第524話 「よし行こう、おー!」 「おー!」

 礼拝に参加した帰り道。

 そろそろ日も落ちて夕方になろうとしていた頃、


「セーヤ、今帰りかい?」

「あ、おにーさん! こんちはー。あ、もうこんばんはかなー?」


 俺は、今落ち合ったばかりって感じのナイアとココの2人組に遭遇した。


「俺は礼拝の帰りなんだ――でもあれ、ナイアとココは今からどこかに出かけるのか?」


 俺が何気なく聞くと、


「え? あ、まぁ、そんな感じかな?」


 ナイアが一瞬焦ったような顔をして――しかしすぐにまたいつもの、できるキャリアウーマンお姉さんなスマイルに戻った。


 おや?っと思って気になったんだけど細かいことを変に詮索するのもな……ウザい男と思われて、優しくて綺麗なお姉さんに嫌われたくないし……。

 そう思った俺は気付かなかった振りをしてそのまま別れようとしたんだけど――、


「今からうちのお店でナイアちゃんの秘密のファッションショーをするの。良かったらおにーさんも見に来る?」


 ココが急にそんなことを言いだしたのである。


「ちょっとココっ!?」

「んー、いーじゃん別に。減るもんでもないし?」


「き、君はもう少し顧客のプライバシーへの配慮というものをだね……」


 冷静さを取りつくろってもっともらしい指摘をしているのの、秘密をばらされて焦りの色を隠しきれていないナイアに、


「えー? だって前にナイアちゃん約束してたじゃん。おにーさんにえっちな下着を見せるって」


 ココはいつもと同じ愛嬌のある笑みを浮かべながら、ナイアの指摘なんてどこ吹く風でそんなことを言ってのけた。


「あれは場の勢いで言ってしまったというか……後から冷静になって考えると割ととんでもないことを言ってしまったって、こっそりなかったことにしようって結論になっただろう?」


「あ、そうだったかも! ごめんねナイアちゃん、ココすっかり忘れてたよ! 失敗しっぱい」


 なんてわざとらしく言いながら、ココはてへぺろっと可愛く舌を出す。

 嘘であることを特に隠す気もないようだ。


「まったく君はいつもそうだ。ほらセーヤも呆れているだろう? ――って、セーヤ?」


 ナイアの問いかけに、めくるめく大人のファッションショーを想像していた俺ははっと我に返った。


「は――っ!? あ、はい。秘密のファッションショー、すごくいいと思います!!」

 そして要らないことを言ってしまった。


「セ、セーヤ!?」

「さすがおにーさん、正直だね!」


「だ、だってあれだろ……? ディリンデンのデートの最後、アトリエ・ココでプレゼントを買った時に約束した、ナイアがお尻に穴の開いたすけすけでえっちな下着を着て見せてくれる、大人のファッションショーのことだろ……?」


 その言葉を聞いた俺が「ついにその時が来たか!」と即座にピンク色の妄想の海に船出してしまったのも、これはもう仕方がないことではないだろうか?


 俺はもはや自分を抑えることができないでいた。

 目をギラギラさせてナイアとココに迫る。


「事ここに至っては、もはや俺の気持ちを隠しはしない。さぁ行こう、やれ行こう!」


「ノリノリだねおにーさん! よし行こう、おー!」

「おー!」


「おー!!」

「おー!!」


「おー!!!」

「おー!!!」


「分かった、分かったよ! アタイも女だ、約束は守るさ。だからセーヤ、ココ。お願いだから人通りのある道で、これ以上この話をするのはやめようじゃないか? ね?」


 というわけで。

 3人全員が全会一致で意見を合致させたところで俺たちは一路、ナイアの秘密のファッションショーが行われる『アトリエ・ココ』アウド街支店へと向かったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る