第147話 天地開闢セシ創世ノ黄金剣 vs 天狼咆哮・群体分身・真

 《神滅覇王しんめつはおう》によって超絶強化された知覚系S級チート 『龍眼』による確信とは、つまりこういうことだった。


 《天狼咆哮・群体分身ライラプス・オーバーロード・ミラージュ・ファング》によって分身したあとの個々の力は、分身前――つまり一体の時と比べて劣っていた。

 しかし4つに分かれたからと言って、それぞれが1/4しかなかったわけではない。

 それぞれが、少しずつパワーダウンしただけなのだ。


 つまり力の総量でいえば、分身体を全部足した力の合計が、分身前より大幅に増えているのだ。

 だったら――、


「その気になれば《天狼咆哮・群体分身ライラプス・オーバーロード・ミラージュ・ファング》をしながら、分身はせずに一つの身体のままで全ての力を保持できるんじゃないのか?」


 数的優位を生み出す分身は、確かに強力かつ有用な能力だ。

 だけど《神滅覇王しんめつはおう》のようなけた違いに強い「個」を相手にするには、戦力の分散という行為は下策中の下策でもある。


 そんな俺の問いかけ――確信を持ったその言葉に返ってきたのは、


「ワォオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーンンンンンンンっっっっっっ!!!!!!」

 世界の果てまで、それこそ天の星まで届くんじゃないかってくらいの、今日一番の大咆哮。


「ビンゴだな……!」

 俺の中の 《神滅覇王しんめつはおう》が歓喜の声を上げた。


 そして《シュプリームウルフ》の巨体が一瞬ぶれたかと思うと、分身するそぶりをわずかに見せてから、しかし何も変わらずいまだそこには巨大な銀狼が一体だけ。


 しかし内に秘めたるその力が大きく膨れ上がっていることを、俺は肌で感じていた。


「いいね、いいじゃないか。《天狼咆哮・群体分身・真ライラプス・オーバーロード・ミラージュ・ファング・アルティメット》、それでこそ《神滅覇王しんめつはおう》が相手をし、屈服させるにふさわしい――!」


 たかぶっていく俺の心とともに、『固有神性』《天照アマテラス》が臨界ギリギリの猛烈な稼働を始め、俺の中に凄まじいまでの黄金の力が供給されてゆく。


「全力全開の敵を完膚かんぷなきまでに打ち倒してこその、神をも滅する我が覇道よ――! 行くぜ――!!」

 その言葉を皮切りにして。


 黄金に輝く覇王と、白銀の天狼が激突した。


「ワォォォオオオオオーーーーンンッッ!」

 嵐のごとく襲いくる速く、鋭く、そして鋭利な爪撃を、黄金の剣がことごとく弾き返してゆく――!


「おおおおぉぉぉぉっっっっ!!」

 お返しとばかりに放った刹那を切り裂く黄金の一太刀は、美しい白銀の突進によって跳ね返された。


「っとと、やるな……! でも、そうこなくっちゃあな……!」

 俺の中の《神滅覇王しんめつはおう》が、楽しそうににやりと笑う。


 今の俺は半分が麻奈志漏まなしろ誠也、もう半分は《神滅覇王しんめつはおう》といったところだ。


 強い敵と相対して戦闘力が高まるとともに、俺の身体を支配してやまない高揚感。

 その怖いくらいの高揚感に身を浸しながら――、


「おおおおおおおおおっっっっっ!」

 《神滅覇王しんめつはおう》となった俺は、眩いばかりの黄金に輝く神剣《草薙くさなぎつるぎ》をふるってゆく――!


 《神滅覇王しんめつはおう》と、《天狼咆哮・群体分身・真ライラプス・オーバーロード・ミラージュ・ファング・アルティメット》。

 黄金と白銀が舞い踊る、これは美しくも目にもとまらぬ高速機動格闘戦だった――!


