第7話 リベンジホテプと血が好きな奴
…………今の話をしよう。
俺の隣にはいつもどうりニャルがいる。
いつもぽんぽんと姿を変えていたから何になっても特に驚く気はしなかった。外人ぽいやつとか色白の日本人とかいろんな知らない人間の姿になってたしいい加減慣れたとおもってた。…が、甘かったようだ。
「……なあニャル」
「……ナンダ…貴公ォ…」
「…いやさ…無理に姿変えなくてもいいんだぞ?」
「貴公ォ…ソレハ吾輩ノポリシーニハンスルゥ…」
……現在ニャルはなんかこう……どこか外国の甲冑を着ていた。
ぱっと見は騎士っぽい。中身はちゃらんぽらんだがな。
動くたび、ガシャンッと言ってうるさい。
てか重いのか動きがすごく遅い。亀かな?
そうしてアホな格好のニャルを観察しているとニャルは子猫たちの中心に行く。そして子猫たちに向かって話す。
「ハッハッハ……コレデオ前タチノパンチハ通用シナイ……吾輩ノ勝チダ……」
どうやら前回子猫にボコられたからリベンジするようだ。
神は子猫たちに高らかに勝ちを宣言し高笑いしている。情けねぇ。
……おや?子猫たちの様子が?
一箇所に集まった子猫たちが息を合わせニャルの片足の後方にタックルする。そしてニャルがバランスを崩して倒れる。…情けねぇ。
「バカナァァァァ!アリエン!アアアリエンゾォォォォ!」
盛大なやられ役の声を出しつつニャルが転倒する。そして転倒した甲冑ニャルに子猫たちが並んで登る。
「「「「「「「にゃ~」」」」」」」
子猫たちが達がニャルの上で高らかに勝利の雄たけびをする。
そんな平和な光景を眺めながら俺は抱き着いているアサトとベルの頭を撫でる。二人とも気持ちよさそうだ。
……ちなみにツァトはこのすべてを無視していびきをかいている。
今日も我が家は平和だ。
◆◆◆◆◆
―――その後。
リビングで寛いでいるとツァトが起きてきた。
「…ふぁ……よく寝た」
「そうだな。3日は寝てたな。おはよ」
「ああ、ナユタおはよう。アサトとベルもな」
「…ん…おはよ…」
「早期起床推奨。おはよう」
そういってアサトとベルの頭を撫でるツァトは良いお姉さんのようだ。
3日寝てさえなければなぁ。
そうしていると玄関のほうからピンポンと鳴る。
客か。誰が来たか知らないがとりあえずいかないとな。
で、玄関。
「はーい、今開けまーす」
扉を開けるとそこには清楚なお嬢様のような女性がいた。女性は静かにお辞儀すると話し出す。
「すいません。ここが闇の王ナユタ・アムリタさんのお家であってます?」
「あー…その名前は忘れてくれ。ナユタでいいよ。あんたは?」
「はい。私はチャウグナー・フォーンと言います。よろしくお願いしますねナユタさん」
過去一番まともなあいさつになんか感動している俺がいる。虫とか痴女とかばっかしだったからな。
「とりあえずここで話すのもなんだし上がるか?」
「はい。それでは失礼しますね」
チャウグナーさんを連れてリビングに入り椅子に座ってもらう。
見た感じは完全におっとりしたお嬢様だ。以前ニャルが化けていたものとは大違いだ。椅子に座り落ち着いたところで話の続きをする。
「それで…ナユタさんにお願いがあるんですが…」
そう話し始めたところで奥からツァトが出てくる。
「ん?お前…チュウグナーか?」
「おや?もしかしてツァトグアですか?」
「そうだ。いちおう奥にニャルラトホテプとアザトースもいるぞ」
「なるほど…噂どうりここには神達が共存しているんですね」
「そうだな。ナユタを中心にして皆仲良くしておるよ。…ところでお前…食事はしっかりしてきたんだろうな?」
「……それが最近飲んでなくて…ああ、思い出したら…」
そう言ったチャウグナーさんが俯く。何かあったんだろうか?
