第503話 2人の距離感
「よ、ケンセー。となり座るな」
俺は軽くそう言うと、返事も待たずにケンセーの隣へと腰を下ろした。
「んー」
ケンセーもニコッと笑っただけで応えてくる。
チート学園で何か月も一緒に過ごした俺たちにとって、勝手に隣に座るくらいはもう当たり前の行為なのだった。
チート学園でそうだったように、ケンセーが俺の身体にそっと触れるか触れないかくらいの、友達以上恋人未満な距離にその小さな身体を寄せてくる。
このギリギリ触れるか触れないかが、『従兄妹で幼馴染』の俺とケンセーの距離感なのだった。
そのまま何を話すでもなく二人、そのこそばゆい空気感に身を委ねながら肩を並べて座っていると、
「なんか不思議だね」
ケンセーがぽつりとつぶやいた。
「ん、なにが?」
「こうやって隣っこで座ってセーヤくんと話していると、なんだかまだチート学園にいるみたいじゃない?」
笑顔で言いながらもしみじみと言葉を紡ぐその姿からは、みんなと離ればなれになったことに対するケンセーの悲しみが、ほんのわずか見て取れた。
「俺もまたケンセーと座って話ができるなんて、今でも嘘みたいだって思うよ」
「ほんと奇跡だよね。ありがとね、セーヤくん。私のために頑張ってくれて」
「俺はやる時はやる
「あはは、セーヤくんはそのフレーズ好きだねぇ」
そう言って笑ったケンセーの目は少し遠くを見るような、なにかを懐かしむような様子で。
「まだ向こうが懐かしいか?」
「懐かしくないと言えば、うん、嘘になるかな」
「そっか……でもこっちの世界もさ、同じくらいにいいところなんだぜ?」
「うん、それは知ってる! だから私を送り出してくれたみんなに感謝だね!」
「そうだな」
この世界にケンセーを存在させてくれたミロノヴィーナスちゃんたちには、本当に感謝してもしきれない。
最後の最後まで俺とケンセーのために頑張ってくれてありがとうな、みんな。
「じゃあはい、もう湿っぽい話は終わり! なにせ今日はセーヤくんの快気祝いなんだから! 楽しまないとだし!」
言葉通り、ケンセーはとびっきりの笑顔でそう言うと、焼き鳥を一本ほおばった。
そのまま満足そうにほむほむごくん、ほむほむごくんするケンセー。
「うん、おいしい!」
ケンセーはエネルギー生命体だけど、エネルギー生命体がご飯を食べられるのは精霊さんにて証明済みだ。
っていうか精霊さんは温泉にも入ってたしな。
なんでもありだろもう。
「そうだ、ちょっと意外だったんだけさ? ケンセーのことだから俺の隣に座りたがるとばかり思ってたんだけど」
チート学園でのケンセーは結構独占欲が強かった。
なのにこの宴席ではケンセーは空いていた隅っこに座ると、俺のところには来ないで時おり、他の女の子のところに足を延ばしては挨拶をするというのを繰り返していたのだ。
それを見たらなんでかなーってやっぱ思うだろ?
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