第113話 デートのナイア 7 プレゼントを君に――
「さてさて。ココのぜつみょーな機転で、いい感じに二人の仲が盛り上がってきたところで! カレシのおにーさん、早速、売り上げに貢献してもらいましょうか!」
「だからセーヤは彼氏じゃないってば――」
しかしココ店員はもはや、ナイアのその言葉にはまったく聞く耳をもつことはなく。
華麗にスルーを決めこむと、俺に向けてにこやかなスマイルで営業をはじめてきた。
「これなんてどう? 今朝方あがってきたばっかのできたてほやほや、シルバーのネックレス。すっきりシンプルにまとまってるから、クールでカッコいい系のナイアちゃんには、まちがいなく似合うよ? しかもお値段なんと
「ああいや、そのだな……」
言いよどんでしまう俺。
「ごめんね、ココ。実は今日はアタイじゃなくて、別の女の子へのプレゼントなんだ。とっても可愛い子だから、ガッツリ可愛い系を中心に見繕ってくれないかな?」
そんなへっぽこな俺を優しく助けてくれるナイア。
ナイアの言葉を聞いて一瞬、ココの笑顔が「えっ? マジでカレシじゃないの? それ以前に他の女の子へのプレゼントを選ばせるとかありえなくね!?」って感じでひきつった。
しかしそこはそれ、大望を抱くやり手の商売人である。
ココはすぐに営業スマイルを取り戻すと、何事もなかったかのようにリボンや花をあしらったアクセサリーを取り出しては、
「ふんふん、おっぱいがとっても大きいと。じゃあその大きなおっぱいに負けないくらい、強めに視線を引けないとダメね。可愛い系で、パッと目を引くものとなると――」
贈る相手のことを上手いこと聞き出しつつ、同時に俺の反応を見ながら好みの方向性に当たりをつけて、理想のプレゼントを導き出していく。
やるな――。
転生前、平々凡々なしがない営業職だった俺は、ココの巧みな話術と頭の回転の速さに感心させられるばかりだった。
そうして選ばれたのが、
「おお! いいよ、いいじゃないか。これは絶対にウヅキに似合う(確信)」
大きめの赤い花飾りがパッと目を引く、可愛らしいシュシュだった。
それともう一つ。
色違いで、少し落ち着いた薄ピンクの花が添えられたシュシュ。
これはハヅキへのプレゼントだ。
1200円(600円×2)という限られた予算の中でこれは、すごくいいチョイスだぞ……!
さすがナイアお勧めのお店だけはある!
「はい、じゃあこれで決まりね。『3つ』まとめて、お買い上げありがとうございます!」
ココはシュシュ2つに加えて、最初に見せたシルバーのネックレスも一緒に紙袋へと入れていく。
「あ、いや2つだ。その、さっきも言ったと思うけど持ち合わせがないんだ……。あ、すみません、今ちょっと見栄を張りました。白状すると、これが俺の全財産です……」
「あのね、他の女の子へのプレゼントを選ばせる手伝いをさせておいて、当の本人には何も渡さないってのは、ココ的にどうかと思うなー」
「そうしたいのは山々なんだけどさ。そうは言っても先立つものがですね……」
「おにーさんはほんとしょーがない甲斐性なしだね!」
「面目ない……」
「でもなけなしの全財産を、女の子のプレゼントにブッコむその気概は悪くないぞ! だからサービスしといてあ・げ・る。それにおにーさんはこの街を救った英雄さんだもんね! 恩を売っておいて損はないし!」
「さすがにそれは――」
発しかけられた俺の言葉は、しかし立て板に水のココのマシンガントークによってかき消されてしまう。
「あのね、むしろここでおにーさんに恩を売ろうとしないような商人は見る目なし! その時点で商人失格だよ! 向いてないから今すぐこの場で即刻廃業すべきだわ! おにーさんはココを路頭に迷わせたいわけ?」
「そんなことはないけど……」
「はい、じゃあこの話は終わり! ナイアちゃんも。こんないい男、みすみす逃すんじゃないよ? 万が一でも振られたら、絶交だからね!」
「……わかった。肝に銘じておこう」
そして最後に――、と付け加えて、ココは再び俺へと向き直ると、
「ナイアちゃんは何でも一人でできちゃうけど、でもその前に1人の女の子でもあるんだよ。男勝りなところも多いけど、それと同じくらい――、ううん、もっといっぱい、女の子らしく夢見るところももってるの」
「ああ、知ってるよ」
それは今日ちょっとナイアのプライベートに接しただけでも、存分に知ることができた。
「だからおにーさん、ナイアちゃんの女の子の部分をいっぱい見つけてあげて、いっぱい愛してあげてね。ココからのお・ね・が・い♪」
「わかった。約束する」
「ナイアちゃんも、無理ばっかしてないで甘えたい時には甘えるんだぞ? 男の子に甘えるのは女の子の特権なんだから」
「うん、善処するよ」
……なんだよ。
なんだよこいつ。
めっちゃいい奴じゃん……。
友達の幸せを願ってやまない姿に、俺ちょっと感動しちゃったぞ……。
そんなココは、なぜか後ろを向くとぶつぶつ独り言を言いはじめた。
気になったので聞き耳を立ててみると、
「にゅふふ……。帝国屈指の有名人なナイアちゃんと、東の辺境を守った救世主のおにーさんにこれだけ恩着せがましく恩を売っておけば、これはもうこの辺りで商売するなら勝ったも同然! ココは超ビッグになるんだから。シンデレラロードをのし上がるんだよ……。にゅふふふふふ……、ココ大勝利、ぶいっ!」
色々と台無しだった……。
ってなわけで無事にプレゼントを手に入れた俺は店を出ると、
「そろそろ仕事に戻らないといけないから」
そう、申し訳なさそうに伝えてくるナイアに、
「今日はありがとうな。奢ってもらったし、いいお店も教えてもらえて助かった」
そう言って、さっきのネックレスをプレゼントする。
早速ナイアの首元を彩ったシルバーの輝きは、
「うん、すごく似合ってる」
実際すごく似合っていて、自然と本心が言葉になって口をついた。
「ありがとう、セーヤ。一生大事にするから」
それはもう嬉しそうに顔をほころばせるナイアだったんだけど、
「気持ちは嬉しいんだけどさ、そこまで高価な物でもないし――」
そもそもからしてただで貰ってしまったものなので、そんなに嬉しそうにしてもらうのが若干、心苦しいというか……。
でもナイアときたら、
「ううん、大事なのはセーヤにもらったプレゼントってことだから。大事にするね」
なんてことを超嬉しそうな顔で言ってくるんだもん!
「お、おう……そっか……うん……ありがと」
頬が火照ってしまって気の利いた言葉の一つも出てこないのは、これは仕方がないというものではないだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます