怪我や病気

足が痛いのよん

立腫れ

 シェルが私の馬になった時……それはまさに「故障明け」だった。

 普通、さて、自分の馬を持つ! となると、故障していない、その後遺症もない、健康、うんぬん……は、当然考慮すべきことだろう。

 普通は獣医さんの健康診断などをして、お墨付きをもらって……ということになるだろう。

 まぁ、そうなってしまえば、まずはもたれない馬だったかも知れない。


 理由は、象の足のように腫れ上がった後肢のせいだ。

 馬は、蹄の上に繋というちょっと細い部分があり、その上に球節という丸い部分があり、さらにその上に管という細長い部分がある。

 思い浮かべて欲しい。馬をあまり見たことがない人でも、馬の脚部が細い部分と太い部分があることくらいはわかるだろう。

 ところが、シェルは管の中間あたりから丸太ん棒のようなほとんど変わらない太さの足に蹄が付いているような感じだったのだ。

 そして、以前のオーナーさんが必死に治療して、薬をたっぷり塗っていたので、白いソックスの足が青緑に染まっていた。なんと、この色は二ヶ月ほど取れることがなかった。


「いや、これくらいは問題ないですよ。肢巻をすれば、細くなります」


 いや、大したことあるでしょう。

 ……と思った。


 が、支障ありなら馬をいつでも変えてくれること、元競走馬であるなら、多かれ少なかれ無傷ということは、滅多にないこと、競走馬上がりばかりを扱うこのクラブでは、確かにこれくらいは問題にならないほど、もっと多くの問題を抱えている馬もいたこと、総合判断で、気にしないことにした。


 馬は、中指一本で立っている……と言われている。

 退化した他の指は、球節あたりに固まっている。

 シェルの足は、ちょうど中指が腫れ上がっているようなもので、腫れすぎて関節が曲がりにくい。

 そのせいなのか、足をまるで犬がおしっこする時のように高々と上げ、見た目、とても危険だ。そのままひっくり返りそうだ。

 足に触ったり、水をかけたりすると、飛び上がらんばかりに驚いて、そのせいで、足を持とうとしていた親指をついたりして、ずいぶんと痛い目にあったものだ。


 これが、全く問題がないはずがない。


 おそらく、何か故障の後遺症なのだろう。

 足を冷やしていて、ホースでトラブルがあったのかも知れない。足を嫌がるのは、故障というよりもトラウマかも知れない。

 今は運動には支障がない、ただ、とにかく腫れるのだ。


 運動せずに馬房で立ちっぱなしになったりすると、後肢がむくんでくる。

 立腫れといわれるものだ。

 運動すると一時的に引いてスッキリするが、また、翌日にはパンパンになる。

 過去に腫れたことがあると、まるで一度膨らませた風船のように、すぐにパンパンになってしまう。

 腫れてしまうと、人間の足のむくみと同じように怪我ではないにしても、動きはじめに支障がある。腫れのために、関節が曲がりにくく、動きにくいのだ。

 雑菌が悪さをし始めると、痛みも伴う。

 むくみだけなら、運動を数日休ませると今度は逆にスッキリすることもあるのだが、細菌性のものならばとにかく動かして血流をよくしないと、ますます腫れてしまうようだ。


 寒くなって血流が悪くなると、とにかく、腫れやすい。

 冬の季節は、夜、厩舎用の肢巻をして帰る。そして、翌日には外し、また夜に巻く。

 遠赤外線で温めるようなものもあるが、ある程度、加圧したほうが、シェルにはいいようだ。


 肢巻とは、馬の脚に巻く包帯のような布だ。

 運動用と厩舎用があるけれど、私にはあまり違いがわからない。

 ただ、運動用よりも厩舎用のほうが太めで長めだ。

 私はニットのものを使っていて、多少の伸縮性があり、足にぴったりくるようで気に入っている。

 やや長めの厚めのパッドを入れて巻くようにしている。

 シェルは繋が腫れるので、球節まで巻いている。長さがないと巻けない。

 以前、繋も蹄の蹄球部まで巻く技量のある人を見たが、流石に、夜中に解けるのでは? と不安で、そこまではできない。


 肢巻をするのは、わりとコツがいる。

 下手な巻き方をすると、かえって悪い状況を引き起こしてしまうからだ。

 できるだけ均等に圧がかかるよう、パッドは欠かせない。

 シェルを持ってから九年間、巻く機会が多かったので、かなり上手に巻けるようになった。


 冬は、厩舎用肢巻のシーズンだ。

 でも、今年はシェルの右後肢の腫れ方がひどく、痛がることも多かったので、八月末からもう巻き始めている。

 変な気候のせいなのかなぁ……。


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