第202話 力こそパワー

「ハヅキぃぃぃぃぃ――! こんのぉ――っっっ! スポコン系S級チート『音速の貴公子アイルトン・セナ』発動!」


 身体が重いとかもうそんなのは関係ない!

 撃たれたハヅキを見て頭の中が真っ白になった俺は、加速チートによって一瞬でトップスピードまで加速すると一目散に走り出した――!


 もちろん荷電粒子砲で胸を撃たれて跳ね飛んだハヅキを抱きとめるためだ。


 そのまま今出せる最速のスピードでもって落下点まで到達すると、どうにかハヅキの小さな身体を空中でキャッチすることに成功する。

 すぐに、腕の中でぐったりとしているハヅキに呼びかけた。


「ハヅキ! おいハヅキ! 傷は浅いぞ、しっかりしろ! おいハヅキ! おい! おいっ!!」


 何度も何度も名前を呼びかけながら、それと同時にハヅキの身体を確認していく。


「くそっ、くそっ――!」

 俺がいながらこんなことに――!!


「ハヅキ、返事をしてくれよ! お願いだハヅキ――!」


 なにせ荷電粒子砲の直撃を受けたのだ。

 それはもう見るも無残な姿に――、


「って、あれ……?」

 ……傷一つ、ない?


 いや実際に撃たれた場所、胸の真ん中は服に穴が開いて肌が見えてしまって――ん?


「なんだこれ……?」

 なんか透明なキラキラした結晶体が――、


「これ《神焉竜しんえんりゅう》が献上品とか言って持ってきたエルフの秘宝か……?」

 

 そして、

「うにゅ? まなしー? おはよう?」


 心臓を撃ち抜かれたはずのハヅキが、何事もなかったかのように目を開いたのだ――!


「ハヅキ! 無事だったのか! どこか、どこか痛いところはないか!?」

「うにゅ……とくには?」


「そ、そうか……なら、よかった……ほんとよかった……」

 まずは一安心、俺はほっと胸をなでおろした。

 本当に良かった……!


 そして安堵すると同時に、俺の脳裏にキュピーンと閃くものがあった。

 それは一筋の光明――。


「荷電粒子砲は間違いなくハヅキに直撃していた……なのに当のハヅキはピンピンしているときた。そしてこの宝石の存在……」


 ってことは――!


「この宝石の結晶構造が、荷電粒子砲を急激に減衰させたんだ……!」


 即座に知覚系S級チート『龍眼』でこの宝石を、その結晶構造を精査していく。


 理屈は分からない。

 原理なんてSF過ぎてちんぷんかんぷんだ。


 確証だってない。


 だけど状況から、この宝石の構造が荷電粒子砲を無効化したであろうという結果だけは、推察できる……!


「だったら――!」

 俺の脳内に勝利の方程式が浮かび上がる――!


 しかしそれをなすには俺一人の力では不可能だ。


「お前の助けが必要だ《草薙くさなぎつるぎ》、日本神話最強の神なる剣よ!」


 俺は刃が根元から溶け落ちて柄だけになった《草薙くさなぎつるぎ》へと語りかける。


「今から《天照アマテラス》を全力稼働させる。《天岩戸アマノイワト》のデバフがなんぼのもんだ! トワはこの2つが世界の根源にアクセスする同種の力だって言ってた。意味はわかんねーけど、それならいくらカウンターチートであっても完全に一方的ってわけでもないはずだ!」


 俺はある有名な言葉を思い出す。

 それは――、


「力こそパワー! つまりはごり押しだ! 俺が根性で《天岩戸アマノイワト》の封印を上回ってやるから、お前もSS級神剣としての根性を見せやがれ! 行くぞ、『固有神聖』《ヤマタノオロチ》発動! この宝石の構造をコピーして再現してみせろ!」


 トワのやつ、本気でハヅキを撃ちやがって……!


「帰ったらオシオキだぞおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっ!!!!」

 俺の咆哮のような絶叫とともに、


 ドクン、と。

 俺の中で消えかけていた小恒星たいようが一度大きく脈打って――。


「《神滅覇王しんめつはおう》は誰かを想う祈りの力――! 俺の大切なハヅキの想いを、友達トワを想う少女の願いをかなえるために! 《天照アマテラス》完全開放! 見せてやる、これが俺の全力全開――!」


 粘りつくような《天岩戸アマノイワト》のデバフを振り切って《天照アマテラス》が猛然と唸りを上げて回りはじめた――!

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