第6話 猫業界は厳しいようです

 俺の家に新しい神が来た。名前はツァトグア。略してツァトだ。

 基本寝ているのでさして存在を気にする必要がないから楽だ。

 本人は、


「1日30時間は寝たいからなるべくおこさんでくれ。私を呼びさえしなければ多少の大声は構わんから」


 とのことだ。1日中寝ても睡眠時間が6時間ずつ足らずにスタックするあたりは彼女らしいんではないだろうか。



 何もなく今日も平和な時間を過ごす。

 俺は昼飯の皿洗いをゆったりとしている。

 ツァトはやっぱし昼寝。

 それ以外の2柱と1冊は一緒に「ニャルラトカートⅣ」をしている。


「トップ維持。防衛戦を開始」

「……加速魔術はまだある……最後に追い抜く…」

「二人とも速くない?製作者もびっくりの高速周回なんだが…。これ追いつけるのか?」

「……!……コーナーで追い抜く…」

「追い抜いた瞬間。赤のホーミング魔術で迎撃。…防衛成功」

「…むむ…小癪…」

「二人が争っている今がチャンス!アイテム頼りだけどなぁ!」


 なかなか白熱しているようだ。画面のカートの動きに合わせて右に、左に体が動いている。あるある。


「よっしゃあ!ネクロノミコンゲット!加速と無敵!ふはははは!タックルしてトップ独占じゃおらぁ!這い寄る混沌の力、思い知れぇ!」

「……ん…当然回避する…」

「回避運動。成功」

「って二人ともナチュラルに避けんな!『ガシャン』ああああああ、障害物ぶつかったぁぁぁ。無敵解けたぁ。\(^o^)/」


 ニャルがまた負けている。アサトとベルはもはや熟練の戦士である。

 比喩ではなくニャルが真っ白い灰になって消えていく。ギャグ根性すさまじいな。


 そんな光景を見てた俺に話しかける、というか呼びかける鳴き声がある。


「「「「「「「にゃ~」」」」」」」


「ああ、餌足りなかったか?じゃあもう少し…あれ?」


 なんか今、違和感があった。俺は皿洗いの手をいったん止めて正面の鳴き声のほうに視線を向ける。そこにはカラフルに色違いの子猫たちがこちらを見て餌を欲しがっている。……あっれぇ?

 猫は確か1匹を助けただけだったはずだがどう見ても7匹いる。

 一応先頭には俺が助けた子猫がいる。

 その猫の頭を撫でながら聞いてみる。


「もしかして仲間を連れてきたのか?」

「にゃ~」


 何となくだが「そうだよ」的なニュアンスを感じる。

連れてきちゃったか~。まあ飼うと決めた以上別に追い出したりはしない。子猫の頭を撫でながら猫たちに注意を促す。


「まあいいよ。お前ら全員うちで面倒見てやる。その代わり喧嘩とかしないこと。いいな?」

「「「「「「「にゃ~!」」」」」」」


 うむうむ。聞き分けのいい猫たちだ。住むのを認めてもらえた喜びか子猫たちが俺にすり寄ってくる。その子猫たちを撫でながら俺は思案する。

 というのもここにはたまに神がきたりするし、ときどき空間が消滅するパンチとかも飛び交ったりもする。

 そうすると子猫たちは危ないんじゃないか、と。

 だから俺は対策をうつことにした。


「おーい、アサトとベル。ちょっとやりたいことあるから来てくれないかー」


 その言葉に反応した1柱と1冊はこちらに来て増えた猫たちに気づく。


「…にゃんにゃん……増えてる…」

「猫神の眷属を確認。…敵性なし。撫で撫で」


 どうやら増えた猫たちのことを歓迎しているようだ。猫とじゃれ始めたのでその状態のまま説明する。


「子猫たちが危ない目にあっても大丈夫なように保護魔法をかけたいからベルは補助を頼む。あとアサトは魔力を貸してくれるか?」

「……ん…わかった……」

「マスターからの依頼。承認。ご褒美になでなで所望」

「…あいあい。おわったら撫でてやるから」

「迅速に開始。魔術『肉体の保護』展開。魔力はアサトより供給」

「……ん…ばちこい…」


 こうして猫たちに魔術で装甲がつけられた。具体的に言うと以前のように子猫にトラックが突っ込んだらトラックが吹っ飛んでいくらしい。アサトのパンチでも2発くらいなら大丈夫みたいだ。

 おれより子猫のほうが強いんじゃね?


 それから少しして俺たちは個人で寛いでいる。

 俺は椅子に座って子猫を眺めている。アサトとベルは遊び疲れて寝ている。そして約一柱の問題神はというと。子猫の姿になって猫たちの中心にいる。


「はっはっはー!どうだ!これがAPP18の猫だ!そこらの猫とは違うのだよ!これでアイドルはこの俺というわけだ!悔しいか子猫ども!NDK!NDK!」


 猫の中心でなんか誇っている。神よ何してんだ。

 そんなニャルの様子を見ていると隣でツァトが起き上がる。伸びをしたツァトが周りを見て気づく。


「なんか猫が増えているな。……この感じあいつか」

「よう、起きたか。何か食べるか?」

「ああ、おはよう。こっちで適当につまむからよいぞ」

「そっか。……一応言っておくけど子猫を食べるなよ?」

「食わんわ!私とて神。弱きものを一方的にいたぶる趣味なんぞない」


 そういいながらツァトが優しい表情で子猫たちを見て撫でていく。ここである事実に気づく。


「……もしかしてツァトって…常識がある?」

「あるわ!というかないと思っていたのか!?」

「いやだって…暇神のもう1柱はあんなだし」

「あれと私を一緒にするな……」

「言われてみれば確かに無害だもんな」


 そう言いながら猫になっているニャルを二人で見る。そこにはいつの間にか子猫に囲まれてひたすらネコパンチでペシペシされているニャルの姿があった。


「……やめて……やめて……」


 ……どうやら猫の世界でも出る杭は打たれるようだ。

 若干ニャルが涙目になっている。心が折れそうになっているようだ。

 ……仕方ないなぁ…

 そう思いながらニャンラトホテプの救助に向かう。

 

「にゃー。ナユター。信じてたぞぉ…」

「何やってんだお前は……お前らも弱い者いじめはダメだぞ?」

「にゃ~」


猫の教育にも悪いので玩具を取り上げる。うちの猫はこんなふうにはなってほしくないしな。

ニャルはその後、しばらく猫の姿でスリスリしてきた。

毛の質だけは高品質だった。


毛皮にするか……?


こうして今日も平和な1日が過ぎていく。



◆◆◆◆◆



 ――その後ろでツァトグアと子猫が向かい合い話をしている。


「……お前が自分の眷属を誰かに預けるなんて珍しいこともあるものだ。まして人間であるナユタになどな。……何を考えている?」

「にゃ~」

「……ふん。答える気はないか。…まあいい。お前が何を考えているかは知らないがナユタには寝床の貸しがある。……手を出すなら…お前とて容赦はせんぞ」


 そういいながらツァトグアは2度寝を始める。

 話を聞いていた猫は話が終わるとナユタのところへと戻っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る