第22話 映画館で急に大きい音が鳴ると驚くよね

 さて…今日はバレンタインデー。

 チョコがもらえるかもと学生が下駄箱をパタンパタンしたり、

 チョコをもらっている人を爆殺する人間が大量発生する日である。



 そんな日に俺は何をしているかと言うと、

 今俺とニャルとベルはニャルの部屋で借りてきた映画を見ている。

(※ツァトグアコタツはいません)

 何故かと言うと…



 アサトとバーストが今、クトゥグア先生の指導のもとチョコを作っているからだ。

 チョコを作って俺に渡すのに俺が教えながら作るのはおかしくね?

 と話しているとちょうど(ニャルで)遊びに来ていたクトゥグアが


「じゃあ私が教えようか?料理とか得意だし」


 といったのでクトゥグアが教えて2柱がチョコを作る、

 もらう俺はニャルとベルと一緒に隣の部屋で待機、

 という話でまとまった。

 ちなみにベルは前回の隠し味(洗剤)の罪で映画組に入れられた。


 で現在見ている映画だが…

 都会から田舎のおばあちゃんの家に引っ越してきた少年「たかし」が沢山の人との交流で成長していくという感動のストーリーもの映画だ。

 そして今、そのたかしの大好きなおばあちゃんが死んでたかしが泣いている感動のラストシーンっぽいところだ。


『……うう…おばあちゃん…』

『泣くな…たかし』

『………父さん…でも…おばあちゃんが…おばあちゃんが…』

『何言ってるんだたかし。おばあちゃんならそこにいるだろ』


 そう言って父親がたかしの胸の中心を指さす。


『……おばあちゃんが…僕の心の中に?』


 それを聞いた父親が首を振る。


『後ろを見てみろ』



 たかしがゆっくりと後ろを向く。そこには…














『タァカァシィィィ!今晩の晩御飯はお前かぁぁぁぁ!!!』









 化け物になったおばあちゃんがたかしを頭からもしゃもしゃしている…

 ところで俺とニャルが同時に立ち上がって全力でテレビにダッシュする。


「「ああああああああああああああ!!!なんでだぁぁぁ!!!」」


 俺とニャルの魂の叫びとともにテレビにパンチが突き刺さる。

 唐突に全力で走った俺とニャルがテレビ(故)の前で「はぁっはぁっ」

 と息を整えていると正座しながら見ていたベルが感想を述べる。


「斬新」

「斬新すぎるわっ!?今までの感動返せや!」

「途中までは完全に感動の人間の成長を描いたストーリーだったのに…」

「俺に勧めてきた店員は『心に響くストーリーですよっ!』って言ってたんだけどな…」

「『心臓に響くストーリー』の間違いだろ…絶対…」



 そんな状況の中、隣から「できたよ~」という声が聞こえてきたので隣の部屋に移動する。



 テーブルにはいろいろな形のチョコが作ってある。おいしそうだ。

 そのまわりにはチョコを持ったアサトとバースト、そして今まさに残像を出しながらニャルにダッシュしているクトゥグアがいた。


「さぁっ!愛しのニャル!召し上がれ!」

「ちょっ!?待て!…グフッ!?」

 綺麗なタックルが決まり吹っ飛んでいくニャルを放置して俺はアサトとバーストに近寄る。


「おおー綺麗にできたな。ふたりとも」

「うむっ!自信作じゃぞ!」

「…んっ!…ナユタ…食べて食べて…」


 勧められるままにチョコを食べる。程よいビター味でで食べやすい。

 これはいいチョコです。

 お礼代わりに二人の頭を優しく撫でる。


「うんうん、美味しいよ。じゃあつくったチョコいっぱいあるし、みんなで食べるか!」

「…ん」

「のじゃ!」

「実食。開始」

「私のチョコあげるわ!ニャル」

「いらん!」



 そんなこんなでわいのわいのしながらみんなでチョコを食べる。

 ……なんかニャルが口にチョコを流し込まれているけど放置しよう。


 楽しそうにしている俺達の横で猫が羨ましそうにこちらを見ている。

 すまんな猫達。

 チョコは命に関わるからお前たちにはあげられんのだ。

 仕方ないので猫缶をプレゼントすると大はしゃぎで持って行ったので大丈夫だろう。

 ちなみにバーストは神なので食べても大丈夫らしい。


 一応、バーストが大丈夫か確認しに行ってみる。

 するとバーストがなんかふらふらしていた。

 ……ほんとに大丈夫なのかあれ。


 心配になった俺が声をかけようとしたその時。


「おい…バーs…」

「にゃっ!ナユタァ~♡」

「うおっ!?」


 こちらに振り返ったバーストがいきなり俺に抱き着いてくる。

 何事!?


