第26話 神でも相性は大事みたいです

 いつも通りに俺は昼ご飯の皿を洗い終わる。

 最近は日課になりつつあるな。みんな残さず食べてくれるから作り甲斐があるというものだ。


 濡れた手をタオルで拭いてキッチンから出たそのとき俺の前にアサトとベルとネムトが並んで出てくる。

 何事?

 とか考えているときアサトが少し前に出る。そして、


「…にゃん…にゃん…」


 下から俺の顔を覗き込むようにしながらアサトが両手を猫っぽいポーズをとって猫の真似をする。…かわいいぜ。

 とりあえず抱きしめて頭を撫でる。

 うちの嫁はかわいいなー…目的不明だけど。


 そうしているとその後ろから今度はネムトが前に出てくる。


 こちらを眠そうな半開きの瞳でまっすぐ見ながら両手を広げて…


「旦那様ー抱っこー」


 といいながらピョンピョンしている。

 これはこれですごくかわいい。ええい、褒美だ!


 俺は座って抱っこしていたアサトを足の上にのせてネムトを抱きしめる。うちの嫁たちはかわいいなー二柱をなでなでなでなで。

 至福のひと時である…目的は不明だが。


 そうしているうちに最後にベルが前に出てくる。

 知ってた。流れ的に来ると思ったよ。

 これはベルも何かかわいいことをする流れだろう。

 期待だな。


 スッとかがんでベルは頭の上に手を伸ばして乗せてぴょんぴょんする。

 そして…、


「兎。兎」


 繰り返して「兎。兎」というベル。

 これはもしかして…。


「……ベル、兎の鳴き声は『兎』じゃないぞ」

「驚愕。新事実」


 兎の真似をしたまま驚くベル。何やってんだ魔導書。

 だがまぁ…これはこれでかわいいのでよしとしよう!

 アサトとネムトを離してベルを抱きしめる。

 いつも通り無表情だがどこか満足気だ。

 やり切った顔っぽいベルを撫でる。


 さてここまで結局この2柱+1冊の目的が不明なままである。

 仕方ないので聞いてみることにした。


「それで?結局何をしてたんだ?」


 2柱と1冊はお互いに顔を見合わせた後、

 こちらに(ベル以外が)笑いながら答える。


「…構ってアピール…」「構ってアピールー」「構って表現」



 とのことだった。

 あーもう!かわいいなー!

 俺は2柱+1冊を思いっきり抱きしめる。

 なにも用事がなくてもこうして触れ合えるぬくもりはとても幸せで。

 俺はこのぬくもりを手放せないだろうな。

 ロリコンだって?……いや俺より年上だからセーフだよ…きっと…多分。



 今日も妻たちは笑顔です。



 ◆◆◆◆◆



 ―――次の日。


 今日は暖かく日の光が気持いい。

 リビングのソファの前には寝ている神達の姿がある。

 アサトとネムトが一緒に抱き合いながら気持ちよさそうに寝ている。

 そしてベルはツァトと一緒に布団でヌクヌク。

 ニャルは……何故かテルテル坊主になっている。

 そしてそのニャルニャル坊主を猫たちがネコパンチしている。

 …あれはサンドバックにされてるな。


「おっふぇ!おっふぇ!ナユタァ!助けぇっふぇ!」


 何をしたらあんなことになるやら。

 あの猫たちはなぜかニャルにだけは懐かない。

 きっと気づいているんだろう。あいつが駄目な神様だということが。

 俺は無視して暖かいお茶をすする。


「ふーあったまるな」

「なのじゃ。こういう日は何もせずにゆったりと休むべきなのじゃ」

「確かになー」


 俺と一緒にお茶を飲んでいるバーストと一緒にほっこり。

 とそんなところで「ピンポーン」が鳴り響く。


「客だな。ちょっと出てくる」

「うむ。わかったのじゃ」


 そして玄関に行くとスーツを着た中年の男がいた。

 だれだろ?


