第157話 問われたからには、答えなければならないな――!

 別行動のナイア以外の女の子たち&数名の《聖処女騎士団ジャンヌ・ダルク》の女の子騎士たちとで、スコット=マシソン商会の保養所へと踏み込んだ俺たちは――、


「抵抗はないだろうってナイアは言ってたけどさ。すごいな、あっけないほどに完全に無抵抗だ」

 使用人の一人によって、スティール・スコット=マシソンがいるという奥の部屋へと案内されていた。


「騎士の子が《聖処女騎士団ジャンヌ・ダルク》の強制捜査だって告げた途端、使用人一同もろ手を挙げて全面降伏の勢いだったもんな……」


「《聖処女騎士団ジャンヌ・ダルク》は皇帝陛下直属の特務騎士団、つまり近衛騎士と同格ですの。しかも団長であるナイアは勲功くんこう高き爵位持ちとして、広く民に知られておりますわ。となれば一般市民にとってその妨害は皇帝陛下に弓を引くも同じなのですわ」


「そっか。分かってたつもりだったんだけど、ナイアって本当の本当に偉い人だったんだなぁ……」


 ただ、俺としてはもっと暴れん坊将軍的なチャンバラがあると思ってたので、ちょっとだけ拍子抜けしてしまっていた。


 でもよくよく考えれば、日本でも警察が強制捜査に入った時に抵抗されて撃ち合いになった、なんて話はまず聞かないもんな……。


 そんな感じで、俺たちはいたって平和に屋敷の中を進んでいった。


 どれくらい平和だったかというと、《神焉竜しんえんりゅう》なんて全く興味無さげに最後尾で髪の毛の先をいじりながら、時おりあくびまでかましてるくらいである。


 そして、

「ここか――」


 俺たちは一番奥の部屋、扉からして高そうな丁度がほどこされた部屋へと案内されたのだった。


 その扉をわずかにそっと開けて中を覗き見ると、


「いた、あいつだ……!」


 中にはスティール・スコット=マシソンがいて。

 さらにその前には小さなオオカミが2匹、鎖に繋がれて転がされていた。


「妹たちなのだ! むぐむぐ……ガブリ」


「いててっ……ごめんシロガネ。でも大きな声は出さないでくれないか? 妹たちを無事に助けるために、な?」


「むぅ……わかったのだ」


「よし、いい子だ」


 軽く頭を撫でてシロガネを落ち着かせると、俺は中の様子をうかがっていく。

 すると、


「まったくなぜだ!? まさか《シュプリームウルフ》を撃退したとでもいうのか? SS級だぞ、ありえないじゃないか! それともまさか懐柔されたのか? くそっ、どちらにせよ使えない犬め……!」


 いら立ちが最高潮に達したのか、スティール・スコット=マシソンは机の上にあった書類を力任せに手で払いのけると、それを床へとぶちまけた。


「あと一歩で、もう少しで東の辺境からの、A5地鶏の帝都納入権を奪取できたというのに……! 今までの策略が――ゆくゆくは東の辺境の経済圏も全て手に入れるという壮大なボクの計画が、これで完全におじゃんじゃないか! ごろつきに荷馬車を襲わせるのも《シュプリームウルフ》を誘拐するのも、他にも手間と金を費やしてありとあらゆる妨害工作をやったってのに……! あと一歩だったのに、くそっ! くそっ! くそっ!」


 怒りに染まったスティール・スコット=マシソンの視線が、幼いオオカミ姉妹に向けられた。


「全てはおまえらのせいだぞ! おまえらが、お前らの姉が荷馬車襲撃をしくじらなければ……! どれ、お前らには少し痛い目を見せてやるとするか……! 恨むなら使えない姉を恨むんだな!」


 拘束されて抵抗できない2匹へ、怒りとともに嗜虐的しぎゃくてきな笑みを浮かべたスティール・スコット=マシソンが近づいていく。


 うん、これ以上は危険だな。

 幼い姉妹たちの危機を前にしたシロガネが、俺の隣で猛烈な怒りを発しているし。


 それ以前に、俺だってこいつの勝手な言い分に正直怒り心頭なのだから――!


「おっけー、行くか――!」


 バァン!!!!


 俺は注意を引くように、高そうなドアをわざと大きな音を立てて派手に蹴り開けた!


 そして、


「話はすべて聞かせてもらったぞ!」

 大音声とともに部屋の中へと突入した――!


「っ! 何者だ!」

 驚いた顔で振り返るスティール・スコット=マシソン。


 やれやれ。

 問われたからには、答えなければならないな……!


「東の辺境に黄金の太陽が昇る時、三つ葉あおいの風が吹く――!」


「こいつ、いきなりなにを言っているんだ……!? 意味不明なのだ」


「しっ。シロガネ、今はセーヤ様の一番の見せ場なのですわ。だからちょっとだけ見守ってあげてくださいですの」


「うむうむ、主様ぬしさまはなかなかの千両役者じゃのぅ」


「これは千両役者というよりかは、傾奇者かぶきものとでも言った方がよろしいのでは」


「これは……! 間違いありません! 早朝の裏山で一番時間をかけて何度も練習していた、『悪事を働く悪者の屋敷に踏み込んだ時』の決めゼリフです! こういう時のためにこっそり練習していたんですね! さすがです、セーヤさん!」


「うにゅ?」


「……こほん」

 い、今の半分は褒め言葉だったはず……。

 き、気を取り直して――、


「俺の名は麻奈志漏まなしろ誠也! 《神滅覇王しんめつはおう》にして《王竜を退けし者ドラゴンスレイヤー》の麻奈志漏まなしろ誠也だ――!」


 俺は高らかに名乗りを上げた――!


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