第27話 巻き込まれる人の身にもなれ

 俺は誰かに揺さぶられ起き上がる。

 そこには…おれに乗っかっているチャウグナーの姿があった。


「おはようございます!ナユタさん!『ガシィッ』いたたたた!アイアンクローはやめてください~」


 俺はチャウグナーの頭を鷲摑みにし、俺の上から降ろす。


「…ほう?既婚者に夜這いとはいい度胸だなぁ。…遺言は何がいい?」

「待って!?待ってください!夜這いじゃないです!まだナユタさんは起きてないです!ここは夢の中です!」


 必死に話すチャウグナー。

 よく見てみるといつもの自室ではなく正方形の電球に照らされた部屋だった。傍にアサトたちもいない。


「つまりどういうことだ?」

「言ってたじゃないですか!この前!『春にイベントする』って!」


 そういや言ってたな…結構前に。


「ふ~ん…で?どんなことするんだ?」

「はい!しっかり聞いてくださいね。題して…」


「第1回 チキチキ血液スープ-猛毒を添えて- 試食会! ですよ!」


 ……いや分かんねえよ。

 その後にその試食会とやらの概要を聞く。


 ①適当な人間を4人くらい夢の世界に連れ込んでここに連れてくる。

 ②猛毒入りのスープを飲んで死んだらこの世界から脱出できる。

 ③材料とかは四方の部屋に配置されている。

 ④ある部屋にはお腹を空かせた神話生物「狩りたてる恐怖」君が毒の在り処が書いてあるメモを守っています。

 ⑤一応、時間制限があります。


 とのことだった。

 そしてその説明を聞いた俺の感想は…。


「ただの誘拐テロじゃねぇか!?」

「いえいえ…そんなことは無いですよ?ちゃんと人間側のことも配慮して夢の中で死んでも現実には影響ないようにしてるんですから」

「いや…でもさ…④のこれどうするんだよ?」

「何か新鮮な人間とか食べれば満足して帰りますよ」

「食われる人が出るじゃねぇか!!!」



 そんな議論の末、俺はこの謎のテロ企画のテストプレイヤーとして最初の試食の人(犠牲者)の4人に混ざってほしいとのことだった。

 何でやねん。



◆◆◆◆◆



 ―――試食会スタート


 俺はさっきの中央の部屋で目を覚ます。

 そこには俺以外にも3人の人間がいた。


 少し不良っぽい男「内海」

 気の弱そうな女性「北村」

 正義感の強そうな男「佐藤」

 でもって俺「星野」


 こんな感じ。

 でもって現在。

 急にこんなところに連れてこられた他3人は軽いパニック状態。

 特に内海と佐藤が絶賛口喧嘩をしていた。


「…とにかくここは協力してここから出ようじゃないか!」

「テメェ指図してんじゃねぇよ!」

「内海さん、こんな状況なんだからみんなで行動する方が…」

「俺はテメェみてえな指図だけする『なよなよした男』が一番嫌いなんだよ!」

「お、お二人ともどうか喧嘩をやめてください!」

「女が指図すんじゃねぇ!」


 そう言った内海が北村さんに殴りかかろうとする。

 …さてと。さすがにこれは見て見ぬふりは出来ないな。


 俺は間に割り込んでその拳をつかんで止める。


「まぁまぁ落ち着けって」

「なんだテメェ!邪魔すんじゃ…いってぇ!」


 俺はそこそこ強い力で内海のこぶしを握り締める。

 このまま力を入れ続ければ骨が砕けるだろうな。


「こんな状況で混乱するのはわかるが…女の人に手出したらいけないぞ?わかったか?」

「………」


 俺はさらに力を入れてる。『メキャ』


「いたたたた!?わかった!わかったから離せ!」

「ほい」


 こうして俺は喧嘩を止める。

 何故こんなことしてるんだろうか。

 ……でもなーこのままこの企画をやらせて大丈夫かどうかを試さなければいけない気がする。あの駄神の友人としてはな。

 あー…懐かしいな。探偵の友人と依頼をこなしてた頃もこんな感じだった。


 …妻たちに会いたいよう…。



 でその後、なんやかんやをこなして調理場でスープの材料を発見。

 メモを発見して毒の入ったスープを飲んで元いた場所に帰れることも判明。

 だが…肝心の毒が見つからない。

 いやー…まぁ…最初の部屋の電球の中に入ってるのは俺は知ってるんだけどね?ここで言ったら俺が主催者とグルだとばれてしまうもの。

 ……あれ?おれ悪役じゃね?


 最後に残った部屋、小窓から見ても「狩りたてる恐怖」くんがいるから入れないけど…あそこに毒の在り処が書いてあるメモがあるんだよな。


 でもってそれに他3人も気づいて今またもめてんだよね。


「…だからあんなのと戦っても勝てるわけがないだろ!

