球節炎
タマゴカケゴハンのデビュー戦は、右前球節炎で出走取り消しだった。
乗馬のシェルとなった後も、右前の球節は、時々、跛行の原因となった。
……つまり、後ろは立腫れで常にパンパン、左前は屈腱炎、右前は球節炎の後遺症に悩まされ続けているってことだ。
元競走馬の宿命というべきか……。
でも、この傷は、シェルが一生懸命だった証拠だ。勲章だ。
走る気がない馬は、人間がいくら追い立てても我関せずで、従う気がない。そういう馬は、故障では引退しない。
無傷で乗馬になったとしても、人のいうことを聞くことから教えないとならない。で……全く我関せず……のまま、一生を終えてしまう馬が多いように思う。
人間も馬も、時々、体の傷よりも心の傷のほうがケアしようがないことがある。
一年目、跛行といえば右前だった。
肩じゃないか、蹄じゃないか、いやいや、球節か? と悩んだ。
どの足が痛いのかはわかりやすいけれど、どこが痛んで跛行するのかは、意外と特定しにくいものだ。
熱をもってくれれば、わかりやすいけれど、そこまで炎症があるのも心配だし……ただ、シェルの場合は、競走馬時代のデビュー戦で出走取り消ししていることから、悪いのは球節だと推測できた。
あ、今更ではあるけれど、【
びっこが差別用語として使いにくくなっている現在、馬同様に人間にも【跛行】を使えばいいと思う。馬の近くにいる人々にとって、ものすごくしっくりくるんだけれどなぁ。
ちなみに、跛行には素人目にもわかるものから、痛い足をかばって歩様が若干おかしい、素人には全くわからないものまである。
そして、半永久的に不自由なわけでもない。まさにその時の状況だけしか示していないから、差別用語にもならない。
ちょいと話が脱線した。
シェルは、冬になるたび、右前を痛めた。
多分、馬場が凍って負担になる、馬場が溶け始めてズブズブになり負担になる、ついでに、クランポン=スパイク鉄を履くことが、足に負担をかけてしまうのだろう。
春先に二年ほど続けて一ヶ月休ませる羽目になってしまった。
競走馬時代の怪我のせい? いや、それだけではないだろう。
ずいぶんと悩んだ。
春先の雪解けで随分と馬場が悪い中、良い場所を探しながら歩いていた。
雪の下に土が出ていて、ずぶっと踏み抜いたりもしていたが、さほど問題ないと思っていたら、急にシェルが「やばい!」みたいな雰囲気をかもしだした。
別に暴れたとか、動かなくなったとかじゃないんだけれど、やっちまった感が漂ってきて……以降、ちょっと跛行した。
たいしたことない、つまずいたわけでも、走っていたわけでもない。
そう思ってもう少し歩かせていたけれど、シェルはなんだか帰りたそうで、そわそわしているような気がして、運動を諦めた。
下馬すると、右前の球節から蹄にかけて熱をもっていて、その後、一ヶ月間乗れなくなった。
たったそれだけで? と、信じられないような気持ちだったが……。
実際、インストラクターの前では普通に歩いたりして、仮病じゃないか? と言われたりもして、本当に悩んだりもした。
が、そんな時、ある装蹄師さんのブログを読んだ。
それには、馬はよっぽどのことがないと跛行しない。跛行した時はもうかなり悪いと考えるべきだ、とあった。
馬は草食動物だ。草食動物は、肉食動物の餌となる。
そして、肉食動物は、捕まえやすい弱い者をターゲットに絞って襲う。
跛行して歩けば、怪我を負っていることを肉食動物に教えてしまうことになり、捕食ターゲットになってしまうのだ。
だとすれば、オーナーの前で跛行しても、インストラクターの前では跛行しない=仮病と考えてしまうのは危険だ。
インストラクターは、馬にとって肉食獣のように怖い存在である可能性が高く、弱みを見せれば大変なことになってしまうので、無理をする。
シェルも、本当に故障しているのか、それとも、なんでもないのか……随分と悩まされたことがあった。インストラクターの前では無理をしてしまい、翌日、ますます悪くなってしまうのだ。
もちろん、突然ぶつけたとか、ひねったとか、急激に悪くなることもあるけれど、だいたいは日々の積み重ねで負荷がかかり、そこがドカン! と出てしまうことが多いようだ。なので、小さな予兆を見逃さず、ケアしていけば、そうそう長引くことはない。
実際、最近は、上記のような失敗を重ね、用心しているせいか、長期休ませなければならないような故障はしていない。
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