第25話 警察の前だと悪くなくても緊張する

 ―――沖縄県警・特殊捜索科


「……空間座標固定。疑似魔術発動。『門の創造・乙型』起動」

「門の安定を確認しました。常盤さんいつでもいけます」

「…そうか。おい、行くぞ相楽」

「……行きたくないっす」


 俺は室内から出ていこうとしている後輩、相楽の首根っこをつかんで門の中へと入っていく。


「仕事にいやもくそもあるか!」

「離せ―!鬼!悪魔ー!」


 こうして俺、「常盤守ときわまもる」と後輩「相楽邦人さがらいくと」は地球外別次元の捜査へと出る。

 本来ならそんな危険な空間に捜査など行くことは無い。

 そこに神でもいれば簡単に殺されてしまうこともあるからだ。


 だが今回はそうも言ってられない事情がある。


 それは少し前のこと。

 小さな子供を襲う危険な神として警戒していた神「イゴーロナク」

 その神の教団を一掃するために大規模作戦があった。

 この作戦は当初の目的では「神が来る前にできるだけの信者を逮捕する」という目的だった。


 だが作戦の際中に虫の息というほど弱った状態の神が現れ、

 それを聞いた本部は作戦を急遽変更。

 弱った神を捕獲して幽閉するに至った。

 野放しにされていた神とその教団を一掃できたことにより今回の作戦結果は大成功といっても過言ではなかった。


 だがそれと同時に問題が発生した。

 それはいったいどこの何が邪神の一柱の「イゴーロナク」を

『体中穴だらけかつ真っ二つ』の瀕死まで追いやったというのか。


 当の神自身に聞いても「豆まきに巻き込まれた」という意味不明な供述しか聞けず、捜査本部は困った末に「神の逃げてくる前にいた空間を調査して人間に危険を及ぼす存在がいないか調査する」という結論に至ったのだった。


