第509話 覇王流・育乳術 初伝

 ウヅキの部屋を出て自室に戻りながら、


「寝る前にトイレにいっとこ……」


 俺は自分の部屋を通り越してお手洗いへと向かった。


 その帰り道、


「あれ、灯りが漏れてる……? 巫女エルフちゃんの部屋だよな?」

 俺は巫女エルフちゃんの部屋のドアがわずかに開いていて、灯りが廊下に漏れ出でていることに気が付いた。


 夜はまだ涼しいし、それにほら、外から見えていたら不味いこともあるじゃない?

 紳士・麻奈志漏まなしろ誠也くんとしては極めて当然の行為として開いているドアを閉めてあげようとしたんだけど、ふと、中から何やら話し声が聞こえてきたのだ。


 なので、ちょっと気になってこっそり見てしまいました。

 決して、決してのぞこうとして近寄ったわけじゃないですし、深夜の秘密のガールズトークがどんな話なのかなーって、好奇心から盗み聞きしようとしたわけでもないんです。


 気配を隠匿いんとくする隠密系S級チート『抜き足差し足忍び足』を使ったのも、要らぬ気を使わせないようにそっとドアを閉めてあげようっていう、紳士的な気遣いからだったんだからねっ、最初は!


 というわけで。

 故意ではないことの証明が済んだところで、俺は改めて部屋の中を覗き見た。

 その俺の視線の先、話していたのは2人の女の子だった。


「これではおー流の育乳術・初伝は終了しゅーりょーですー」

 一人は部屋のあるじである巫女エルフちゃんで、


「ふむふむ……実に興味深く、大変ためになりましたわ。食事がこれほど大事とは……朝から肉と豆をしっかりと食べ、内側から育てていく……なるほど、これはすぐに実践しなくてはなりませんの」


 もう一人は金髪ちびっ子お嬢さまのサーシャだった。

 巫女エルフちゃんの説明を、なにやら真剣な表情でメモなど取りながら聞いているようだ。


 っていうか覇王流・育乳術ってなんやねん。

 しかも初伝って中伝以降があるのかよ?

 ツッコミどころ満載なんだけど。


「さらに特殊な覇王流クリームを塗ってマッサージをすることで、乳腺とツボを刺激。特に乳腺を狙ってダイレクトに刺激することによって、これまた内側からバストを作り出すというわけですわね!」


「そのとーりですー」


「理にかなっておりますわ、実に理にかなっておりますの! とても素晴らしいですわクレアさん! ――っと失礼しましたの。わたくしとしたことが、新たな知見を得てついつい我を忘れて興奮してしまいましたの」


 少し頬を赤らめながら、サーシャはコホンと咳払いをした。


「だいじょーぶですよー、ここにはクレアとサーシャさんしかいませんのでー」

 そう言った巫女エルフちゃんが一瞬、俺の方を見たような気がして――、


 ビクゥ――ッ!?


 俺は思わずパッと身体を引いてしまったのだった。


 しかし巫女エルフちゃんは俺を見つけたわけではなかったようで、特になにがどうのってわけでもなく、すぐに視線をサーシャへと戻した。


 ふぅ……やれやれ……びっくりしちゃったよ。

 いや、やましいことはないんだけどね?

 これはたまたま偶然なりゆきで見ちゃっただけなんだから。


 そうだよ、覗きがバレているわけではないはず、焦る必要はないんだ。

 今使っている『抜き足差し足忍び足』は隠密系のS級チート。

 アリッサたち異世界転生局が用意してくれたS級チートが、そうそう見破れられるわけがない! ……はず。


 なんてことを考えている間にも、巫女エルフちゃん先生とサーシャ生徒の秘密のナイトレッスンは続いてゆく。

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