第10話 身内じゃないか!→ 猫神の恋

 魔法陣が発動して神が現れる。

 いったいどんな神が現れるのかそう思いながら見ていると魔法陣が激しく輝き光が収まるとそこに神がいた。

 だが…問題はそこじゃない。その神はどこかで見たような形をしている。

 召喚された神が喋りだす。


「フハーハハハハハハハッ!俺!降臨!愚かな人間は仕舞っちゃうぞー!仕舞っちゃうぞー!」


 喋ったことで確信し俺の中で再度、ブチッと何かが切れる音がする。

 そしてどっかの暇神がこちらに気づく。


「……あれナユタ?何でいんの?そしてなんでそんな般若みたいな表情なの?」

「……お前が原因か。暇神。今頭に来てるからミンチにするわ」

「……えっ!?待って!どゆことっ!?」

「1回死ね!ベル!」

「対象:父。了解。父の殲滅を開始します。対父用術式。

 対父用魔術式展開。ミンチ開始」

「ベル!?躊躇いなさすぎじゃない!?一応お前を生んだの俺だよ!?」

「父。マスターは激怒。父の信者がバーストを攻撃。

 マスターはそれを救助。眷属を助けたバーストを嘲笑。

 信者たちに激怒。神召喚。←今ここ」


 その言葉を聞いたニャルが周りと状況を確認する。

 そして頭(らしき)ところを触手で抑えると人間に変化してこちらを見てくる。その表情にはいつものふざけた雰囲気はなくなっていた。


「ナユタ。どうやら俺の信者が暴走してたみたいだな。悪かった。こいつらはこっちでケジメをつける。同じことがないようしっかりとな。だからナユタはその神と猫連れて戻ってくれ」


 真剣な表情でそういった後にニャルが頭を下げる。そこには精一杯の謝意があった。その様子を見た俺は頭にのぼっていた血がすっと抜ける。


「……わかった。俺は先に戻る。……ニャル悪かったな…だいぶ八つ当たり気味だった」

「いいよ別に。俺はお前がそういう風な人間だって知ってるからな」

「そうか。帰ったらお前が好きな麻婆豆腐作っておいてやるよ」

「おお!じゃあ早く行って作っておいてくれ。こっちが片付いたらすぐ戻るから」

「おう。またな」


 会話を終えた俺は後ろに振り返り門の創造を発動。家までの帰り道をつなぐ。猫の神様を見るといつの間にか意識を失っていた。

 ここに居るのはやっぱりよくないみたいだ。早く連れて帰ろう。


 俺が猫神をお姫様抱っこして連れて帰る。子猫は自分で入っていった。

 後は檻に入った猫たちだが…


「ベル。檻のほう任せていいか?」

「受諾。人型にて対応」


 人型になったベルが檻をもって門を通る。

 これで全員だな。よし帰るか。

 俺も門をくぐり無事家に帰宅。

 するとソファのあたりからアサトとツァトが起き上がり迎えに来る。


 ……やれやれ…疲れたな。まったく。



◆◆◆◆◆



 ―――ニャル視点


 いやー驚いた。まさか久しぶりに信者たちに召喚されるから張り切って出てみたらなんか鬼すら超えそうな顔のナユタに会うなんてな。

 ……殺されるかと思った。実際俺の知識持ってるから弱点バレバレだし。

 ベルいるから実質2VS1だしなー。ベルが細かく状況説明してくれなきゃほんとにミンチだったかもな。

 ……いや多分わかってて説明してくれたんだな。できた娘だ。

 今度ブックカバー作ってやろう。


 そう考えごとをしていると横にいる信者どもが俺に話しかけてくる。


「神よ!どうしてあのものを逃がすのですか!?あいつらは私たちを……」

「黙れよ」


 耳障りな男の声を魔術で出なくする。

 実は俺は少し怒っている。理由は簡単。ナユタが怒るなんてよほどくだらないことでもしたんだろう。

 俺は今のあの家での生活が気に入っている。自分でも意外なほどにな。

 俺は楽しみを邪魔されるのが一番嫌いなんだ。

 だから邪魔する奴は許さない。それが自分の信者でもな。


「お前らはやりすぎた。それだけだ。んじゃお疲れさん。

 また来世でな~」



 俺の手から深淵が広がる。

 空間を、人間を、遺跡を深淵が飲み込んでいく。

 信者たちは「お許しを!」などと言っているが知らない。


 しばらくして深淵が消えるとそこには何もなかった。

 遺跡も。

 信者も。

 教団も。


「さて…掃除終わったし…麻婆だな!」


 そうして俺は家に帰る。お気に入りの家に。



◆◆◆◆◆



 ―――バースト視点


 ことが始まったのは少し前。

 謎の狂信者たちが我が眷属を襲い始めた。

 我は眷属を襲わせないため襲われる可能性のある眷属たちを人間世界から連れ出した。

 だが問題がある。それは助けた眷属たちをどこか安全な場所に置いていかなければならないということだ。戦いの場に無力な眷属を連れていくわけにもいかない。だが変な場所に置いていっても他の神に何をされるか分かったものではない。


