第21話 ※フィクションです

 今日は節分。俗にいう「豆まきの日」

 そして、ここナユタ家でも豆まきが行われていた。


「おっし!じゃあ豆まきを始めます」

「…おー…」

「おー」

「おーっ!」


 メンツはここに住んでいる1人と1冊と2柱。

 尚、もう一柱は…コタツの中である。


 冬着のアサトが玄関担当。

 ゴスロリのベルがその反対側の窓。

 ロシア人女性っぽいニャルが寝室の窓。

 そして長袖のシャツのナユタがリビングから庭に向かって。


 この配置で豆まきが行われていた。

 家のいろいろな場所で聞こえる「鬼は~外、福は~内」という声。


 そして玄関担当のアサトも自分の割り振られた場所へ向かう。

 そして豆をまくために玄関を開ける。

 そこには…


 ぶよぶよの中年のおっさんのような何かがいた。

 だがそれは決して人間ではない。

 何故ならその何かには首がなく、そして両の手のひらには口が存在しておりその口からは牙や舌が出ている。


 じーっとその存在をアサトが見つめる。

 しばらくするとその存在が話し出す。


「ハァッ…ハァッ…アザトースたんカワユス…ペロペロペロペロ」


 ……どう考えても子供を襲いにきた不審者のそれであった。


 それをアサトも感じ取ったのか拳に力を入れて殴ろうと構えて…リビングのあたりから聞こえたナユタの声で止まる。


「鬼は~外、福は~内」


 それを聞いたアサトは考える。

 ナユタが言うにはこれはいいものを家にいれて、悪いものを家から追い出すためにやることだと。

 ……つまりは


 不審者の前でアサトは後ろに豆をまく。


「……福は…内…」


 言い終わったアサトは不審者に振り返り、手一杯に豆を握り閉め魔力を込める。そしてその豆を思いっきり不審者に投げる。


「……鬼は……外っ!…」


 アサトに全力で投げられた豆は音速を超えて飛んでい行く。

 そして不審者の体を貫通し突き抜けていく。

 もはやそれは豆まきではなくショットガンだった。

 不審者は意識を失ったらしく、体をうつ伏せに倒す。

 その体を第3者が見ればこう言うだろう。ハチの巣、と。


 その様子を見てアサトは満足げにリビングにいるナユタのところへ行く。


「ん?もう終わったのかアサト」

「…ん…無事に退治した」

「はっ?」





 ―――その後。


 …俺は現在リビングのテーブルに座っている。

 そしてその俺の向かいには鉄製の鎖を魔術で強化したものでぐるぐる巻きにされた不審者…というか不神者がいた。


「…で?お前がアサトをぺろぺろしようとして豆まきされた、と」

「拙者、ロリを愛しているからなめようとしたでござる」

「…そうか」


 俺はスッっと席を立ってベルを連れて不神者の側に行く。

 そして…


「ベル…剣モード」

「了解」


 手にベル(剣)を上段で構えて振り下ろそうとしながら俺は叫ぶ。

 そう…俺は激おこだった。


「おどりゃ!人の嫁に手ぇだそうたぁ、いい度胸しとんなぁ!死にさらせやぁ!」

「ストップ!ナユタストップ!」


 ベル(剣)を振り下ろそうとする俺をニャル(ロシア)が止めに入る。


 現状を簡単に説明すると…


 玄関に向かう。

 ↓

 なんか倒れてる。

 ↓

 それを治そうとするとニャルが「縛りあげよう」と言い出す。

 ↓

 とりあえず縛りあげる。

 ↓

 事情をアサトに聞く。

 ↓

 不神者がアサトをぺろぺろしようとしたとアサトから聞く。

 ↓

 俺、マジギレ。

 ↓

 今ここ


 といった感じである。

 いくら大体のことは許す俺でも流石に今回はキレた。

 そりゃ俺の妻を襲おうとした輩を許そうはずもない。

 が、いきなり斬りかかるのはさすがにあれなので一応話を聞いておこう。

 

