣の取り合いにならないが、

これはこれで寂しいものだ。


早めにヨグソトースが俺のことを信じてくれるようになればいいなぁ。

ロリコン扱いされてる間は無理な気がするが…。


今日も我が家は平和です。



◆◆◆◆◆


―――寝室


ベッドの上で2柱が眠る前の少しの前。


「……ねえ?お姉ちゃん」

「……?…なに妹?」

「……なんであの人間と一緒にいるの?

人間なんて…自分のために何かを利用したり殺したりする愚かな生き物だよ。そんなのと一緒にいるなんて…」


その問いにアサトは「う~ん」と少し考えた後に答えた。


「…私はナユタ以外の人間…見たことないから…

…人間が悪いのかどうかわかんない…。

…でもナユタは私に心をくれたの…一緒にいてくれるの…私が欲しいと思ったものを沢山くれて……してほしいと思った事を叶えてくれるの。

…だから私は大好きなの…ずっとずっと傍にいたいの」


まっすぐにそして幸せそうにその言葉を言う姉の姿をヨグソトースはじっと見つめる。


「……信用なんて…できないよ」

「…ナユタは誰かを利用したりしないし…させない。

悪いことははっきり悪いことっていうの…」

「………」


会話の途中でアサトは首をこっくりこっくりして眠りそうになっているが眠る前にまだ疑っている妹に言葉を1つ残す。


「……ふぁ…ん…だったら傍にいればわかるの…

ナユタが…私の大好きな夫が…どんな人か…」


その言葉を残したアサトは眠りにつき小さく可愛い寝息をたてはじめる。

そんな姉の姿をヨグソトースはじっと見つめる。

幸せそうなその顔を見ながら彼女の心には二つのものが生まれる。


1つは「どうしてそんなにまっすぐ人間を信じられるのか」という疑問。


そしてもう1つ。

それは嫉妬だった。


…どうしてずっと心を持ってなかったお姉ちゃんは大事なものをすぐに手に入れられたの?……私には何も…誰も…なかったのに…。


沸き立つ思いを彼女は胸の奥に仕舞う。

姉が悪いわけじゃないことは彼女自身でもわかっているのだから。


そして姉に抱き着きながら彼女は静かに眠りにつくのだった。

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