 そしてその調査に選ばれたのが俺達、というわけだった。



 門をくぐり空間を超える。

 そして目を開き別次元の世界を見渡す。

 そこには…七色に変化する謎空間。

 しかし周りは綺麗な青空に広い草原のような大地。

 気温もあるという不自然さまで完備の怪しいこと極まりない空間だった。


「なんっすかこれ…これ普通に地球なんじゃ?」

「馬鹿野郎、よく見ろ。この空間の端はどう見てもおかしいだろ。

 端がある地球なんてあってたまるか」

「……うわ、ほんとだ。…ってことはここは意図的に誰かが地球の環境に似せたってことですかね」


 すっとぼけた顔で核心に迫ることを言う相楽。

 やる気はないがこういう時なぜかいい感じの頭のまわり方をするんだよなこいつ。


「よく気づいたな、その通りだ」

「へっへー!俺にかかれば余裕っすよ!」

「…調子に乗るな」

「…ぎゃっ!」


 俺は相楽に拳骨をかます。

 すぐに調子に乗る癖さえなければ比較的優秀なんだがな…。


 すると俺に拳骨された相楽が何かに気づいたようにある一方を指さす。


「…先輩…あれ」

「…ん?」


 そこには大きな建物があった。

 距離があるのでここから見てもよくある大きな家のようにしか見えない。


 警戒しつつその建物に接近してみるとそこには立派な一軒家といった感じの建物があった。どこからどう見ても家。

 正面口にたどり着くとそこには「星野」という表札。

 どう見ても普通の家だ。この空間にさえなければだが。


「…先輩…どうします?」

「……行くしかないだろ。いつでも銃を抜けるようにしておけよ」

「うっす」


 俺達は警戒しながら家のチャイムをゆっくりと押す。



◆◆◆◆◆



 ―――台所


 俺は今日の昼ごはんの皿洗いを完了。

 猫たちに猫缶をあげた後に「これからどうしようか」とやっていると、

「ピンポーン」という音が聞こえる。客か。

 俺以外は今リビングのソファの前で仲良くゲーム中だし俺が出るか。


 …で玄関に到着。


「はーい、今開けまーす」


 そう言って俺が扉を開けるとそこには、

 スーツ姿の人間の姿をした二人組がいた。見覚えはない。


「どちら様ですか?」


 対応している俺に若干、戸惑っている二人、

          俺何かおかしなことしたかな。

 そう考えていると二人のうち少し年を取った男の人がこちらに返事をする。


「…失礼。私は沖縄県警、特殊捜索科の常盤と言います。

 ……あのあなたが星野さんでよろしいでしょうか?」


 意外なことに二人とも人間みたいだ。

 ……最近人間の姿をした人外とかしかいないから少し新鮮である。

 だが警察かー。しかも沖縄県警。

 ……俺何か悪いことしたかな。…思い当たることはない。


「はい、俺が星野です。星野那由多」

「そうですか…そのお聞きしたいことがあるんですが…よろしいでしょうか?」

「はいどうぞ。…あー聞くこと多そうですか?多いならよければ上がってください」

「……わかりましたそれではお邪魔させて頂きます」

「…お邪魔しまーす」


 こうして二人の警察の人を中に案内。

 大丈夫だ。

 うちの家族にやましいことをしている奴なんて……一人いたわ。

 ……まぁ…ニャルあいつは捕まっても支障ないからいいや。


 俺は客人にお茶を出す。


「どぞー」

「あーどもっす。…あいたっ!?」

「無警戒に飲む奴があるか!」


 俺からお茶を受け取り飲もうとした若い方の男の人が拳骨を食らう。

 常盤さん…やりすぎるとパワハラとか言われますよ。


「痛いっすよー先輩~のど乾いてるんだからいいじゃないっすかー。

 解毒魔術で先に調査してから飲めばいいんすから」

「はぁ…お前なぁ。…すいませんナユタさん…その…失礼なのはわかってるんですが…」

「毒見ですよね、構いませんよ。こんなところに住んでる奴なんて怪しいこと極まりないですから」

「…不躾な部下で申し訳ない」


 その後、お茶に何もないことも確認され茶菓子を食べながら話は進んでい行く。


「それでは聞きたいんですが…ナユタさんは人間ですか?」

「はい。魔術は使えますが一応、人間ですよ」

「…なるほど。ここでは何を?」

「家族と一緒に暮らしてます」


 そう言って向こうのリビングで遊んでいるアサト、ベル、ネムト、ニャルを指さす。


「…そうですか。なぜこんなところで生活を?」

「俺はいろいろあって魔術師になってしまいましたがもとは一般人でしたからね。魔術師なんて普通の世界にいたら迷惑が掛かってしまいそうですから。今はここで生活しているんです」

