第145話 俺の辞書に敗北という文字は存在しない――
巨大な銀狼が、その巨大な爪でもってサーシャを叩き潰そうとした瞬間、
「――――っ!」
俺の中を一陣の黄金の風が
それと同時に身体が、本能が理解をする。
偉大なる力が――神をも滅する覇王の力が、SS級チート《
「固有神性《
間髪いれぬ俺の叫びに、俺の中の《
固有神性《
《
夜の
《
直後。
俺とサーシャの間に立ちふさがっていた2体の巨狼が、ボーリングのピンのように跳ね飛んだ。
黄金の粒子をまとい、一直線に全力で、力任せにサーシャの元へと駆け抜けた俺に、なす術もなく弾き飛ばされたのだ――!
そして――、
ガキィン――!
黄金の残像だけを後ろに残して、神速でもって間一髪。滑り込むようにしてサーシャの元に到達した俺は。
「ふぅ、なんとか間にあったな……」
俺は受け止めたままの体勢でいったん押し合いの
すると、
「あ、えっと、セーヤ様……?」
死を覚悟していたのか、ギュッと身体を強張らせていたサーシャがきょろきょろと左右を見渡した後に、俺を見て目をぱちくりしながら問いかけてきた。
「ああ俺だよ。身体は大丈夫か? 怪我は? 頭は打ってないか?」
《シュプリームウルフ》の突進をかわしきれず激しくはね飛ばされたサーシャ。
その怪我の具合が心配だったんだけど、
「わたくしは……ええ、大丈夫ですわ。かすり傷くらいでどこも問題はありませんの」
「それは良かった、とりあえずは一安心だ」
受け答えはしっかりしてるし大丈夫そうだな。
ただ、頭を打っていた場合はすぐには異常が分からないんだよな……もう少し話をしてみて様子を見ておくか。
「それよりもセーヤ様、その黄金の光。ついに《
まるで自分のことのように、嬉しそうな顔をしてくれるサーシャ。
「ごめんな。時間がかかっちまったせいで、サーシャにすごく怖い思いをさせちゃってさ」
「いいえ。わたくしなんて荷馬車から落っこちてからこっち、ずっと足を引っ張るばかりでお役にも立てず、今もまた助けてもらう始末で……」
笑顔から一転、申し訳なさそうに謝ってくるんだけど、
「なに言ってんだ。ついさっき弓で助けてくれたばかりだろ? あれがなかったら多分俺はやられてた。サーシャが助けてくれたおかげで、今度はこうやってサーシャを助けに来られたんだよ」
「セーヤ様……」
「それにさ、今回のことでなんとなくわかった気がするんだ。今この力を使えるのはサーシャがいるからだってことが」
「わたくしが……ですの?」
俺の説明不足もあって言いたいことがうまく伝わらなかったせいか、サーシャがキョトンとした顔をする。
「ああ。多分だけどこの力は――《
「想いと願いの力――」
「さっきサーシャを助けたいって想いが、願いが俺の中で爆発した瞬間、《
俺は今、サーシャを助けた時の格好のまま、
ビジュアル的にも俺が抑え込まれているようにも見えて、うん、これはよくないな。
女の子が見ている前で全然ちっともカッコよくない。
ならば――!
「よう、《シュプリームウルフ》。なんかワケありみあいで、今も暴走して我を忘れてるとはいえ、少々おイタが過ぎるぞ? 俺のサーシャに手を出したこと、すこしきつめにお灸を据えてやるから覚悟するんだな」
言って俺はサーシャを左腕で抱きかかえると、右手の
「ぉぉぉおおおおおおおっっっっっっっ――っ!」
ぐいぐいと押し返してゆく――!
そのまま
「オラァッ!!」
一軒家ほどもある巨大化した《シュプリームウルフ》の巨体が、軽く10メートルほど吹っ飛んでいった。
「ふぅ、これでずいぶん話しやすくなった……ってどうしたサーシャ?」
なぜか左腕に抱きかかえたサーシャが、腕の中でくねくね・いやんいやんしていたのだ。
「だってセーヤ様ったら……お、俺のサーシャ……なんて、いくら
サーシャはきゅっと握った左手を胸の前におきながら、赤らめた顏を隠すようにぷいっと下を向いてしまう。
そのせいで後半部分がよく聞き取れなかったんだけど、ぶっちゃけ可愛すぎてそれどころではなかった!
膝がキュッと閉じててさ、もじもじと恥ずかしげに太ももを擦りあわせているのがね、ほんとマジで可愛いんだよ……っ!
こんなもん、抱きしめる左手に思わず
こう、手のひらにじんわりと伝わってくる、柔らかい女の子の感触と温もりときたら、俺はもう……!
「……はっ!? この大事な場面で俺はなにを……」
くっ、これが《
俺が悪いんじゃない、《
「本当にこんな風に抱きしめられて、あんなに強くてカッコいいところを見せられたら、わたくし……」
ああもう! とろんとした表情のサーシャは本当に可愛いな!
――なんだけれども!
とっても後ろ髪を引かれることこの上ないんだけれど!
状況が状況だけに、俺は為すべきことを為さねばならないのである……!
「でも、いつも強気なサーシャが、こんな風に乙女な態度でいるとすごく新鮮かな」
「わ、わたくしはいつだって乙女ですわ! もう、セーヤ様ったらせっかくいい雰囲気なのに酷いですの!」
「お、いつものサーシャ節だな。それだけ元気なら、身体の方も本当に大きな怪我とかはなさそうで良かったよ」
「あ……」
「派手に地面を転がされてたからさ。頭を打ってたりしないか心配だったんで、念のために様子を見てたんだ」
怪我の程度によっては、回復系S級チート『天使の施し』を使わないといけないかもと思っていたけれど、外傷も少しすりむいたりしているくらいで本当に大事はないようだった。
「サーシャが大きな怪我をしてなくて良かった」
「あ……もう、セーヤ様ったら本当にずるいのですわ……」
「いや別にズルくはないだろ……」
すっごく心配したって話だったのに、なぜにそんな評価になるんだ……
「いいえ、ズルいですわ。カッコ良くて、強くて、優しくて、心配性で……素敵すぎて本当の本当にズルいですわ!」
「う、うん……そうか……」
「……」
「……」
おう……なにこの甘々でほわほわでこそばゆい雰囲気!
いや全然ちっとも悪くない――どころかむしろ最高なんだけれども!
「だいたい、ズルいっていうなら妙にしおらしいサーシャだってズルいだろ。可愛すぎてどう接していいか対応に困る俺の身にもなってくれ」
「ぁぅ……」
「ぉ、ぉぅ……」
俺の腕に抱かれたままで、顔をこれ以上ないってくらいに真っ赤っ赤にしてしまうサーシャ。
まぁそのなんだ。
……今のは俺も、自分で言っておいて正直どうかと思いましたです、はい。
たいがいのことはプラス補正にしてくれるラブコメ系S級チート『ただしイケメンに限る』がなかったら、邪王炎殺黒歴史になること間違いなしの
そんなサーシャとこのままピンクでシュガーな二人の世界に浸っているのも悪くはなかったんだけれど、
「ごめんなサーシャ、ちょっとここで待っててくれ。今からしつけのなってない犬っころに、礼儀のイロハを叩き込んでくるからさ」
「勝て、ますのよね……?」
「安心しろ、なんせ今の俺は世界最強の《
俺の中で《
「行くぞ《シュプリームウルフ》、俺の辞書に敗北という文字は存在しない――」
左手に抱いていたサーシャをそっと離してあげる。
「《
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