第533話 あいあいさー!

「ところでココ、さっきから話に出てくるジェシカってのはどこの誰なんだ?」


「あ、うんとね、ジェシカねぇはココの家のお隣に住んでたお姉さんなの。優しくて面倒見が良くてココも大好きで。それでおにーさんに紹介するはずの裁縫職人だったんだけど――」


「なにっ、ってことは――」


「ジェシカねぇが帰ってこないとあの黒猫のお人形さんを直すのはちょっと無理かなぁ……」


「そういうことなら分かった、今から俺がジェシカを助けに行こう」

「おにーさん決断はやっ!?」


 俺の決断が早い?

 そりゃ早くもなるというものだろう。


「俺はハヅキと約束したんだ。綺麗に直してやるから2,3日ちび太を貸してくれって。俺は保護者として、ハヅキの期待とわした約束を破るわけにはいかないんだ!」


 俺は真夏の太陽のごとく、メラメラと燃え盛るやる気に満ち満ちていた。

 ハヅキのためならたとえ火の中水の中、洞窟の中にだって入っていくさ!


「そっか……じゃあココもおにーさんについてく! ジェシカねぇにはすっごくお世話になったんだもん」


「だめだココはここにいろ。なんとなく危険って言うか、いやーな感じがしてる。だからココは待っていてくれ」


 危険を察知する知覚系S級チート『龍眼』はまだ特には反応していない。

 でも異世界に来てからつちかってきた俺のSS級センサーがビンビンに危険シグナルを送ってくるのだ。


 この先にはSS級がいるってな。


 そんな危険なところに、非戦闘員のココを連れて行くわけにはいかないだろう?

 だって言うのに――、


「ううん、ココも行くもん!」


 ココは譲ろうとしないのだ。


「おにーさんだけよりココがいたほうが、ジェシカねぇと会った時に話が早いと思わない? それにナイアちゃんも認める最強のおにーさんがいればココも安全でしょ?」


「言われてみれば確かに……。ジェシカも洞窟で出会った見ず知らずの男についていきたくはないか」


「でしょでしょ? じゃ、ココがおにーさんをほこらの奥、祭壇さいだんのあるところまで案内してあげるからレッツ・ゴー!」


 どうやらココの決意は固いようだった。

 ジェシカという女性はココにとってそれほど大事な人なんだな。


 まったくよ。

 普段は金金かねかね言ってるくせに、こういう時は利益度外視で人情だけで動くんだよな、この子は――。


「そうだな。そこまで言うなら一緒に行こう。ただし危ないと感じたらココは一目散に逃げるんだぞ? 自分の命を最優先にするのが最低条件だ。俺は強いから一人残されたって大丈夫なんだからな?」


「あいあいさー!」


 俺の問いかけにココがシュバっと敬礼で返してくる。


「よし、そうと決まったらすぐに出発しよう」


 こうして。

 俺とココはジェシカを助けるため、獣人族のほこらを探索することになった。

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