第5話 暇神が仲間になりたそうにこちらを見ている
シャン達が尋ねてきた数日後。俺たちは家の中でくつろいでいる。
俺とニャルは椅子に座って雑談をし、そしてアサトとベルは……
「……これで最後。……このコースの勝ちはもらった」
「油断大敵。赤のホーミング魔術で妨害」
「……緑の魔術を後ろに出せば防げる…」
「妨害失敗。卑怯」
「……攻撃に備えるのは当然…」
といった具合でテレビでレースゲームをしている。
名前は「ニャルラトカートⅣ」
……まあ名前の時点でだれが作ったかは一目瞭然だな。
俺の横でお嬢様っぽい女の姿のニャルが自慢している。
「ふふふ…すごいでしょう?私の化身の中にゲーム会社の社長がいるのよ。そのコネを使えば楽勝よ」
「すごいんだかすごくないんだか……アサトたちが楽しそうだからいいけどさぁ」
「ふふふー。崇め奉りなさい!」
「オオースゴイスゴイ」
「棒読み!?」
ニャルに適当な返事をしながら時計を確認しているともうすぐ昼だった。
「おいニャル。金持ってない?昼ごはんの食材スーパーに買いに行こうと思うんだけど」
「買うの?魔術で記憶操作とかでもらってしまえばいいのに」
「一応これでも人間なんでな。できる限りそういうのはやりたくないんだよ」
「……相変わらず変わってるわねナユタは。はい、とりあえず10万でいい?」
「十分だ。サンキュ」
「どういたしまして。私は炭酸飲料ねー」
「んー…了解」
そう言って俺は空間魔術で日本にあるスーパー付近に飛ぶ。
「ええと…今日はカレーかな。冷蔵庫の食材どうだったっけなぁ」
そう言いながらスーパーの中に俺は入る。
……そういえば今ちょうどタイムセールだな。安く手に入れるか。
手元に十万あることを気にせず節約精神を見せる。贅沢駄目絶対。
◆◆◆◆◆
――30分後。
そこにはズタボロになった俺がいた。
「…………。スーパーこわい」
食材をタイムセールで安く手に入れようとしたまではよかった。
問題はそこにいた歴戦の猛者(おばさん方)だった。神よりも怖かった。
スーパーを出て道を歩き裏路地近くまで行く。目立つところで魔術なんて使いたくないしな。すると裏路地には先客がいた。
「にゃ~」
「っと。あぶな。気づかずにけるとこだった」
そこにはダンボールに入った子猫がいた。そこには「拾ってください」の文字。
俺はしゃがんで猫の頭を撫でる。
「悪いな…うちはなんか危険物を取り扱う工場並みに危険だから飼えないんだわ」
そういって猫から手を引いて立ち上がりここより一つ奥の裏路地に行こうとする。
すると子猫はダンボールの破れたところから出てこちらを追ってくる。
懐かれたか?まいったな…どうするかな。
そう考え後ろの子猫に視線を向け気づく。すぐ後ろに大型のトラックが来て子猫に突っ込んできている。運転手は……寝ている!?
その瞬間俺は魔術により体を加速。子猫のそばまで行き抱き上げる。
そうしている間に正面までトラックが来ていた。それに向かって俺は思いっきり握り拳を振るいながら叫ぶ。
「人様に…じゃなかった。猫ちゃんに迷惑かけてんじゃねえ…よっ!」
トラックを吹き飛ばさないように殴って止める。これでオッケーだ。周りに人は……どうやらいないみたいだなラッキーだ。あとは……
「だ、大丈夫ですか!?怪我は!?」
運転手が慌てて降りてくる。そりゃそうだわな。起きないはずがない。
俺は運転手に向けて記憶操作の魔術を放つ。捏造内容は「電柱にぶつかった」だ。
そのあとにトラックを電柱に叩きつけて捏造完了。すぐに現場を離れる。
現場を離れ子猫に話しかける。
「……大丈夫か?」
「にゃ~」
スリスリ…スリスリ
……どうやら余計に懐かれたようだ。見捨てて轢かれるのを見ているわけにもいかなかったし、しょうがないか。
そう考えながら子猫を見る。そしてふと頭をこすりつける姿がうちの神(妻)と重なる。…………しょうがないにゃあ……。
少し買い足すものが増えた俺はスーパーへと戻っていく。
◆◆◆◆◆
――帰宅後
「…………で?なんで子猫連れて来たの?」
「……いや。裏路地に捨ててあったから」
俺は子猫と猫用の遊具と餌ををもって家に帰ってきた。
