第5話 primary

ふーっと最後まで吹ききると

パチパチパチ

彼は白くて細い手で拍手を贈ってくれた。

基礎練習で誰かに褒めてもらうようなことは今まで無かった。だからこそやたら嬉しかったのだ。

"君、名前なんて言うの?"

"クラス一緒なのに知らないんだ?"

彼は悪戯っぽく瞳の宝石をキラキラさせながら言った。

"仕方ないから教えてやる。波留だよ。"

"波留。良い名前だね。

ねえ、波留。また部活見に来てくれる?"

天狗になった私は言いたくもなかったことを口から滑らせた。

彼はひょいと後ろを向いて

"当たり前だろ。"と言ってグラウンドの方へ駆けて行った。

波のように彼は私の心を攫っていった。

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