第9話 子猫の導き 俺はおこです
俺は今日も今日とて家で寛いでいる。
ゆったりリビングでアサトを撫で、アサトは目を細めながらもたれかかっている。
そんな俺の足元で俺のズボンに爪を立て引っ張ってくる何かがいる。俺が助けた子猫が俺を呼んでいるらしい。
「…?……どうした?」
いたずらをするような猫ではないことは知っている。
だが俺が気づいても俺のズボンを必死に引っ張り続けている。
どうやら俺に何か伝えたいようだ。さすがに言葉はわからないので子猫の思考を魔術で読む。何か景色が見えてきた……どこかの遺跡?
「…ここに行きたいのか?」
「にゃ~」
頭の中に俺が子猫を助けたときの光景が見える。
これは……そういうことか。
「……つまりここで俺に助けてほしい猫がいる、と」
「にゃ!」
子猫が引っ張るのをやめる。どうやら当たりみたいだ。
そして子猫の記憶から「ここ危ない」的なニュアンスを感じる。
危ないのか。そんなところになぜ猫がいるんだ…まったく。
俺はアサトを膝の上からおろして立ち上がる。
「アサト、俺はちょっと危ないとこ行ってくるから…留守番よろしくな」
「…むー…わかった」
若干不服そうだがしぶしぶ聞いてくれた。危ないらしいしな。今回は置いていこう。
「ベル。ネックレスの状態のままついてきてくれ」
「マスターの命令。受諾」
「あとは……ツァト~おきろ~」
奥の羽毛布団がもぞもぞする。
そして水着姿のツァトが起き上がる。なんであの格好で寝てんだろ。
「ふぁ…私を直接呼ぶなんて珍しいな…」
「悪いな。ちょっと俺はよくわからん遺跡に行ってくるから…アサトとここを任せる」
「…ふむ。緊急事態か何かのようだな。わかった。私に任せろ」
「サンキュ…そんじゃ行ってくるわ」
子猫の記憶の場所に門をつなぎさっさとくぐる。子猫も一緒についてきた。どうやら案内してくれるようだ。
「んじゃ…行くとしますか」
俺と子猫が奥を目指して歩き出す。目指すは助けの必要な猫だ。
◆◆◆◆◆
―――ナユタが出た後の家
アサトがツァトグアのほうを向き喋る。
「……ツァト…」
「…?なんだ?」
「ナユタ…私置いていった…私暴れすぎて…嫌われた…」
すこし目に涙をためたアサトそうツァトグアに言う。
そんなアサトを抱きしめながらツァトグアは呆れたように言う。
「あいつがお前を嫌うものか。今回は危ない場所に行くからアサトを置いていったんだ」
「……危ないなら…私も行くべき…」
「戦力として数えるならな……ナユタはお前を妻として…家族として…危ないところに連れて行きたくなかったんだろう。つまりお前が大事だからおいていったんだ。大人しく留守番していれば帰ってきてまた頭を撫でてくれるさ」
「……私が…大事………わかった…」
先ほどの不安そうな表情はなくなったことでツァトグアが安心し呟く。
「まったく…心がない時はそれで面倒だったが……心があるならあるで面倒だな。……かわいい主神様だよ」
そして久しぶりに起きているのでアサトを抱きかかえてソファに座りテレビを見始めるのだった。
◆◆◆◆◆
―――遺跡
俺は子猫の案内のもと遺跡の奥に向かう。ところどころ体を引き裂かれたなんか怪しい服装の人間(故)が転がっている。何かと戦っているのか。
猫とかかな?