いや…あんな事あったあとじゃほっとけないってば。
「……まあ、ここはもうナユタの家だからいいけど……」
「悪いなニャル。……そういえば猫は?」
黙ってニャルがソファのあたりを指さす。
そこには……昼飯を食べて寝ているアサトとベル、そしてその間で気持ちよさそうに寝ている子猫の姿だった。すっかり仲良くなったようだ。
気持ちよさそうに寝ている一柱と一冊と一匹を見る。種族は違えどその笑顔に違いはないような気がする。ニャルと顔を見合わせ笑いあう。しばらくはこのまま寝かせておこう。黙ったままニャルに合図を送るとニャルも頷く。
とその時。
ピンポーン
入り口のベルが鳴る。誰かが来たようだ。
入り口に向かい扉を開ける。そこにいたのは……青いロングヘアーの水着のような服を着たスタイルのいい痴女だった。
「ふむ。ここがナユタ・アムリタの家であって『パタンッカチャッ』…待て!何故閉める!何故カギをかける!」
「いや…だって不審者が来たら普通閉めるだろ?」
「誰が不審者だ!誰が!」
「いきなり布面積の少ない水着で家に尋ねてくる奴があるか!不審者極まりないわ」
「むう…私の信者の服はこんな感じだったと思ったんだが」
入り口でそんな会話をしていると奥からニャルが出てきた。
「誰でしたの?」
「知らない痴女」
「いや、わからないわ」
「こんなの」
そう言って俺は扉を開ける。ニャルは頷きながらいう。
「ああうん。これは痴女だわ。………ん?もしかしてツァトグアかしら?」
「む?そういうお前は……ニャルラトホテプか」
「…ニャルお前……この痴女知り合いか?ひくわー」
「ええ!?私悪くないわよ!こいつが間違えてるだけだから!」
仕方ないので痴女をリビングに招き入れて自己紹介をする。
「おれはナユタ。…で、あんたは?」
「私はツァトグア。神の一柱だ。今日はお前に頼みがあってきた」
「頼み?俺に?」
「うむ。その頼みというのはな…私をこの家に住まわせてもらえないだろうか?」
「………とりあえず聞いておこう。何が目的なんだ」
「私の目的……それは……安眠だ」
「はっ?」
少し何を言ってるのかわからない。
「安眠だ安眠。ようは昼寝をしたいんだ」
「帰れ」
「まて!待ってくれ!私は寝ることを生きがいにしているんだ。安眠する場所が欲しいだけなのだ。昼寝をするときは……誰にも邪魔されず……静かで……豊かで……なんていうかこう……救われてなきゃダメなんだ」
「ああ…なるほど分かったわ。お前ニャルの同類だな。暇神2号だな」
「む…失礼なそこの暇神と一緒にするな」
「いやいや。あなたは寝てるだけでしょう?ていうかあなたには信者がいるのだし住処で寝てればいいじゃない」
「あいつら世話を焼きたがるから寝させてくれないのよ!だから神と共存しているっていうここ、闇の王ナユタ・アムリタの家まで来たんだ」
頭痛がする。中二ネームが……広まってる。
「ちなみにだが……それ誰から聞いた?」
「ん?通りすがりのシャンだが?」
おれは心に決める。次にシャンが来たら殴り倒そう。そう考えているとニャルとツァトグアが会話を続行している。
「ていうかあなたンカイで寝てればいいじゃない?」
「お前……それは嫌味か?」
若干ツァトグアがキレている。
「お前のせいでンカイが焼け野原になったんだろう!忘れたとは言わせんぞ!」
「あれはクトゥグアが焼いただけで私は関係ないわよ!」
「お前がンカイに逃げてきたからそうなったんだろ!大体……」
二人はだんだんヒートアップして喧嘩を始めた。まずいな。このままじゃ…
そう思ったときにはすでに手遅れだった。
目をグシグシしながらアサトが不機嫌そうにこちらに来る。
「……むぅ………うるさい…」
快眠を邪魔されたアサトのゴッドパンチにより二人は壁を突き抜け空間の彼方に消えていく。哀れな。
◆◆◆◆◆
そのあとボロボロのニャルとツァトグアが帰ってきた。なんかもう可哀そうだったので寝ているだけならいいか、ということでツァトグアの入居を許可した。
こうして我が家に一匹と一柱が増えましたとさ。
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