「……で?お前誰だ?」

「ふっふっふ…拙者の名はイゴーロナク。ロリコンだ!」

「よっしゃ!死にさらせぇ!」

「お、おちついてぇー!」


 ニャル(ロシア)に宥められて何とか席に着いた俺はニャル(ロシア)から説明を聞く。


「こいつはイゴーロナク。さっき言った通りロリコンだ。まごうことなきロリコンだ」

「…他には?」

「完全にただのロリコンで…あとこいつの信者もロリコン」

「…なるほど…おいお前、言い遺すことあるか?」

「YESロリータ!GOタッチ!」


 立ち上がった俺は横に置いておいたベル(剣)でイゴーロナクを真っ二つにする。だがその際に拘束していた鎖も一緒に斬ってしまう。

 拘束から逃れたイゴーロナクが真っ二つのまま後ろに飛び退きながら門を発動する。このロリコン逃げるつもりか!


「ふっふっふ…拙者の罠に引っ掛かったでござるな、闇の王ナユタ!

 拙者はこのまま『イゴーロリコンナク教団∺沖縄支部∺』に逃げ込ませてもらうでござる!」


 そう言い残したロリコンは門を通って逃げていく。

 それに反応した俺が追いかけようとするがニャルが俺を止める。


「…あー…ナユタ…多分追いかける必要はないぞ」

「あんな危険分子を野放しにするのか?」

「…いや…多分あいつ1時間くらいしたら捕まるぞ?」

「…えっ?」

「…まあ…テレビ見ながら待っててみ」

「……わかった」


 

◆◆◆◆◆



で、ニャルの言葉を信じてテレビを見ているとニュース番組で緊急のニュースが流れた。


『臨時ニュースです。先ほど沖縄県警が、最近怪しい動きをしていた狂集団「イゴーロリコンナク教団」を襲撃。そして子供たちを襲ったりしていた教団信者及びその崇拝されていた神「イゴーロナク」を捕縛しました。

 イゴーロナクは「悪気はなかった。むしゃくしゃしてやった。反省はしていない」といっており、これに対して沖縄県警は「ロリコン死すべし。慈悲はない」として、永久禁固刑で沖縄地下刑務所B15679界に幽閉するとのことです』


 こんなニュースだった。てかなんだこれ!?

 驚いている俺の横で苦笑いしているニャル(ロシア)が俺に言う。


「まあ、こうなると思ってた。逃げる場所が悪かったわねー」

「なんでこんなニュースしてるんだ?これ普通に放送されていいのか?」

「これは一般人から見たらただの痴漢の逮捕ニュースに見えるし聞こえる特殊な放送だからね。私やナユタみたいに魔力にそこそこの耐性がある奴しか見えないように沖縄県警がしているの」

「沖縄県警が?」


 椅子の上に腰かけたニャル(ロシア)が説明してくる。


「ナユタは知らないかもしれないけど…沖縄県警は普通に魔術師を取り入れているから神話生物や怪異、下手すれば神でさえ捕まえたりするの。今回みたいにね」

「まじか…知らなかった」


 俺は全く知らなかった沖縄の闇を知ってしまった気がする。


「あそこは普通に神ですら恐れる魔境だからね」

「へ―」

「だから今後、アサトやベルと出かけるときは『魔境沖縄』と『神域群馬』にはいかないようにね。まあ…沖縄は犯罪とかしていなければ普通に捕まったりはしないんだけどね」


 今…新しい闇が聞こえた。


「群馬?」

「ええ、群馬。あそこははっきり言って世紀末よりも世紀末のような場所だから」

「具体的には?」

「そうね…私の知ってる群馬県民は…

 通りすがった一般人の背後から、

 音速でサイドステップを踏みながら無音で接近して、

 相手の心臓を抜き取って、

 その人間が死ぬ前に視界にわざと入って、

『癖になってんだ…心臓抜き取るの』

 って言って空間転移して消えるようなやつね」

「こわっ!」



 そんなこんなで妻を襲った不神者は無事に捕縛された。

 もう会うこともないだろう。

 俺はニャルから俺の知らなかった日本の闇をきいて心に刻む。


 魔境沖縄と神域群馬には…できるだけ近づかないようにしよう。


 そんなことを考えながら歳の数だけ豆を食べていく。





 今日も(ギリギリ)我が家は平和です。





 ※尚、この世界の沖縄と群馬です。

             実在する場所とは関係はありません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る