第523話 『ウォール・マリア ~マリア奪還~』

「そうだ、この後少ししたら礼拝があるんですが、よかったらマナシロさんも見ていかれますか?」


「んーと、そうだな……うん、ティモテが頑張っている姿を見ていこうかな。聖母マリアの話も聞いてみたいし。何を聞いてもほんとかよって思うくらいに凄すぎるから、ちょっと興味あったりするんだよな」


「では今日の説法ではマリア屈指のエピソードの一つ『ウォール・マリア ~マリア奪還~』でも語りましょうか」


「ウォール・マリア? ――ってなんだ?」


 なんとなく聞いたことのあるネーミングだな。なんだっけ?

 ……まぁ今はいいか。


「途中まで簡単に説明しますと、マリアの大きすぎる影響力を恐れた時の国王が、マリアの住まうセレシア本家を1000人の軍隊で包囲し軟禁しようとしたんです」


「うわー……そういうのめっちゃありそう……」


 マリアみたいに世のため人のために社会に声を上げて行動する人間って、権力者にとってみれば自分や自分の治世が批判されているみたいで、どうしても面白くない存在だもんな。


「けれどどれだけ強く脅されてもマリアは決して己の信念を曲げず、毅然きぜんとして気高く振舞い続けたんです」


「ブレないのはさすがだな」

 もはやこれくらいでは驚かない自分がいるよ。


「そんなマリアの態度にごうを煮やした王によって明日にも屋敷が攻め落とされる――という段階に至ってもなお、マリアは側近のメイドにこんな冗談を言っていたそうです。『なんてこと、明日は新作ドレスが届くはずだったのに……』と」


「肝が据わってるなぁ……」


 なんかもうここまでくるとむしろ、自分のことしか興味がない究極の自己中だったんじゃないかって、そんな気すらしてくるよ。


「ちなみに当時は弱冠19歳。高等学校を首席で卒業したばかりでした」


「若っ!? 実はマリアって人生2周目だったりしない? ん? でもそれのなにがウォール――『壁』なんだ?」


「これ以上はネタバレになってしまいますので――」

「いいよ、ここで止められると気になって気になって仕方ないから、今聞かせて欲しい」


「わかりました――その晩のことでした。各地から、国外からもマリアを助けるために続々と民衆がせ参じたんです。その数は少なく見積もっても20万人を超えたと言われています」


「……は? 20万人? 自発的に集まったの? マリアのために?」


「はい。そして農具などを武器に集まった20万を超える群衆は、逆に国王の軍を『壁』のように包囲して瞬く間に降伏させたんです」


「お、おう……」


 1000人でマリアを包囲したと思ったら、逆に20万人に包囲されていた。

 何を言っているか分からないが、マリアがすごいのは分かりました。


「そっか、それで『ウォール・マリア』。マリアを守った壁ってわけだな」


「そしてこのエピソードはマリアの影響力の強さを全世界へと知らしめる契機になりました」


「なるほど……そしてこの話からくる教訓は、それまでマリアがおこなってきた無償の人助けや社会改革が、巡り巡ってマリアのもとに返ってきたってこと、でいいのかな?」


「ズバリご明察の通りです。情けは人の為ならず、という教えですね」

 ティモテはよくできましたと言わんばかりの、満面の笑みを浮かべてそう言った。


「この明日にも殺されるという窮地のマリアがそれでも己の信念を曲げず、周囲の緊張を解きほぐすため冗談を言ってみせる終盤のシーンは、演劇などでも大人気の名シーンなんですよ。かくいう私も大好きなエピソードでして」


「ほへぇ……ほんと凄いなマリア=セレシアは……」

 ティモテの語ったマリアの凄さに、俺は今回もただただ感心するしかないのだった。


 その後、ティモテのえちえちシスター服で目の保養をしながら礼拝に参加した俺は、さらなるマリアの凄いエピソードを聞かされて感心しきりだったのだった。

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