第502話 グッド・ラック!

「――ま、ここでする話でもないか。よそ見しながら聞いてるところを見ると、当のセーヤがよくわかってないみたいだし」


 びくぅッ!?

 よそ見と言われた瞬間、俺はシュバっと背筋を伸ばして姿勢を正した。


「あ、うん、よく分かっておりませんです……」

 きょどりそうになるのを必死にこらえる。


 さ、さすがはナイアだな。

 2人の話している内容をよく分かってなかった俺が、考えるのをやめて視線を下げ、横目で右にナイアの、左にクリスさんの素敵なおっぱいを堪能していた事実に気が付くとは……!


 ということは、俺が肘をわざと出しては何度も素乳に接触を試みていたこともバレているに違いない。


 であるならば、さっき片膝ついたナイアのパンツをガン見していたことに気づかれていることも、確定的に明らか……!


 ナイアやクリスさんの胸やパンツを見たり、ふにゅふにゅと肘タッチしていた言い訳を俺が今さらながらに考え始めた時だった。


「まったくおにーさんは噂通りの女好きで、なのに想像を絶するニブチンさんなんだね!」


 これまで黙って聞きに徹していたココが、まるで俺を助けようとするみたいに絶妙のタイミングで話に入ってきたのは。

 っていうか今のは完全に俺に対して助け舟出してくれたっぽいな……ほんと場を読む能力が凄いよこの子。


 そしてその言いぶりから察するに、どうやらココはクリスさんの隠しごとが何なのかを分かっていそうだった。

 頭の回転の速さに加えて、人を観察する能力がずば抜けているのは初めて買い物した時によーくわかったからな。


「あ、そうだ。よかったらココがおにーさんの知りたいこと教えてあげるよ? おにーさんの快気祝いにココからのスペシャルプレゼント!」

「え、そう? なら教えて――」


 ラッキー、棚から牡丹餅ぼたもちで労せずクリスさんの弱点をゲットできるぞ――、


「ココ。大公になったセーヤの心証を良くしたいのは分かるけど、だからと言ってもっともらしい理由をつけて、他人の心に土足で立ち入るのは感心しないよ?」

 そんな降っていた大チャンスに待ったをかけたのはナイアだった。


「ざーんねん、バレちゃってたかぁ」

 それに対してちっとも残念でもない様子で、てへぺろっとあざと可愛く舌を出したココ。


「まったく君ときたら」

「にゃはははは、ごめんちゃーい」


 っていうか今のに提案にそんな下心があったとは……さすが売り出し中のやり手商人、裏の顔が怖いです……。

 その点トラヴィス商会は誠実さを売りにしてるだけあって、実家のような安心感があるなぁ……クリスさんも仕事はこれ以上なくきっちりとやってくれるし。

 やっぱ基本はトラヴィス商会だな、うん。


 まあココにしても、どこまで本気だったかは怪しいもんだけど。


 なにせココの後ろ盾はトラヴィス商会&贔屓ひいきにしているサーシャなのだ。

 そしてそのトラヴィス商会の筆頭格メイド&サーシャ付きのメイドがクリスさんなんだから、クリスさんの隠しごとを本気で俺に教えたりはしないと思うんだよな、常識的に考えて。


「というわけでおにーさん、ナイアちゃんに怒られちゃったので、後は自分の頭で考えるよーに! おにーさんにも悪い話じゃないはずだよ、グッド・ラック!」


 とまぁ話を良い感じに盛り上げつつ、上手く自分が泥をかぶることで幕を引いてみせたココだった。

 すげーなほんと、なにこの鮮やかなお手並み。

 今のってナイアが止めに入るところまで見越して、あえて怒られに行ったんだろ?


 クリスさんといいココといい、常に数手先まで見越してアクションしてるんだもん。

 俺なんか基本出たとこ勝負の行き当たりばったりで生きてるのに、なにこの違い……ぐすん。


 自分のしょぼさにおおいにへこみながらこの場を後にした俺は、最後に残った女の子――ケンセーのもとへと向かった。

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