「えーと…」

「やあ!ナユタ君!久しぶりだね!イグ田です」

「あーイグさんだったですか。人が変わってるんでわからなかったですよ」

「以前ここに来たイグ久保とは別人だからね」

「なかにどうぞどうぞ」

「うん。お邪魔します」


 そんなこんなでイグ田さんを家の中にいれる。


 リビングの扉を開けると、お茶をおかわりしているバーストがこっちを向く。


「誰じゃったのじゃ?」

「イグさん」


『ガッシャーン』


 大きな音を立ててバーストが持っていたものが床に落ちる。

 ゆ、湯呑み―!?


 そんな状況の中でイグ田さんが入ってくる。


「…おや?バーストも来ていたんだね」

「フシャーッ!?フシャーッ!?」


 バーストがイグ田さんを見た瞬間、威嚇する猫とかした。

 ただ人型のままなのでこれはこれでちょっとかわいい。


「ど、どーしたんだいバースト?」

「お、おう!バースト落ち着け。

 どうしたんだ?イグ田さんは別に悪い神様じゃないぞ?」

「存在悪なのじゃ!この蛇は我にとって存在悪なのじゃー!」

「えええっ!別になにも悪いことしてないよ」


 俺の陰に隠れたバーストがジト目になりながらイグ田さんを見つつ言う。


「貴様は一言多いのじゃ!

 いつも何か我にとっての不利益になるのじゃ!」

「いや…そんなことは無いと思うんだけどなぁ」

「まぁまぁ…落ち着けバースト。

 なにかあるとしても悪気があるわけじゃないんだからさ。

 何か嫌なことがあればその時に言えばいいんだから」

「…むー…」


 俺に隠れているバーストの頭を撫でる。

 バーストが一番好きな耳撫でで落ち着かせる作戦である。

 先ほどまで錯乱気味だったバーストが気持ちよさそうにする。

 よし!これで大丈夫だな!


 事態を鎮静化したと思ったそのとき。

 その光景を見ていたイグ田さんが思った事を喋りだす。


「……あぁ!なるほど!なんで人間嫌いのバーストがナユタ君と仲がいいのかと思ったけどバーストはナユタ君のことがs…キュレッ!」



 1カメ

「…キュレッ!」


 2カメ

「…キュレッ!」


 3カメ

「…キュレッ!」



 イグ田さんが喋っている途中でバーストの姿がいつの間にか消えていた。

 残像を残しながら壁を蹴ってバーストは空中回し蹴りをイグ田さんにかます。

 椅子に座っていたイグ田さんが空中で左に高速回転しながら床に叩きつけられる。


「い、イグ田さぁーん!」


 しかしこれで終わりではなかった。

 地面で仰向けで倒れているイグ田さん素早くマウントポジションをとるバースト。そしてそのまま顔をボコボコに。


「だから!一言!余計だと!言っておる!のじゃぁ!」

「やめて―バーストー!もうイグ田さんのHPはゼロよ!」


 荒ぶるバーストを後ろから抱きしめて止める。

「にゃっ!?」と驚き真っ赤になったバーストがやっと暴走が止まる。

 とりあえず落ち着くように抱きしめながら頭を撫でることでようやく事態が収まる。

「にゃぁ~にゃぁ~」


 気持ちよさそうなバーストをよそに床に転がっている無残なイグ田さんを見る。


 悪気はなくても言われたくないことを言うとこうなるんだな…。

他人と話すときはしっかり内容を考えて、相手の嫌がることを言わないようにしよう


 俺はいつの間にか猫の姿になっているバーストを抱きしめつつ日の光が当たる窓際へと向かう。

 暖かい日の光が気持いいなぁ。


 後ろに転がっている亡き骸(※死んでません)を意識から外して俺はバーストと仲良く日光浴をするのだった。



 今日も我が家はへい…平和かなぁ。

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