 我が悩んでいると次元の狭間にいる眷属の子猫から思念が伝わる。

 その眷属から「ここなら安全だよ!」という意志を感じて眷属を通してその場所を見る。

 そこは不思議な場所だった。

 そこは種族など関係ないというように多種族が笑いあいながら過ごしていた。神や人、それにあれは魔導書のようだ。

 たしかにここならば子猫たちを預けてもいいかもしれない。

 そう思いつつも確認のために眷属からこの家の家主である人間のことを聞いてみた。

 すると眷属は自分が家主の人間に助けられているところを我に見せてきた。トラックに轢かれそうだった眷属を全力で助ける彼の姿がそこにはあった。人間がこんなやつばかりだったらいいんだがな。


 我はそこに眷属たちを預けることを決め家の中に眷属たちを転移させる。

 そして眷属たちが受け入れられるかどうか確認するため子猫の眷属を通して様子を見る。家主の男は「まあいいか」と受け入れている。

 大丈夫そうだ。様子を見ているとツァトグアがこちらに気づき忠告をしてくる。他者に無関心なあの神があそこまで庇うとはあの男はいったい何者なのだろう。


 そして教団と戦いながら時間が経つ。

 我は教団をそこそこつぶしたがまだこちらへの攻撃は終わっていない。

 早く片付けて眷属たちが安心できるようにしなければ。

 眷属で思い出したがあの家の眷属たちはどうなっているだろう。

 子猫の眷属を通して覗いてみる。そこには楽しそうにニャルラトホテプの上に乗っている眷属の姿があった。問題はないようだ。

 いつか我もあそこに行ってみたいものだ。この案件が片付いたらあの家に行ってみるのもいいかもしれない。


 そう考えていると眷属から助けを呼ぶ思念は飛んでくる。

 そうやら教団の者たちに捕まっったらしい。

 教団の本拠地に対神用の結界が張られている。どうやら罠のようだが眷属を見捨てるわけにもいかない。

 私は体を組み替え人間に近くする。耳と尻尾はそのままだが…これならあの中でも行動はできる。


 我は教団のいる遺跡に突入する。

 そして愚かな人間たちを薙ぎ払い遺跡の最奥まで行く。

 ここにいる教団の指導者を倒せばこの戦いも終わる、はずだった。

 だが狂信者たちは眷属を人質にしてきた。

 

 これでは…どうしようもない。

 

 体に強力な呪いを受け我は立つこともできず床に倒れる。

 ここまでか。我は眷属たちに心の中で謝る。

 すると正面から鳴き声が聞こえる。


「にゃ!」


 あの家にいるはずの子猫の眷属が我の前にいた。そしてその先にはあの家の家主の人間がいた。教団の指導者と話している。隣にいる眷属から「助けを連れて来た」という思念が伝わる。どうやら眷属に頼まれ助けに来てくれたようだ。


 我は意識が朦朧とする中、状況を見守る。

 すると、


「ははは…愚かなものだ…このようなものが神など……はははは……」


 教団の指導者が我を笑う。……だが無様な我には言い返す言葉もない。

 情けない自分の姿に思わず涙が出そうになったその時、家主の男が剣を振るい檻を持っている男を切りつけ檻を取り戻す。


「…笑うんじゃねぇよ…………大切なものを必死に守ってるやつを………笑うんじゃねぇ!!!」


 彼は怒っていた。我を笑う教団の者たちに。

 我はなぜか彼から目が離せなくなっていた。

 我のために怒っている彼を見ていると体温が上がっていく。

 この気持ちは何だろう。

 神として生まれて初めて感じるこの暖かい気持ちは……。

 その気持ちに戸惑っているうちに我は限界がきて意識を失う。


 次に我が意識を覚ましたその時、


「おっ気が付いたか?」


 我はあの家にいた。

 神達と人と魔導書が共に暮らす我が羨ましかった場所に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る