第480話 最後の問いかけ
「大丈夫だいじょーぶ。セーヤくんならきっとあっさり乗り越えられるよ。セーヤくんはどんな強敵だって乗り越えてきたんだから? それに、私だって心の準備なんてできてなかったんだよ?」
「だったら――」
なおも言葉を続けようとした俺に被せるように、
「――でも納得しちゃったんだから仕方ないよね」
お母さんが小さな子に言い聞かせるような、穏やかで優しい声色でケンセーが言った。
「いや、でも――」
「もう。セーヤくんは私がいないとほんとダメダメで、甘えたちゃんなんだから――」
ケンセーがさらに何ごとかを言いかけたところで、
ビキッ!
メリメリメリメリメリーーーーッッ!!
突如として耳をつんざく
「な、なんだ!? 急に地面が割れた――!?」
SS級からS級へと戻っていた知覚系チート『龍眼』によるとこれは、
「意識世界が終ろうとしてるのか――!」
「そういうことだね。最後に残っていた私が、終わることを選択したから」
「うわっ、地面も揺れてるぞ……!」
話している間にもチート学園の校舎や運動場、中庭といった施設に次々と大きな亀裂が入りはじめ――、それだけでなく周囲の空間そのものが
「チート学園が、この世界が崩壊する――!」
世界崩壊という天変地異を前にして焦る俺とは対照的に、
「ねぇセーヤくん、現実世界に帰っても私のことを忘れないでよね?」
ケンセーは終始、静かなままだった。
「ケンセー、そんなお別れみたいなこと――」
「お別れだもん。私たちチートっ子はこの意識世界だけの存在だから――だからこれがセーヤくんへの最後のご挨拶です」
「最、後……」
その言葉の持つ重みを俺は今、改めて実感させられていた。
毎日一緒に過ごしたケンセーと、もう会えない。
ここ数か月一緒に過ごしてきた2年S組やチート学園の女の子たちの顔も、もう見ることはできなくなる。
そんな当たり前のことを、俺は今さらになってひしひしと身に染みさせられていたのだった。
「ねぇセーヤくん、最後にひとつだけ聞きたいことがあるんだけど?」
「……いいよ、なんでも聞いてくれ。ケンセーの聞きたいこと、なんだって答えてやるから」
でもよ、そんなに最後最後って言うなよな。
その言葉を聞くたびに、俺は胸が締めつけられそうになるんだから――。
「じゃあ最後の質問。私はセーヤくんが好き、大好き。世界で一番とびっきりに好き! セーヤくんはどうなのかな?」
「なはは……これまたきっついこと聞いてくるなぁ」
「ねぇ聞かせて、セーヤくんの答えを」
「俺は――」
答えかけた俺に、ケンセーが期待と熱がこれでもかとこもった眼差しを向けてくる。
まったく。
そんな目で見つめてこなくたって、もう俺はお前の想いを無下に扱ったりなんて絶対にしないからさ――。
「ケンセー、俺は――」
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