そうしていると開けた場所が見えてくる。そこには遠目で見ても沢山の人間がいることがわかる。どうやらあそこが目的地のようだ。入り口のところで子猫が止まる。
その広い空間には沢山の怪しい人間とその人間たちの反対側に黒い猫耳と尻尾が付いている17歳くらいの女の子が倒れている。
「……もしかして…助けてほしいのって…あの子か?」
「にゃ~」
子猫が頷く。当たりみたいだ。事情はあとで聞くかな。
俺と子猫は女の子と怪しいやつらの間に入る。
猫の女の子はもうほとんど動けないくらい弱っている様だ。
すると怪しい集団のリーダーらしき人間ははなしだす。
「お前もその猫神の眷属か?」
「……猫神?この子か?」
「…まさか知らずにここに来たのか貴様」
「子猫の頼みで来ただけだからな。お前らでよく神様に勝てたな」
「ふん。貴様ごときでは我らには勝てんぞ。死にたくなければ退くがいい」
「悪いけど、この子を助けるようこいつに頼まれてな。悪いがこの神猫は連れて帰らせてもらうぞ」
俺がそういうと怪しい男は嘲笑を浮かべる。
「ふん。ここは我ら教団の本拠地。逃がしなどしない。……ククク…それにしてもお前もその神も愚かなものだ…」
「……どういうことだ?」
「貴様もその神と同じように愚かだと言っているんだ。本来なら罠の張られているここに居ることすらつらいだろうに……自分の眷属が人質に取られてのこのこ助けに来るなどな!」
そういうと男は小さな檻を目の前に出す。そこには猫たちが入っていた。
おそらくこの神様の眷属だろう。あいつらを助けるためにここに来たってことか。調べてみると特定の神の力を弱める結界魔術が張ってある。
彼女はそのせいで倒れているのだろう。
「ははは…愚かなものだ…このようなものが神など……はははは……」
男が笑い、まわりにいる大勢の人間たちも笑う。
眷属の猫たちを助けようとした優しい神を屑どもがあざ笑う。
さすがの俺も頭に来た。
ベルを剣モードにしてそのまま振るい檻を持っている男の腕を空間を超えて切り裂く。
「ぎゃあああああああああ」
男の悲鳴が聞こえるが知ったこっちゃない。
門の創造を即座に発動。檻を俺の足元に移す。
そして俺は怒りのままに叫ぶ。
「…笑うんじゃねぇよ…………大切なものを必死に守ってるやつを………笑うんじゃねぇ!!!」
久しぶりのマジギレだ。暴れよう。
「くっ…こいつも魔術師か!」
男たちがようやく俺が魔術師だと気付き警戒を始める。だがもう遅い。
俺はこいつらを敵と断定したこの時点で俺は手を抜くつもりはない。
「ベル、魔術妨害」
「了解。妨害術式展開。簡易術の使用を封鎖」
妨害術式を張られた男たちは術が使えずに騒いでいるがその中の幹部と思わしき連中は黙々と何かの魔術を詠唱しながら術式を構築している。
「対象術式。「ヨグソトースの拳」。マスター対処を」
ベルが術式を解読する。副神ヨグソトースの力を借りて攻撃する魔術。
なかなか腕の立つ魔術師が混ざっていたらしい。まあ関係ないがな。
アサトに魔術で意識をつなぐ。
『アサト、悪いが説明してる時間はない。少し俺に力を貸してくれないか?』
『…ん!…了解!…』
若干嬉しそうなアサトの声がした後に俺の右手にアサトの力が宿る。
名づけるなら「アザトースの拳」だ。
「副神の力を受けて……死ね!」
「悪いがこっちも頭にきてんでな!手加減なしだ!」
相手の魔術が放たれ透明な何かの強大なものが迫ってくるのを感じる。
俺はそれに対して力いっぱい右腕で殴りかかる。
副神ヨグソトースの力の片鱗を借りただけの男たちの魔術はアサトの力にかき消され消し飛ぶ。
そしてその射線上にいる男たちの仲間も消し飛ぶ。
男たちは呆然としながらこちらを見る。
「化け物が」
リーダーの男がそう呟いていると男の後ろから声がする。
「神を降臨させる術式が完成しました!」
それを聞いた男の表情が一変する。
「くはははは…どうやら我々の勝ちのようだな。これから我らの神が降臨する。逃げるなら今のうちだぞ」
「……やりたきゃやれよ。その神ごと…ぶっ潰してやる」
「……減らず口を!」
男たちが神を呼び出す術式を起動させ詠唱を始める。
ここで攻撃すれば詠唱が止まり、神は降臨せずに済むだろう。
だが元凶がいる限りこの猫神様になにかするかもしれないからついでにその神とやらも始末しよう。そう思った俺は神が召喚されるのを待つ。
「「「「「「にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! 」」」」」」
どこかで聞いたことのある詠唱が聞こえる。
そして完成した魔術により神が降臨する。
さっさと片づけてこの神様を助けて帰ろう。妻の待っている我が家へ。
そう思いながら俺は剣になっているベルを構え敵を見据えた
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