第146話 其は、夜天に瞬く星を堕とすもの――

「誰にケンカを売ったのか、二度と忘れることがないようにな――」


 力強く宣言すると、俺は高々とうたい上げる。

 神をも滅する覇王の凱歌がいかを、常勝不敗の黄金の祝詞のりとを――!


「『は、神の御座みざ簒奪おかすもの――』」


 小さな太陽とも言うべき固有神性の《天照アマテラス》が全力稼働を始め、日本刀クサナギがその溢れ出る黄金の粒子を、これでもかと食らい始める――!


「『は、竜のみかどこうべを垂らせしもの――』」


 刀身が黄金色の輝きに彩られていき、SS級神剣《草薙くさなぎつるぎ》へとその姿を絢爛豪華けんらんごうかに生まれ変わらせてゆく――!


「『は、夜天やてんまたたく星をとすもの――』」


 かつて天の星すら落としてみせたという《神滅覇王しんめつはおう》の前では、神なる星座の力を借りただけの《天狼咆哮・群体分身ライラプス・オーバーロード・ミラージュ・ファング》など、児戯に等しい――!

 

「『は、神をも滅す覇の道をきて――』」


 俺は神速の踏み込みでもって、3体のうちの1体に肉薄すると、神剣《草薙くさなぎつるぎ》を振り抜いた!


「『ただの一度も振り向かず、愚かなまでに、更なる未来さき強欲ほっし続ける――』」


 それだけで分身体は一刀両断、真っ二つになって、溢れいづる黄金の光に上書きされるようにして、その存在を失っていった。

 まずは一体!


「『の者の行く手をはばむ者あらず――』」


 勇敢にも――いや、無謀にも襲いかかってきた2体目。

 不意打ちしたつもりだろうが、悪いが遅すぎる――!


「『ただ覇をもって道なき千里みちを駆け続ける――』」


 背後からの強烈な突進を、俺は振り向きざまの横薙ぎ一閃にて切って捨てた――!

 この力を手にした俺には、もはやその程度の攻撃は避けるに値しない――!


「『その気高き道程みちのりをして、畏敬を込めて人は呼ぶ――』」


 さて残るは1体、本体だけとなった天狼ライラプスのみ――!

 巨大な銀の狼に勝るとも劣らない、雄々しくそして猛々しく吹き上がった黄金の粒子をまといながら、俺は朗々ろうろうとその偉大な覇王の名前を歌い上げた――!


「『その名、たっとき、《神滅覇王しんめつはおう》――!』」


 祝詞のりとの完成とともに――世界が、黄金色に染まった――。


「行くぞ、サーシャに怪我をさせたツケ、身ぐるみぐまで払わせてやる――!」


 輝く黄金の化身となった俺は、巨大な銀狼に向かって疾風のごとく向かってゆく。

 それを迎え撃つ《シュプリームウルフ》。


 だが――、


「遅い――!」


 《シュプリームウルフ》が1回攻撃する間に、俺は5回、6回と攻撃を繰り出してゆく。

 もちろん当たった傍から超回復をされてしまうが、そんなものはお構いなしだ。


「オラオラオラオラオラオラオラオラッッ!!」

 マシンガンを連射するかのごとく、目にもとまらぬ斬撃を《シュプリームウルフ》の巨体へと嵐のように叩き込み、圧倒してゆく――!


 手数の多さを嫌って繰り出された、体格差に物を言わせた《シュプリームウルフ》の強引な突進も、


「おおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!」

 真っ向勝負、《草薙くさなぎつるぎ》を上から叩きつけ、逆にその巨体を弾き飛ばした。


 まさか得意の突進を、真正面から跳ね返されるとは思っていなかったのか。

 それとも自慢の機動力・俊敏さで負けたことに動揺したのか。


 そこで巨大な銀狼の攻撃の手が、ピタリと止まった。


「おいおい、どうした。ビビってんのか? 悪いがこんなもん、まだまだ序の口なんだぜ?」

 

 俺はにやりと笑うと、《シュプリームウルフ》の胴体の真横まで、距離と高さを一気に詰めて飛び上がった。

 そして、


「おらぁっっっ!」

 《草薙くさなぎつるぎ》の一撃を、その無防備な脇腹へと叩き込む。


 巨大な銀狼が今度は横っ飛びに吹っ飛び、地響きを立てながら平原を転がっていった。

 確かな手ごたえを感じたものの、


「やっぱ超回復しちまうか……でもま、それならそれで、超回復できなくなるまでぶっ叩くだけの話だしな」


 着地した俺は休むことなく追撃を開始する。

 銀狼が立ち上がりかけたところであごを蹴り上げ、のけぞって万歳したがら空きのボディへと、


「はぁぁぁっっっ!!」

 大上段から《草薙くさなぎつるぎ》を叩きつけるように振り下ろした――!


 黄金の超斬撃を受け、またもや吹っ飛んでいく《シュプリームウルフ》。

 しかし、


「まだまだぁ――っ!」

 俺は両足に膨大な力を溜めると、それを一気に解放。

 神速の低空ジャンプによって、吹っ飛ぶ銀狼を空中でとらえると、


「堕ちろ……っっ!!」

 《草薙くさなぎつるぎ》を思い切り振り抜いて、その巨体を地面へと叩きつけた。


 ドズウウゥゥゥゥゥゥンンンン――――

 盛大な砂ぼこりをまき散らして、巨大な銀狼が大地に沈む。


 《神滅覇王しんめつはおう》の海を割り、山をも砕く攻撃を立て続けに受けたことで、超回復が機能不全に陥ったのか。


 《シュプリームウルフ》はぴくぴくと痙攣したまま動きを止めていた。


「とりあえず、サーシャを怪我させたことへのオシオキは、これくらいで済ませてやる」


 はい、これで俺の勝ち……でいいはずなんだけれど。

 今や俺の半分を占めている 《神滅覇王しんめつはおう》の考えは違っていた。


「おい犬っころ、寝るには早いぞ。まだあるだろうが? 全部出せよ、ちゃんと待っててやるからよ」


 《天狼咆哮・群体分身ライラプス・オーバーロード・ミラージュ・ファング》について、俺――いや《神滅覇王しんめつはおう》によって強化された知覚系S級チート『龍眼』は、一つの確信に至っていた――。

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