時を越えて空に舞い上がる、恋と友情のパラグライダー

☆ 【長】『青春のパラグライダー』作者……冬水 涙さま

※ 主人公の剛司と幼馴染の朋の関係について注目して欲しい……という作者さまからのご要望がありました。


             『登場人物一覧』


梔子くちなし 剛司つよし……本作の主人公で、自分の意志を貫くより周りに合わせるタイプの性格。物をとても大切にする正確でもあり、友達にもらった靴(黒色の下地に黄色のラインが入っている)に愛着を抱く。埼玉県花加出身。毎週水曜日は大学の講義は入っていない。

 本作に登場する朋・光・亮とは中学時代からの付き合い。特に朋とは家族ぐるみの付き合い。なお亮や光のことを「一之瀬君」「天童君」と呼ぶことから、若干気弱な性格?

 だが憧や源や楓たちとの出会いによって、剛司の心の中で強い自意識が芽生えはじめる。その流れにおける特徴として、物語中盤以降に亮を名前で呼ぶようになった。


緑川みどりかわ とも……剛史の親友兼幼馴染の男子大学生。自分の後ろをついてくる剛史を、とても大切にしている。物語を通して少しずつ変化していく剛司の心の変化に違和感を覚えつつも、静かに見守っている。

 また剛司が言わずともその心情をしっかりと把握している場面が多々あったことから、二人は心から信頼し合っていることが確認出来る。


一ノ瀬いちのせ りょう……能天気で、いつも前向きなことしか考えていない男子大学生。行動範囲は広く、人付き合いが上手な社交的な性格。時間が出来れば、そのたびに合コンへ参加している。

 だが一度口にしたことは最後までやり遂げる精神を持っており、そんな亮を知る剛司は彼を尊敬している(作中ではヒーローのようだと述べている)。


天堂てんどう ひかり……いつも落ち着いていて、皆のまとめ役を担ってくれる存在。亮からはデータベースと呼ばれている。アイドルの大空 楓の大ファンで、彼女の話になると性格が変わることもしばしば。甘党。


大空おおぞら ふう……埼玉県出身の人気絶頂中女性アイドル。楓の代表曲の『ココロノスキマ』には、彼女自身の実体験が歌に込められているとのこと。


青羽あおば げん……パラグライダー教室『青羽パラグライダースクール』の代表兼インストラクターで、年齢は二〇代くらい。既婚者で、妻は同じ教室で働く友恵。明るい性格の源だが、過去にスクールライセンスの取得を目指していた生徒を怪我(下半身不随)させてしまった過去を持つ。


深川ふかがわ……『青羽パラグライダースクール』の運送ドライバー。初対面の一ノ瀬を「いっちー」と呼ぶことから、かなりノリの良い性格だと思える。


青葉 友恵ともえ……ウェーブのかかった黒髪が、鎖骨の辺りまで伸びている女性。既婚者で、夫は同じ教室で働くインストラクターの源。同時に既婚者と知るや否や、友恵に興味を持った亮のテンションが下がってしまう。


新見にいみ……サングラスを着用している、ベテランのおじさんインストラクター。その腕前は源をはじめとする、スタッフのお墨つき。


足立あだち……ランディングゾーンで剛司たちを待っていた、無精ひげを生やしたおじさん。


空見そらみ あこ……とある理由から、崖下のログハウスで空からの落とし物を集めている少女。ほんのりとフローラルな香りがする少女で、作品の重要人物。


白岩しろいわ ゆい……楓と同じ高校出身の女の子で、明るく元気かつ友達思いの性格。亮とは同じ大学の飲み会で知り合う。


羽田はねだ……友恵の友人で、埼玉県熊谷市にある『羽田パラグライダースクール』でインストラクターをしている女性。友恵のことを「友ちゃん」と呼ぶ。


           『特徴・印象に残った点』


一 剛司がパラグライダー体験で無くしてしまった時に見せた靴への愛着について、彼の物に対する愛情・友情を大切にする心温かさを感じました。剛司の表向きな性格は少し内気なようですが、本当に心優しい青年なのだと思いました。


