第479話 従兄妹で幼馴染ごころ

 だいたいみんな(主にクリスさん)俺のこと童貞っていうけどさ?


 俺ってば、異世界転生初日にウヅキとはお風呂場でかなり惜しいとこまでいったんだぞ!?

 寸前も寸前、あと一歩で脱童貞だったんだぞ!?


 あれはもう実質的に半分は童貞を卒業したと言っても過言ではないのだろうか?


 そう、あの時いいカッコさえしけなければ、イイカッコさえしなければ……っ!

 今ごろ俺は……くぅっ、俺のバカ!


 あの時のことを思いだして後悔のあまりギュッと強くこぶしを握り締めていた俺を、ケンセーがやれやれって顔で見上げてきた。


「童貞かどうかはめちゃくちゃ関係ありますー。童貞が女心を分かった気になるなんて、サッカーしたことない人がペナルティキック戦のキッカーの気持ちを知ったかするようなもんですー」


「ううーん、説得力があるような、やっぱないような……」

 例えがなんとも微妙なのが実にケンセーらしい。


 ま、俺も人のことは言えないんだけどな。

 パッと上手い例えが出てくる人って、それだけで頭いい感じがするよね!


「ほら、変わりやすきは女心と秋の空――って言うでしょ?」

「有名なことわざだよな、もちろん知ってるぞ」


 女の子の気持ちは、すぐに変わる秋のお天気のように移ろいやすいという意味だ。

 『秋』が『飽き』と掛詞かけことばになっててオシャレ感ありますね!

 

「女の子はね、こうと決めたら早いんだよ。納得さえすれば今をポイッと捨てて、ババッと次に行けちゃうの。しかもまっすぐ一直線に。未練を断ち切れるの。あ、これ大事なことだからちゃんと覚えておくんだぞ?」


「なんで急に先生キャラになってんだよ……」

 物知りウヅキ先生と微妙にキャラが被るだろ。


「これは童貞のセーヤくんがこれから先、女の子とのお付き合いで失敗しないようにという、親ごころならぬ『従兄妹で幼馴染おさななじみごころ』です」

「へいへい、そいつはどーもありがとうございました」


「あ、そうだ知ってる? このことわざって、江戸時代までは女心じゃなくて『男心と秋の空』だったんだって」

「へーそうなんだ。なんで近代に入ったら男から女に変わったんだ? ――っていや、そうじゃなくて!」


 おっと、あぶないあぶない。

 ケンセーのノリがあまりにいつも通り過ぎて、放課後の脱力だべりモードに入りかけてたぞ。


 ――でもそれも仕方ないだろ?

 だってそれは、ずっとケンセーと一緒だったチート学園の日常とそっくりそのまま同じだったんだから――。


「そんなに深く考えなくてもいいんじゃない? 偽チートだった私の同意が現実世界へ帰るための最後の鍵で、セーヤくんはついにそれを手に入れました! おめでとうセーヤくん、これで今度こそミッションコンプリートだね!」


「いやだからそんな急な話――帰れるのは嬉しいんだけど、あまりに急すぎるだろ!」

「もうセーヤくんはわがままだなぁ」


「わがままとかじゃなくてさ。だってこれでもかって盛り上がってたところで、いきなりこんな風に終わっちゃって。俺、ぜんぜん心の準備ができてないんだ――」


 もうこの次の瞬間にもケンセーとお別れだなんて、そんなの気持ちの整理がつけられないだろ……!

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