第4話 震える唇

結局、彼からコンパスは返されていない。

返してくれるまで気長に待ってやろうかな。なんて思っている。

そして夕日が空を紅く染め出した放課後、私は部活に参加する。

実は華の文化部である吹奏楽部にホルンパートで所属しているのだ。

とはいっても、弱小校であり、みんな趣味程度で吹いているといっても過言ではない。

先輩たちは話し合いで、私たち1年は先に基礎練習を始めている。ホルンパートの1年は私1人。いつもホルンパートが使っている教室は検定とやらで使用できないらしく、廊下でひとり、もの寂しく吹いていた。

タッタッタッ。と小気味のいいリズムで誰かが近づいてくる音がする。まあ廊下はよく人が通るし、気にしないでおこう。と吹き続けるのだが、視界には端正な顔が映り込んでくる。

席が後ろの彼だ。とすぐにわかった。

顔をグッと近づけたまま彼は私の吹く姿をじっと見続ける。

なんだか恥ずかしくなって顔が紅く染まっていくのを感じる。

ただ、ここで吹くのをやめたら負けだ。と謎の闘争心が出てきて、必死に吹き続けた。

唇がぶるぶると震えるのは音を奏でるためだけではなかったかもしれない。

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