二 最初は少し内気だった剛司が色んな人や出来事を体験していくうちに、彼の心理が少しずつ変化していく流れが良かったです。人は何か大きなことを成し遂げようとする時には、やはり友達の存在は欠かせないのだと作品を通して改めて認識しました。

 そしてそんな剛司の変化に最初は戸惑いを見せながらも、積極的に協力してくれる朋たちの優しさもポイントです。


三 物語のタイトルでもあるパラグライダーの特徴や歴史について、作者さまはしっかりと勉強されていると思いました。個人的な意見ですが、今作のようにパラグライダーに詳しくない私を含めた読者自身の視点からも、しっかりとその特徴を知ることが出来ます。

 同時に自分もパラグライダーを楽しんでいるかのような作風も魅力の一つで、機会があれば私もチャレンジしてみたくなる――そう思わせてくれる作品です。


四 一〇万文字以上ある長編小説ながら、そう感じさせないほどしっかりとした世界観で描かれています。読むのに夢中になっていたらもう結末を迎えていた……そんな私と同じ気持ちを、一人でも多くの読者さまに感じ取って欲しいと思います。


             『気になった点』


一 作中で剛司が憧を呼ぶ場面が何度もありますが、その際に彼女の名前を呼び捨てにしない方が良いと思います。私がそう思った理由として、大きく分けて三つあります。


(A) 親しくなるために名前で呼び合うという剛司の気持ちは分かりますが、それを考慮してもあこを呼び捨てにするのは違和感を覚えます。仮に剛司と憧が長年の付き合い・恋人や夫婦などの関係なら分かりますが、当時の彼らはまだ出会ったばかりです。

 そのため自然な会話とするためにも、剛司は憧のことを最初は「憧ちゃん」と呼んだ方が良いと思いました。


(B) 【A】と内容が一部重複しますが、剛司が親友の光や亮たちのことは呼び捨てではなく、「〇〇君」と呼んでいることも関係しています。唯一剛司が名前を呼び捨てに呼ぶ朋は、彼が心から信頼することが出来る長年の付き合いでもある親友です。

 そんな剛司が初対面の相手を呼び捨てで呼ぶ場面は、疑問が残りました。


(C)これが一番大きな要因となりますが、剛司が今までにことがポイントです。それに加えて剛司はあまり社交的な性格ではなく、人付き合いもあまり得意ではありません。

 そんな剛司の性格を具体的に表現しているのが、彼が居酒屋で亮の友達の唯や楓と初めて出会った時です。剛司は初対面の唯や楓に対し、赤面する・若干取り乱すなどの仕草や言動を見せています。


 明らかに女性に対し苦手意識を持っている剛司なのに、自分より年下とはいえ憧だけ名前を呼び捨てにする場面は、違和感を感じてしまいました。

 合コン経験豊富で女性慣れしていると思われる亮でさえ、憧との初対面では「憧ちゃん」と呼んでいました。


 剛司・朋をはじめとする男の友情については、とても分かりやすくその心情が描かれていました。その一方で剛司と憧との関係については、もう少し丁寧に表現して欲しかったと思います。


 なお私が疑問に感じた【一】の内容につきましては、後日作者さまからご説明いただきました。丁寧なご紹介、ありがとうございます。


              『総合評価』


 人に流れやすく内気な性格だった剛司をはじめ、彼の親友や憧という不思議な魅力を持つ少女などの心情が、読んでいてしっかりと伝わってきます。運命の出会いは意外と自分の近くにあるのかな……と思ってしまいました。

 そして剛司が心身ともに強くなる姿に親友の朋は戸惑いながらも、最終的に尊重してくれた点も印象的です。途中意見のすれ違いもありましたが、物語序盤に比べてさらに彼らの友情は深くなったと思う。

 さらに憧が剛司の心身を強くする「触媒」のような役割を持つ彼女自身も、年頃の少女の苦悩を抱えている点もポイントです。お互いの揺れ動く心情が、読み手にしっかりと伝わってくるような作品です。

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