第534話 探索はウシ耳カチューシャをつけて

 簡単な探索の準備をすると、


「じゃあ行くぞ」

「うん!」


 俺とココはすぐにほこらの中へと足を踏み入れた。


 入って少し行くと間もなく外の光が入ってこなくなる。


「暗いな」


 探索用に借り受けたランタンが俺とココの周囲こそ照らしてくれるものの、通路の先を見通せないのはいささか不安だ。


 となれば、よし。


 俺は暗闇でも見えるようになる知覚系A級チート『キャッツアイ』を発動した。

 すると視界が昼間のように一気にクリアになる。


 オッケー、これでサクサク進んでいけるな。


「ねぇねぇ、おにーさん。ココはネコ耳科の獣人族だから暗くても見えるけど、おにーさんは人族なのに暗くても平気なんだね?」


「んー、まぁ割とな。特異体質って言うか?」


 全チートフル装備は特異体質と言えなくもないだろう。

 チートについて種明かしができない以上、こんな感じの説明でお茶を濁すしかないんだよね。


「へー、強いだけじゃないんだねー。すごーい、やるー」

「ははっ、そうでもないよ」


 そして謙遜けんそんこそしてみせるものの、もちろん可愛い女の子に褒められてまんざらでもない俺だった。


「ところでなんだけどさ。入る時に渡された『これ』はなんなんだ?」


 言って、俺は自分の頭に着けたウシ耳カチューシャを指さした。

 読んで字のごとく頭に装着するウシ耳であり、つまり今の俺にはなんちゃってウシ耳がついている。


 なぜかほこらに入る前に、俺とココそれぞれにこのウシ耳カチューシャが手渡されたのだ。


「ココがつけるとほっこり可愛いけど、俺がこれをつけても痛々しいだけだよなぁ……」


「そーでもないと思うけど。おにーさんかっこいいし割と似合ってるよ?」


 ラブコメ系S級チート『ただしイケメンに限る』が発動しているからココはそう言ってくれるけどさ。

 俺としては今は鏡だけは見たくないよ……とほほ。


「それでね、洞窟やほこらの中にはミノタウロス――怪力自慢の古代ウシ耳族がいるって言われてるの。だからウシ耳をつけることで仲間だよーってアピールするんだ」


「え? なにそれ初耳なんだけど。そんなのがいるのか?」


「いるって言うかそういう伝説が各地にあるってだけで、実際にミノタウロスを見た人は多分いないと思う」


「神話とかおとぎ話ってやつか」


「うんそう。獣人族は迷信とか結構信じる方だから、昔からこうやってウシ耳をつけて入るのがシキタリなんだ」


「へぇ」


「へぇって、これ結構有名なお話だと思うんだけど、おにーさん知らなかったの?」


「さっきも言ったけど初耳だ。あまり世の中のことには詳しくなくてな」


 なんせまだこの世界に来て1か月も経ってないんだもの。


「ふーん。ま、こういうとこに子供が勝手に入ったら危ないからねー。入ったら怖いミノタウロスに会っちゃうぞーって怖がらせる意味もあるんだよ」


「夜遅くまで起きているとお化けに連れていかれるぞ、だから早く寝ましょうね――って小さい子供に言い聞かせるみたいなもんか」


「うんうん、そんなかんじかなー」

「教育としての童話、よくある話だな」


 そんな感じでだらだら世間話をしながら一本道を歩いている内に、


「とーちゃく!」


 俺とココはジェシカと出会うこともなくほこらの最奥へと行きついてしまった。

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