 神剣と巨爪がぶつかり合って火花を散らし、白銀の巨体と黄金の光輝がしのぎを削る。


「はああああっっっっっ!!」

「ワオオオオォォォォォォォォーーーーンン!!」


 幾度の激突によって、大気は震え、大地はめくれ上がり、攻防はさらにさらにと激しさを増してゆく。


 そんな互角の攻防はしかし、次第次第に黄金の輝きが戦いを支配する場面が大きくなりはじめた。


「そこぉ――っっ!!」

 神剣の一撃が少しずつ隙が見え始めた《シュプリームウルフ》を捉えはじめる。


 何度も、幾たびも直撃を叩き込まれた銀狼が、苦し紛れに振り下ろした巨大な爪が切り裂いたのは、黄金の残像のみだった。


 逆に攻撃直後の隙に、


「おおおおぉぉぉっっっ!」

 またもや強烈な一撃をお見舞いする。


 《シュプリームウルフ》の動きが目に見えて鈍くなり、受けた傷を片っ端から治癒していた回復力にも陰りが見え始める。


 さらに一気呵成に攻め続けると、ついに《シュプリームウルフ》はその動きを止めて、息も荒くその巨体を地べたにうずくまらせたのだった――。


「ふぅ、ま、こんなもんか。なかなか悪くなかったぜ? ああ、安心しろ。別にお前が弱いんじゃない、《神滅覇王おれ》が強すぎるだけだ」


 《神滅覇王しんめつはおう》の高揚感に身体中が満たされているとはいえ、これだけ傲岸不遜ごうがんふそんで謙虚さの欠片もないと、なんかもうどっちが悪役か分からないな……。


「ぐ、がぅ、グル、るルル……ッ」


「おっと、もうこれ以上はお前の身体が持たないだろ? 別に命まで取ろうってわけじゃねぇんだ。大人しくおねんねしてな」


 《シュプリームウルフ》はうずくまったまま、しかし震えながらも顔をあげると、親のカタキとばかりにこちらを睨みつけてくる。


「ぎ……ぐ、グルルルルルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥワオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォーーーーーーーーンンッッッッ!!!!」


 そして《シュプリームウルフ》は最後の力を振り絞り、無理やりその身体を起こすと、今までとはまったく違った、地の底から響くような低くて重い唸り声のような咆哮をあげた。


「なに……っ!」


 その直後、


 ブォン――!

 ブン、ブォン――!


 《シュプリームウルフ》の身体の輪郭が、何度もぶれはじめたのだ――!

 何度も、何度も、何度も、何度も、繰り返し、繰り返し、繰り返してゆく――!


「これは……っ! そうか、際限なく《天狼咆哮・群体分身・真ライラプス・オーバーロード・ミラージュ・ファング・アルティメット》を繰り返すことで、連鎖的に自己強化を繰り返しているんだ……!」


 それは過剰にすぎる力の暴走。

 あまりに過大な負荷のせいで、身体中のいたるところが自壊をはじめるほどだった。


 月夜を照らし返していた美しい銀色の毛並みが、自らの血で赤く赤く染まってゆく――。


「お前もうそれ、完全にタガが外れてるじゃねぇかよ」

 それでも《シュプリームウルフ》は、強化と自滅の二重らせんの無限連鎖をひたすらに続けてゆく――!


「そうか……そこまでして勝ちたいんだな……お前には、そこまでして勝ちたい理由があるんだな……」

 これが《シュプリームウルフ》の意地と誇りか――。


「《シュプリームウルフ》――神の御使い。どうやら、俺は見誤っていたようだ。命を賭したその覚悟、しっかりと見せてもらったよ。その誇り高き生きざまに敬意を表して、《神滅覇王おれ》も最大最強の奥義でもって応えよう――!」


 いいだろう、死ぬ気でぶつかってこい――!


「そして白黒きっかりつけてから、腹を割って話そうぜ! 《天照アマテラス》、完全開放! 限界を突破して世界をあまねく照らし出せ――!!」 


「『古き世界は鼓動ときを止め――』」


 黄金の火柱が立ち昇った。

 真昼のごとく明々と辺りを照らす神剣《草薙くさなぎつるぎ》。


 その姿は、長さ40メートルを超える金色こんじきに輝く長大な光の柱だ。


「『しんなる世界の幕が上がる――』」


 《天照アマテラス》が臨界を超え、制御しきれないほどの黄金の力が俺の身体から猛烈に溢れだす――!


「我が一刀を受けてみよ、《シュプリームウルフ》――!」


 極限にまで密度を高めた光り輝く黄金の剣を――、


「『光、あれ――《天地開闢セシ創世ノ黄金剣アマノヌホコ》――!!』」


 俺は力強く振り下ろした――!


 創世の黄金光と、強化の無限連鎖によって暴れ狂う力そのものとなった《シュプリームウルフ》の突撃。

 強大な2つの力が激突して、ぜた――――!!


 それは力と力の正面衝突。

 小細工一切なしの、文字どおり死力を尽くした必殺技同士のガチンコ勝負だ。


 そしてその極限の決戦はぶつかった瞬間こそ互角だったものの、《神滅覇王しんめつはおう》の黄金の力が少しづつ上回り押しこんでゆく。


「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!」


 そして――。


 《天地開闢セシ創世ノ黄金剣アマノヌホコ》は巨大な銀狼の身体を、無限連鎖の増幅パワーをものともせずに――。


「堕ちろ――!」


 最後は巨大化すら維持できなくなり小さな狼へと姿を戻した《シュプリームウルフ》を、創世の黄金剣が地面へと叩きつけたのだった――。

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