第201話 かお、みれば、いらいら、わすれる!
荷電粒子砲を受け止めた反動でしりもちをついてしまった俺に、
「これでチェックメイト、ですね」
「く――っ」
死神の鎌のごとき死を告げる荷電粒子砲の砲口が向けられた。
「私の勝ちです《
《
ツインドライヴ荷電粒子砲は完全に回避不能。
そして《
「――逆に私には運があった。もしここに《
「確かにSS級ってほどの戦闘力は感じないな。せいぜいS級に毛が生えたようなもんだ」
これは別に負け犬の遠吠えってわけじゃない。
ま、負けた後で何を言っても言い訳になるけどな……。
「否定はしません。《スサノオ》はS級を超えるという意味において確かにSS級ですが、純粋な戦闘力ではバケモノ揃いのSS級には到底かないませんから。だからここにあなたしかいないとは、本当に私は運がいい」
「おいおい、もう一人、ハヅキもいるだろう?」
「あの子はただの一般人です。壁際で隠れているだけの存在に、何ができるというのですか? さぁお喋りは終わりです」
――『リーン』――
――『リーン』――
遠くで鈴の音が鳴ったような甲高い音がして――、
「くっ、打つ手なし、か――!」
今まさに俺の命を奪う荷電粒子砲が発射される――その寸前に、
「……なんのつもりですか?」
その言葉とともに俺を狙っていたはずの荷電粒子砲が、大きく俺を外れてあさっての方向へと駆け抜けていった。
そして俺の前には――、
「トワ、だめ!」
一人の幼女が両手を広げて立ちふさがっていて――、
「まなしー、いじめちゃ、めっ!」
――ハヅキが俺を守るようにして仁王立ちしていたのだった。
「どきなさいハヅキ。あなたはただの人間です。私はハヅキを殺めたくはありません」
「やっ! まなしー、たいせつ!」
トワ=《スサノオ》の静かな物言いとは対照的に、ハヅキが大きな声で言葉を返す。
「もう一度だけ言いましょう。どきなさいハヅキ、これは最終警告です。3度はありませんよ?」
「だめっ! また、いっしょに、おままごと、する!」
しかしハヅキの答えは変わらなかった。
「トワ、おりてきて。かお、みれば、いらいら、すぐに、わすれる!」
「……ハヅキはいいお友達でしたが、あなたのお父さんがいけないんですよ」
俺は童貞、いや独身なのでお父さんではないんだけど……いやいや今はそんなことはどうでもいい!
「ハヅキ、どいてろ。大丈夫だ、俺はまだやれるからお前は隠れてな」
言いながら立ち上がろうとするものの、くそっ、ここにきて身体が重い……沼地に下半身が沈み込んでいるみたいだ……!
そしてハヅキはというと、手を広げたままで俺の前から動こうとはしないのだった。
「……警告はしました。世界を救うためならば、私はハヅキを撃つことをためらいません」
それでも何を言われても、ハヅキはしっかりとトワ=《スサノオ》を見すえたままで決して動こうとはしないのだ――。
「……残念です」
トワ=《スサノオ》がハヅキに、右手に持つ荷電粒子砲を向けた。
「お別れですハヅキ。あなたと過ごした楽しい時間を、私は決して忘れないでしょう。せめてもの情けです。苦しまないよう、死んだことすら分からないように、心臓を撃ち抜いて一思いに死なせてあげます」
――『リーン』――
遠く鈴の音が鳴り響き――、
「待てトワ! ハヅキは関係ない――!」
「さようなら――」
ためらいなく放たれた超速の熱線が――、
「ぁぅ――っ」
ハヅキの胸の真ん真ん中を撃ち抜いて――。
ハヅキのその小さな体が、ゴムまりのように跳ね飛んだのだった――。
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