第23話 不意打ちですか?不意打ちです。

 今日から3月。

 周りの環境とリンクしているうちにもついに春が来ました。

 そして今日は春の大掃除。

 いらないものを片づけて冬物を春物へと切り替える。

 めんどくさくもありやるべきことでもある大事な行事である。


 そして今日、冬の間大変世話になった廃人製造機ことコタツを片づける。

 まわりの掃除を先に片づけいよいよこれが最後の掃除だ。

 なんでコタツを最後に片づけるかって?

 ……それは…


「おーい!ツァト!起きろ!そしてコタツから出てこい!」

「いやだぞ!絶対嫌だぞ!ここは私の城だ!絶対に出ないぞぉ!籠城戦だ!」



 そうコタツに取り込まれてしまった憐れな神が抵抗しているからであった。

 こいつその実、正月から今日までまったくコタツから出ていないのだ。

 流石にひどい。もうこれは立派な冬眠である。

 しかーし!俺はこの家の家主俺の言うことは絶対なのだ!


「よろしい、ならば強制立ち退きだ。アサト!ニャル!バースト!行くぞ!」

「「「おおー!」」」

「「「「せーのっ!」」」」


 息を合わせて俺とニャル、アサトとバーストでコタツを持ち上げる。

 そして亜空間に収納。これにてコタツは終幕だった。

 そこにはぷるぷると震えているツァトだけが残った。


「……よし!おはよ!ツァト!」

「鬼!悪魔!邪神!闇の帝王!」


 コタツがなくなりぷるぷるのツァトが抗議の言葉を浴びせてくる。

 邪神はお前だろ。


 そんな抗議を受け流しているとコタツのあったところに急にもう一人の姿が現れる。

 それはいつか見た水色の髪の少女だった。

 少女は水色の髪に隠れそうなくらいに体を縮めながら眠そうに声を出す。


「うー…さむいー」

「…お前…まだいたのか」


 俺と少女が話していると先ほどまで講義を続けていたツァトが驚きながら少女に話しかける。


「ぬ?クトゥルフ、お前なんでこんなところにいる?」

「やほー…ツァトグアー」


 リアクション的にも少女の名前を呼んでいるの的にもどうやら知り合いのようだ。




 とりあえず寝ている彼女に座ってもらってリビングで自己紹介が始まった。

 テーブルに座っているのは俺とクトゥルフと知り合いらしいツァトだ。


「…じゃあ改めて…俺はこの家の家主のナユタだ」

「んー…」


 自己紹介したものの少女…クトゥルフはすごく眠そうにしていて反応が薄い。まだ目が覚めていないのかもな。

 それを感じ取ったツァトが代わりに説明してくれる。


「こいつはクトゥルフ。本来ならルルイエって場所で寝ている海の神だ。…お前、なぜこんなところにいる?」


 ツァトの問いに体を揺さぶられたクトゥルフが答える。


「ヒュドラちゃんがねー最近ーツァトグアがいい安眠ができるところを見つけたって言ってたから来てみたのー」

「なるほどな…はぁ」


 そこそこ親し気な感じの二人を見た俺はついでに聞いてみる。


「二人は知り合いなのか?」

「うむ、まぁそうだな。私たちは安眠同好会『永眠民』の設立者でな。私が2番目でこいつがトップだ」


 なんだろうその不吉な組織名は…。

 自殺志願者の集まりかな?


 今度はクトゥルフに質問してみる。


「んじゃ…今度はクトゥルフに聞くが…もしかしてあの後からずっとコタツの中にいたのか?」

「そだよー人間にこんないい安眠道具があるなんて知らなかったしーそれにときどき美味しい食べ物とかお菓子とかが上に置かれてたからーまさに天国だったのー」

「……ときどき食べ物がなくなってたのはお前の仕業だったのか…」

「そだよー」


 用意してた恵方巻が一本消えてたりしていたのはこの子の仕業のようだ。

 謎は解かれた。


「そうか。…コタツは時期が過ぎたからしまっちゃうんだ。悪いなクトゥルフ」

「ううんー別にいいよーあそこにある気持ちよさそうな布団で寝るからー」

「…それは私の羽毛布団だぞ!」

「細かいことは…zzz…気にしない―…zzz」

「勝手に寝るな!」


 というやり取りでわちゃわちゃになっているがどうやら悪い神でもなさそうだし問題もないだろう。

 新しい神がまた増えるのを感じながらとりあえずの挨拶をする。


「じゃあよろしくな、クトゥルフ」


 その挨拶に眠たげなクトゥルフが返事をしてくる。


「うんー

「ああ、よろ…ん?」


 あれ?なんだろう違和感が…


「……旦那様?誰が?」

「んー」


 眠たげな表情のままこちらをクトゥルフが指さしてくる。

 どうやら聞き間違いではないようだ。

 …どういうこっちゃねん。


「えーと…俺達はいつから夫婦に?」

「今日ーこの時をもってー」

「おうふ…」


 何故か知らんが結婚を申し込まれた。

 まるで状況がわからんぞ!