「……謙虚っすね。自分だったらすごい魔術とか使えればもう少しはしゃぐっすよ」

「…まぁ、人間のルールを破らない程度には使ってますが…それだけですね。必要最低限って感じです」



 と話しているところに廊下からバタバタと走ってくる足音が聞こえる。

 ……あいつ…なんてタイミングで来やがる。

 門の創造を先に唱えておく。


「ナ~ユタさんっ!血~くだ『ヒューッ』あぁぁぁぁぁぁ…」


 扉を開けてすぐのところに門を設置しておいたので入った瞬間にチャウグナーが落ちて消えていく。

 そして門を閉じ、扉を閉めて俺は警察の二人の前に戻る。


「失礼しました」

「……いえいえ。さっきのは……門の創造ですか?」

「ええ。便利に使わせてもらってます」

「…………なるほど…」


 何故か俺の前にいる二人がドン引きしている。何故だ…。

 気まずいのでさっさと聞きたいことを聞いてもらって帰っていただく方向に路線変更。

※門の創造は本来、片手間で使える魔術ではありません


「えーと…聞きたいことはこれで全部ですか?」

「…いえ…まだあるんですが……その…」

「星野さん、イゴーロナクって知ってますかー」

「!?」


 何か悩んでいる様子だった常盤さんの横でもう一人の男性が俺に聞いてきてそれに隣の常盤さんが驚く。

 もしかして聞きに来たことってあのロリコンについてなのかな。


「ええ、知ってますよ。この間、家に来ましたから。

 俺の妻に手を出そうとしたので…こうスッパリと切りつけました。

 ですが縄で縛っていたのでその時に縄が解けて逃げられてしまったんですよ」


 この俺の返答に常盤さんがものっそい驚き、その隣の男性は「おー」みたいなリアクションをしている。


「…ですって先輩!仕事終わりまし『ゴンッ』痛いっ!?」

「もうお前黙ってろ」


 ため息をしつつ常盤さんがこめかみを押さえながら何かを諦めた表情をする。……お仕事お疲れ様です。


「……単刀直入に言いますと…私たちはイゴーロナクを瀕死に追いやったのが誰かという調査をしていまして。

 ナユタさんが奥さんに手を出されて退治した、という認識でよろしいでしょうか?」

「はい。間違いないですよ。まぁ俺がやる前に妻が穴だらけにしていたので半分俺、半分妻という感じですが」

「…奥さんも魔術師で?」

「いやぁ妻は神ですね。一般的にはって呼ばれてます」


 正直に答えていると正面の二人が硬直した。

 あれ?何かおかしいこと言っただろうか?


「…つまり星野さんは神を一人…いや1柱を妻として娶っていると?」

「いえ、正確に言うと妻は2柱いて…名前はです」


 さて俺の回答を聞いていくごとに常盤さんがやつれていく。

 これがSANチェックですか?

 俺の返答の後、常盤さんは長考した後に覚悟を決めた顔でこっちに質問をしてくる。


「…自分たちは人間の安全を守るために警察としてここに居ます。

 ですから…最後に聞かせてください。


 凄い真剣な表情でこちらを見ている常盤さんに俺も真剣な表情で返す。


「…俺はここで家族と一緒に暮らしているだけですよ。

 今までもこれからも。そこに人間とか神様とか関係ないんです。

 だから俺は自分の大事な家族を守るだけですよ。

 そのための魔術ちからですから

 だから…こちらに手を出されない限りは何もするつもりはありません」


 少しの間を置いた後、常盤さんがお茶を飲んで言う。


「成程…わかりました。ご協力ありがとうございました」

「いえいえ。こちらこそ大したもてなしも出来なくてすいません」


 どことなく緊張が解けた気がする。

 少なくとも常盤さんは俺のことを人類ひとの敵とは思わなかったようだ。


 そうしていると後ろからニャルが話しかけてくる。


「おっ客か?ナユタ」

「おう、沖縄県警の常盤さんだ」

「ゲッ!?」


 あからさまに嫌な顔をするニャル。


「常盤さん。これはニャルラトホテプと言って……俺が魔術師になったっ元凶です…」

「……それは…心中お察しします…」


 これで通じるあたりニャルに関してどこでも共通認識らしい。



 この後、二人は聴取を終えて帰る。

 玄関のところで俺は帰ろうとしている常盤さんにメモ紙を渡す。


「常盤さん。これどうぞ」

「…アドレス?」

「はい、俺のです。

 神話関連でわからないことがあったら聞いてください。

 わかる範囲で答えますから」


「……わかりました。ご協力感謝します。それでは」


「お邪魔しましたー」


 こうしてうちに来た警察は無事帰った。

 正気を失う事件とかなくてよかった。


 結果に満足して家に入ろうとしたそのとき、空間をゆがめてチャウグナーが涙目で現れる。


「…ひどいですよー…ナユタさ~ん…」


「…すまん。忘れてた」


 この後、俺はチャウグナーの気が済むまで血を飲ませました。

 普通に致死量なんだよなぁ。



 今日も我が家は平和です。



◆◆◆◆◆



 ―――ナユタの知らないこと


「……先輩…複数の神と対峙して…俺達生きてますよ…」


「那由多さんがまともな人間で助かったな…。…いやほんとに」


とぼとぼと帰っていく二人だった。


 

 ナユタは常盤の信頼を勝ち取ることにより無事、

人間の敵対してないことは証明できた。


 だがナユタは知らない。


 沖縄県警のデータベースの中。


 そのごく一部しか知らない秘匿された情報。


 その一番上のアザトースの情報よりさらに上に位置するところに自分が登録されたことを。


 ・情報LEVEL 禁忌目録アカシックレコード


 星野 那由多 種族:人間 


 家族構成:「妻」アザトース 「妻」クトゥルフ 

       「???」ニャルラトホテプ 他数柱


 カテゴリ:神を統べるもの 人の救済者 人と神の境界線 

     魔術王   神の夫 


 内容:不用意に触れることなかれ。まだその世界にいたいならば。

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