第522話 S級チート『お天気お兄さん』
グレンとの殺伐とした雰囲気が消え失せ、なんとなく場が温まってきたところで、
「ふむ、それではワシはそろそろ失礼するかの」
急にグレンがそんなことを言って帰り支度を始めた。
帰り支度と言ってもマントに付いているフードをすっぽり被って、鬼族に特徴的な頭の角を隠したくらいだけど。
「警戒網の穴をつぶす作業がまだほんの少し残っておったのを、すっかり忘れておったわ。最近物忘れがひどくての。いやはや年は取りたくないものよ。そういうわけであとは若い二人でゆっくり楽しむがよい」
そのままグレンは音もなく出口に向かうと、振り返ることなく去っていった。
「……なんだか気を使われたみたいですね」
「なんかそうみたいだな……」
「……」
「……」
「……」
「……」
じ、じりじりとした沈黙が居心地悪い……。
なにか言わないと……。
「……」
「…………」
くっ、グレンの奴が「2人きり」を意識させるようなことを言い残していくから、変に緊張してしまったじゃないか……!
だめだ、何か話さないとって思うと余計に何を話せばいいか分からなくなってきたぞ……!?
落ち着け、落ち着くんだ
さっきまではマリアの教えとかそういう話題をいい感じに自然に話せていたじゃないか。
頑張れ俺――いや頑張らずに肩の力を抜くんだ俺!
俺は異世界転生してからこっち、たくさんの女の子たちと混浴したり一緒の布団で寝たり、ぎゅっとくっついたりと色んな素敵体験をしてきたじゃないか!
俺は経験豊富な上級童貞なんだ!
なにか一つでも話題があればそれをきっかけにまた普通に話せるはず……!
なにか話題はないか。
話題だ、話題……できれば気の利いた話題がいいけどこの際、高望みはしないぞ。
はっ、そうだ!
今日の天気を説明して明日の天気を予測する気象系S級チート『お天気お兄さん』発動!
俺は軽く一度、息を吸ってはいてをすると――、
「今日は良い天気だけど時々風が強くてさ。それでも
「そうだったんですね。ここにいるとわかりませんでした」
「だよね!? 屋内にいたらわからないよね! ごめんね!!」
「……」
「…………」
会話、しゅーりょー。
くっ、『今日は良い天気だね』だと女の子向け会話能力の低さがバレると思ってちょっとひねったのが、逆に大失敗だったか……!
異世界に来るまで32年も
「くすっ、マナシロさんは面白い人ですよね。変に偉ぶらないところが素敵だと思います」
ティモテはにこやかに笑ってそんなことを言うのである。
「え、あ、そう?」
よかった、なんだかよくわからないけどぎこちない雰囲気はなくなった感じ!
終わり良ければすべて良し、だね。
……決してどんくさい俺を見かねたティモテが、そっと救いの手を差し出してくれたわけではないと、そう信じたいです。
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