「えへへ♡なーゆたー♡」

「…お、おう!どうした?」

「えへへー♡」


 いつも真面目で落ち着いた感じのバーストが甘ったるい声で俺の名前を呼ぶ。いつもとのギャップがあって物凄くかわいい。


 そしてぐいぐいと俺の腕に抱き着いてきて俺の腕がバーストの体に密着して胸の谷間、そして男が触れてはいけない場所に引き寄せられる。


 ごちそうさまで……はっ!?いかんいかん。

 男としては美味しい状況だが明らかにバーストの様子がおかしいのでここはお断りしよう。


「お、おい?バースト」

「にゃっ♡にゃっ♡」


 凄いかわいいがなんかもう日本語も話さずにニャーニャー言い出しているあたりやばいかもしれない。


 そう考えていると腕を離したバーストが今度は正面から抱き着いてくる。

 そして正面から顔を見て気づく。真っ赤だ。顔が真っ赤。

 ……これは…もしかして…


「おーい…クトゥグアー」

「なーにー?ナユター」


 少し離れた場所でニャルの口にチョコ(ブロック)を流し込んでいるクトゥグアにある疑問をぶつける。


「ひょっとしてこのチョコって…お酒入ってる?」

「んっとねー…確か味のアクセントでそこそこ入れてるわよ~」

「……そっかー」


 原因判明しました。お酒です。

 ハイ…これはバースト酔ってますわ。

 お酒…弱かったんだな。今度から注意してあげよう。


 俺に抱き着いたまま顔をスリスリしながら「ニャッ♡」と言っているバーストを撫でてやる。真っ赤な顔で物凄く幸せそうなのでしばらくこのままにしてあげよう。


 ……まぁ、外そうとしてもなんか万力みたいな尋常じゃない力で抱き着かれてるから外せないんですけどね。

 なのに俺は痛くもかゆくもない不思議!神様ってすげー!



 そんなこんなしていると時計が鳴る。もう12時だ。

 夕方から作り始めていたからすでに時間は深夜だ。


 時計の音を聞いたニャルが頭をミキサーに変身。

 口に入っていたチョコをミキサー内にいれて「ガーッ」と混ぜた後に頭を人間に戻してもぐもぐする。便利だなそれ。


「『ゴクッ』…ふう。チョコも食べ終わったし今日はもう寝るか」

「そうね!一緒にね!」

「こんな奴と一緒に寝れるか!俺は部屋に帰らせてもらうぞ!」



 そう高らかにフラグを建てたニャルは部屋に戻っていく。

 その後ろには気配を殺したクトゥグアがいる。もう先は見えた。


「ん…ナユタお休み…」

「マスター。お休み」


 そう言ってアサトとベルは寝室へと消えていく。

 ……俺は?


 こうして俺はバーストと二人でリビングに残される。

 尚、バーストは俺に抱き着いたまま幸せそうに眠っている。

 でもね…抱き着いている腕はまったく緩んでないんですよ…。


 仕方ないのでリビングで布団を敷いて俺に抱き着いているバーストと寝る。

 酒を飲んだ後は体温が下がるらしいし風邪をひかせても悪いのでしっかりとバーストを布団の中で抱きしめて俺は眠る。

 ……いちおう俺も男なんだけどなー。


 俺を信用してくれているバーストに手など出せるはずもなく…俺は静かに眠りにつくのだった。




 ―――翌日。


 はい、おはようございます。

 俺は起床する。バーストはまだ抱きついたままです。

 だが起き上がった俺に抱き着いているので俺が体を起こしたときに眠っていたバーストが目を覚ます。


「おう、おはよバースト」

「……んむ…おはようナユタ……っ!?…」


 目覚めたバーストが俺に抱き着いていることに気づく。

 で、真っ赤になってぴょんと後ろに飛び退いたバースト。


「……なぜこんなことに…」

「覚えてないのか?チョコの酒で酔ったんだよ」

「そうなのかの…いや何となく思い出してきた…お、おもい……だして…」


 なんかだんだんバーストが真っ赤になっていく。


「な、ナユタ…昨日抱き着いて……すまんのじゃ……………すまんのじゃぁぁぁぁ!!!」


 蒸気機関車のように体から湯気を噴き出したバーストはそのまま空間転移で消えていった。…恥ずかしかったんだな。



 それからしばらく…バーストは家に来なかった。






 ――――それから10日くらい。


 最近、バーストが家に来ない。

 多分酔った時のことを気にして家に来れないんだろうな。

 せっかく仲が良かったんだし、このまま会えないなんてのは寂しい。


 そんなことを考えている俺の耳に玄関の扉が開く音が聞こえる。

 誰か来たのかな?と思いながら待つがリビングには誰も入ってこない。

 ……もしかして。


 何となく玄関に誰が来たかを察した俺は気配を消して玄関に向かう。

 そこには半開きの扉とそこからはみ出している黒猫の耳が見えた。

 こちらに気づいていないようなので忍び足で近寄って抱き上げる。


「…よっ!バースト。久しぶり」

「ニャッ!?」


 猫の姿のバーストが驚く。

 やっぱり玄関に来ていたのはバーストのようだ。

 遊びに来たはいいが入りづらかったとかそんなところだろう。


「……ほら気にしないでいいから。あっちで一緒にテレビでも見よう」

「………にゃ~…」


 すこし元気がないバーストを撫でつつアサトたちの居るリビングに連れていく。


 この日、バーストは猫の姿から戻らなかったが次の日から人の姿でまた遊びに来てくれるようになった。めでたしめでたし。



 今日も我が家とその友人は平和です。

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