第114話 名誉S級チート
ナイアとデートを楽しみ、ウヅキとハヅキへのプレゼントも無事に手に入れた俺は。
仕事へと戻ったナイアと別れて一人、ディリンデンの街を歩いていた。
観光、ではなくお仕事探しである。
ナイアに食べ歩きさせてもらって、朝市や街の雰囲気は十分に堪能できたしね。
俺はちょっとしたラッキーを引き寄せる捜索系名誉S級チート『犬も歩けば棒に当たる』を発動し、きょろきょろと物色しながら街を歩いていった。
「ちょこちょこ仕事の募集はあるけど、いたって普通のしかないな……」
いやまぁ、そんな油田を掘り当てるみたいな美味しい話がその辺に転がっているわけもないわけで、当たり前ではあるんだけれど。
「この世界にもハローワークとかあるのかな? 異世界ものだとよくギルドで仕事を紹介してもらってるよな……」
ちなみに『犬も歩けば棒に当たる』はC級チートなんだけど、ウヅキと運命の出会いをさせてくれたチートということもあって、俺の中ではS級チートと同等の名誉S級チートとして、大いに信頼しているチートなのだった。
そうして信頼を寄せるチートとともに、ブラブラと見て回りながらたどり着いたのは――、
「これがトラヴィスの屋敷兼本店か……。近くで見るとほんとでかいな」
大きな大きなお屋敷だった。
高さは5階建てくらいなんだけど、なんせ横幅と奥行きが尋常じゃない。
庭や別館まで入れたら阪神甲子園球場2,3個分は優にありそうだった。
豆知識だけど、日本では広大な敷地を例える時に「東京ドーム何個分」という言い方をするのが一般的なんだけど、関西に限っては東京ドームの代わりに特別に甲子園を基準数値としているのだ。
全国ニュースでは「東京ドーム何個分」なのが、同じニュースが関西で流れる時は「甲子園何個分」になっているのは関西地方のお約束である。
閑話休題。
「しかしマジで何人住んでるんだ、これ……」
その威容とも言うべき圧倒的な広さを前に、思わず足を止めて見入っていると、入り口から言い争うような大きな声が聞こえてきた。
「ボ、ボクは帝都有数の大商会スコット=マシソンの跡取り息子だぞ! それを辺境一だか何だか知らないけど、田舎商人風情がこんな邪険に扱うなんて――!」
「そんなもん知ったことか! なにが『居なくなった辺境伯の利権を掠めとれば、いくらでも儲けられる』だ! 民を苦しめてきた重税がやっとなくなるいい機会なんだ! 何も知らねぇ外野はすっこんでな!」
「ひっ――!」
見るからに高価な服を着飾った若い男が、尻を蹴られながら追い立てられるようにして、入口から飛び出してきた。
「今あんたんところ、特産地鶏の帝都への搬入が滞って困ってるんだろ? うちは帝都の上級貴族や大臣にも顔がきくんだ。今のうちに手を結んでおかないと、そう遠くないうちに後悔するはめになるぞ!」
「だからなんだ! たとえどんな理由があろうと、てめぇみたいなところと業務提携するなんざ、トラヴィス家末代までの恥なんだよ! おととい来やがれだ!!」
「ふひ――っ」
再び蹴り飛ばされた若い男は、仕立てのいい馬車にほうほうのていで乗り込むと、そのまま逃げるようにして去って行った。
「ふんっ、けったくそ悪い! 塩を撒いとけ、塩を!」
――とまぁ。
そんな一連の流れを俺が何をするでもなく見ていたのには、もちろんわけがあってだな。
その理由とは他でもない、トラヴィス本店の入り口の脇に掲げてあった1枚のお仕事募集の張り紙について、確認を取りたかったからである。
なにせ――、
「時給10万、だと……!?」
最初は一ケタ数え間違えたのかと思ったんだけど、そうだとしても時給1万という破格である。
「100,000……、ひぃ、ふう、みぃ、よぉ、いつ……、0が5個ある。間違いない、時給10万だ。日給でもないし桁も間違えてない」
そして肝心の業務内容はというと、
「『急募! 初生ひなの雌雄鑑別』……。これっていわゆる『ひよこ鑑定』ってことだよな?」
転生する時にかわした、アリッサとのやりとりを思い出す。
――――
アリッサ
『珍しいものでは、商売系S級チート『ひよこ鑑定士』とか』
俺
『『ひよこ鑑定士』? ってあれだろ、ひよこの雄雌を区別する奴だろ? なんでそんなのがS級チートなんだよ』
アリッサ
『そんなの!? 『ひよこ鑑定士』、正式名称『
――――
アリッサ、君のいうことに間違いはなかった。
それを今、俺は改めて実感したよ……!
「そう、これは一攫千金のビッグチャンスだ……!!」
さすが信頼と実績の名誉S級チート『犬も歩けば棒に当たる』
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