そう考えているとチャウグナーさんが顔をあげる。
「ヘヘヘ…血をくれやぁ…へへへ」
そこにはなんかこう血走った目で興奮した変態に変貌したチャウグナーさんがいた。チャウグナー……お前もか…。
まともな神なんてアサト以外いないかもな、と遠い目をしているとツァトが状況を説明してくれる。
「こやつは血が大好きでな。定期的に摂取してないとこうやって発狂するんだ」
「それなんて薬物中毒者?」
話しながら早足でツァトがこちらに来る。なぜかというと……俺の足元にはアサトがいる。射線上から退避したようだ。
興奮したチャウグナーがこちらに突っ込んでくる。
「ヒャッハー!新鮮な血だぁ!」
猪突猛進。顔を像に変えてつっこんでくる、が。
「…ん…乾坤一擲……」
ドゴォォォォンッ
物凄い音とともにチュグナーと家の半分がアサトパンチで空間の彼方に吹き飛んでいった。
……ついでに後ろに通りかかったニャルも道連れに……。
「なんでさぁぁぁぁぁ!?」
…ニャルの悲鳴が聞こえた気がしたが…気のせいだろう。
とりあえず壊れた家を魔術で修復する。
隣でアサトがシュンとしている。
やりすぎたからしょんぼりしている様だ。頭を撫でながら俺は言う。
「守ってくれてありがとな、アサト」
「…!……ん!……ナユタ好き!」
どうやら元気をだしてくれたらしい。よかったよかった。
元気になったアサトと一緒に家を直す作業をする。
ちなみにベルはネックレス型になって俺の首にかかったまま眠っている。
最近は俺の装備になって寝るのがマイブームなんだそうだ。
首元から「…塩キャラメル…違法改造…塩酸キャラメル…」とか聞こえる。いったい何の夢なんだ…。
そして家を修復し終えたころにニャルとチャウグナーが戻ってきた。
「おう、お疲れさん」
「…今回は俺悪くないよな?…ないよな?」
「うぅ…酷い目に遭いました…」
二人ともボロボロである。まあニャルは2回目だし受け身でも取っただろ。
とりあえずまた暴れられても困るのでチャウグナーにコップを渡す。
「…!これは!血!ヒャッホウ」
「コップ1杯で足りるだろ?また発狂しても困るし飲んでくれ」
「ありがとうございます」
チャウグナーは泣きながら飲んでいる。遭難から救助された人間のような光景だ。
血を飲んで落ち着いたチャウグナーが話を再開する。
「どうもご迷惑をおかけしました。それで話の続きなんですが、私先ほどのように血を飲んでないとヒャッハーになってしまうんです。そこで安定して血を提供してもらえる場所を探していたんです」
「でうちに来たわけか。誰に聞いたんだ?ここの話なんて」
「ナユタさんを信仰してるシャン達ですが?」
「……またあいつらか…」
今度会ったら血を塗りたくってチャウグナーに差し出そう。
「てかその辺の人間でいいんじゃないのか?」
「……前まではそうしていたんですが…血欲しさに頻繁に姿をあらわしていると他の神から怒られまして…」
「そりゃまあ行く先々で『ヒャッハー新鮮な血だぁ』って叫びながら暴れたら怒られるわな」
「はい…なので神を怖がらず安心して定期的に血を飲ませていただける人間を探したんです。で、神と共存している人間がいると聞いてこちらに来た次第です」
「なるほどな。要するにここで俺の血をもらいに来たい、ってことか。……まあいいか。どうせ魔術で高速再生かかってるから血なんていくら出そうが死なないしな」
「いいんですか!ありがとうございます!」
チャウグナーがお辞儀する。発狂してなきゃかわいいお嬢様っぽい。
「うちはだれが来ようがフリーだからな。あんまりあれだとアサトが殴り飛ばすけど。チャウグナーも発狂前にこいよ?さっきのパンチくらいたくなけりゃな」
「了解です…」
こうして俺の友神にまた新たな神が加わった。
……それにしてもまともな神は来ないんだろうか…。
子猫の頭を撫でながら俺は深いため息をついた。
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