 とりあえずどうしてかを彼女に聞いてみる。


「…どうして俺と?」

「うー前にコタツで気持ちよく寝てるときに見つかったけどー追い出さないでいてくれたのー」

「…まぁ…気持ちよさそうに寝てたしな」

「それに『好きなだけここに居ていい』って言ってくれたのー」

「あー…」


 言った。そういえば確かにそんなこと言った。


「それに一緒に寝てると気持ちよくてー、温かくてー、頭を優しく撫でてくれるのー。控えめに言って大好きなのー」

「…いつ一緒に寝たし」

「コタツで寝ているときにー私が抱き着いてたのー」

「…気づかなかった」


 さてどうやら本気で告白されている様だ。

 困った。物凄く困った。なんせ俺は妻帯者なんだ。

 既婚者なんだ。これで神話戦争勃発とかまじ勘弁なんだが…


 なんて考えているうちにいつも間にかクトゥルフの前にアサトが行っている。いつの間に…。

 二人はジーッと見つめ合う。戦争勃発か?と思ったそのとき、

 二人は突如、握手をする。和平は結ばれたようだ。


「……ナユタ…この子もナユタのことほんとに大好きみたい…新しいナユタの妻の資格ある…」

「…さいですか…」


 どうしよう…俺の妻が自然に認めていらっしゃる。

 どうやらアサトはほんとに俺のことが好きなら重婚もオッケーなようだ。

 器の大きい妻でよかった。


 さて…あとは俺次第ということですね。わかります。

 ……いや…ほんとにどうしよ……


 そんなふうに悩んでいると眠そうな顔を悲しげな表情にしたクトゥルフがこちらを見てくる。


「…もしかしてー…ダメー?…」


 悲しそうな表情で俯くクトゥルフ。

 ………ああ、もう!こういう表情が一番苦手なんだよ俺!

 俺のことがほんとに好きだと言ってくれているなら問題ないし、

 妻も認めている。

 何より好きなだけ居ていいと言ったのは俺だ。

 アサトの結婚も流れで急だったし、これくらい何とかなんだろ!

 …多分!


 意を決した俺は俯いているクトゥルフを抱き上げて、抱きしめる。


「…いろいろ急だけど…これからよろしくな、クトゥルフ」

「…!…うんーよろしくー旦那さまー」


 眠嬉しそうな表情のクトゥルフが俺に抱き着いてくる。

 その表情はとても幸せそうで…泣き顔にするくらいならこの表情でいてほしい、そう思えるほどだった。


 こうして家族、妻が一柱増えました。



 今日も我が家は平和です。



◆◆◆◆◆



 ―――その後。


 幸せそうな新たな夫婦をニャルやベル、アサトが祝福し、

 新妻の頭をナユタが優しく撫でている。


 そんな場面の横で揉めている二柱がいた。

 それはツァトグアとバーストだった。


「…ほれ!さっさと便乗せぬか!」

「いや!ま、待つのじゃ!待つのじゃ!」

「ええい!なんだ!さっさと告白せぬか!もう新しく妻ができておるんだ。いまさらもう一柱の妻が増えても大丈夫じゃろ!」

「いやでもの…」

「……まだナユタが信用できぬか?」

「違うのじゃ!そんなことは無いのじゃ!ナユタは神だとか猫だとか気にしないのは知っておるのじゃ!」

「ならば問題なかろう?ぱっと出てきたクトゥルフがOKなんだから親しくしているお前がだめといわれることもないだろう」


 そういわれたバーストが少し間を置いた後に答える。


「……で、でものぅ…その…恋なんてしたの初めてでどう告白したらいいのかわからんのじゃ…そ、それに…まだ心の準備が…」


 そういいながら人差し指と人差し指の先をツンツンしながらもじもじするバースト。


 それを見たツァトグアが心の中でつっこむ。


(乙女かっ!!!)


 そんな様子でまったく動きそうにないバースト。

 どうやら今回は無理そうだとツァトグアは悟る。

 そしてもじもじしているバーストを見ながらツァトグアは心の中で思う。


(こいつ…この調子で告白なんてできるんだろうか?)




 こうして猫神は絶好の機会を逃すのであった。



 その様子を横から見ていた眷属の猫は鳴き声をあげる。


「にゃにゃにゃぁ~(今日も我らが神は幸せそうだにゃ)」

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