 無茶はよすんだ!」

「だったらどうするんだ!もうあそこしか調べてない部屋はないんだ!あそこに毒があったら俺達何もできないぞ!」

「……一応メモには『新鮮な食べ物』をあげれば帰ってくれるとあったので…何かあげれば…」


 と、こんな感じで約20分経過。

 あー時間制限やばいな。これはもうぎりぎりだ。

 ……仕方ないかー。


「あいつを退かせる方法。思いついたぞ」

「!?ほんとか!」

「いったいどうするんだ?」

「説明の準備ですこし本が置いてあった部屋に行ってくるからここで待っててくれ」

「わ、分かりました。気を付けてくださいね」


 他3人と別れて俺は中央の部屋に帰ってくる。

 さて反則だが…チートを使うわけでもないのでセーフだろう。

 そう考えながら俺は「狩りたてる恐怖」くんの居る部屋に入る。


 俺に気づく恐怖くん。

 俺がとる手段それは…「俺自身が餌になること」だ。

 恐怖くんは餌を食べたら帰る。

 だから俺という餌をあげる。単純でしょ?

 もうほとんどメモ見つければ帰れる状況だし一人死んでも大丈夫だろう。

 俺は魔術使えるから死なないしな。


「よし!こい!」


 俺は恐怖くんがかぶりついてくるのを待つ…が全然来ないからおかしいな、と思い恐怖くんを見てみると…


 ぷるぷるぷるぷる


 俺を見た恐怖くんが怯えている。

 …なんでや!俺ただの人間やろ!


「俺はわるい人間じゃないよ?おいでおいで~」


 この後、

 怖がっている恐怖くんが俺にかぶりつくまで10分かかりましたとさ。



◆◆◆◆◆



 ―――もしゃもしゃ、ぱくぱく



◆◆◆◆◆


 で…俺を食べて満足した恐怖くんは無事、家に帰りました。

 だがな…なぜ頭だけは全く食べようとしなかったのか。


 俺は現在、俗にいう生首である。

 痛覚を遮断している俺はなんかこう…美術館の石像の精神で他3人が来るのを待つ。あっ…来た。


 恐怖くんがいないのを確認しここに入ってきた3人は俺の生首を見つける。


「…そんな…星野さん!?」

「…まじかよ」

「……犠牲者が出てしまった」


 俺の生首を見て愕然とする3人。

 おう…奥にメモあるからさっさといけや。


 すると何を思ったか俺の生首を囲んで3人が涙を流しだす。


「…私たちのために自分で犠牲になるなんて…」

「すまない…僕が力足らずなばかりに…」

「……へっ!気に入らなかったが…嫌いじゃなかったぜ…」


 ……なにこれ?公開処刑?恥ずかしいんだが?


 これはこれで時間切れになりそうなので魔術発動。

 3人の頭の中に声を出す。


『……礼はいいから…さっさといけ。この先に毒の在り処があるぞ』


 それを聞いた3人がさらに騒ぎ出す。


「なんか今あいつの声が聞こえた気がする。この先に毒の在り処があるって」

「…内海もか!?僕もだ…」

「……私もです。こんなことってあるんですね」


 ようやく俺の首を置いた3人は無事奥でメモを見つける。

 がトラブルが発生した。


「…?…なんだこの像」


 ん?像なんて予定にはなかったはずだが?

 そう思った俺は奥に目を向ける。

 そこには見慣れた「象の神様の像」と「なんか木の根っこみたいな神様の像」があった。…何してんだあいつら。


 俺は像達…というかチャウグナーとニャルに魔術で話しかける。


『何してんのお前ら』

『…いや…なんかナユタが楽しそうなことしてるから参加しようがと思って来てみたら…チャウグナーに怒られて急いで像に化けた』

『感動のシーンで何しに来てるんですか!まったく!』


 そんなこんなで身内でこの企画の改善案を話していると急にチャウグナーが叫ぶように言う。


【勇敢なるものよ!現へ還るがいい!】


 そう叫んだ後に部屋が急に明るくなり俺の体が再生される。

 そして人間の姿になったチャウグナーがこちらに笑いかける。


「どうでしたか!いい試食会でしょう!」

「……二度と呼ぶな」


 そして夢の空間から現実に自力で帰る。

 ……なぜ夢の中で疲れなきゃならんのか。



◆◆◆◆◆



 ―――寝室


 俺は目を覚ます。

 今度は寝室で隣にはベルやネムト、そして傘の姿になって寝ているベルもいた。……どういうことなの?


 俺が困惑していると隣で寝ていたアサトが半分寝ているような寝ぼけた状態で話しかけてくる。


「…んむぅ?…ナユタ?…」

「おはよ、ベル」

「…ん…んー…」


 寝ぼけたまま俺に抱き着いてくるアサト。

 愛おしい妻を抱き返し眠そうな彼女の頭を軽く撫でる。


「……ふみゅー…」


 気持ちよさそうなその顔を見て二人で二度寝を始める。

 やっぱり現実のほうが夢よりも幸せだな。


 今日も我が家は平和です。


 尚この後、

  血のスープを飲まされる悪夢を見る人間が大量発生したらしい。

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