第110話 デートのナイア 4 プレゼントを買いに

 ナイアお勧めのショップ――『アトリエ・ココ』と書かれたシャレたプレートがかかった、これまたお洒落なカフェって感じの扉を押し開いた俺を出向かえてくれたのは――、


「いらっしゃませ! アトリエ・ココへようこそ!」


 カランコロンという耳に心地よいベルの音と、元気いっぱいの可愛らしい少女だった。


 少女の身を包む黒と白のツートンカラー&装飾過多なヒラヒラフリルは、

「おぉ、ゴスロリ少女だ……フリフリで可愛いな……」


「やぁココ、お邪魔するよ」

 そして俺からわずかに遅れて入ってきたナイアが、ゴスロリ店員に片手をあげて気さくに声をかけると、


「あ、ナイアちゃん、こんちわ~って、わわっ! ナイアちゃんがまさかのカレシ連れで来店!?」


 その笑顔はすぐさま驚愕へとスライド登板。

 ファーストインプレッションだけど、表情がコロコロ変わって楽しい子だな……。


「今日はプレゼント用のアクセサリを見に来たんだけど――」

「そんなことどうだっていいよ! それよりナイアちゃんがカレシ連れな件について、説明をしてほしいにゃー!」


 よほど親しい仲なのか、テンションアゲアゲで迫ってくるゴスロリ店員さん。


「いや、どうでもよくはないだろ……? あんたこの店の店員さんだろ……?」

「あー、それならモーマンタイ! ここはココのお店だから! ココが何してもオッケーなんだ!」


「ああ、さいですか……」


 どうでもいいと言えば、「ここはここ」って、響きが「ねここねこ」みたいだな。

 いやほんと、どうでもいいんだけど。


「それが残念ながらまだ彼氏じゃないんだ。現状は保留ってところかな」


「およ? ナイアちゃんとのお付き合いを断るオスが、この世にいるとは思えないけど……。あ、ココ分かっちゃった! もしかしておにーさんってば、同性愛な感じの人?」


「俺はいたってノーマルだ!」

「隠さなくてもいいよ、ココはいろんな愛の形に理解ある方だから安心して」


 優しげな顔で俺をいたわってくるゴスロリ店員さん。


「……ねぇ、俺の話をみんな聞いてくれないのって、この世界の隠されたルールだったりするの……? アンリトゥン・ルール(不文律)ってやつ?」

 もしかして俺はこの異世界からナチュラルにハブられてるの……?


 こんな時、ウヅキが――、ウヅキさえいてくれたら!

 いつでもどんな時でも、「さすがです、セーヤさん!」って言ってくれるのに!


「でもでも、ナイアちゃんって自分より強い男が好きって言ってたよね? この男の子ってそんなに強いのかな? なんかふつー? むしろナイアちゃんにご飯奢ってもらってアザース!とか言ってそうな感じだけど?」


「…………(滝汗)」

 まったくもって言い返せない俺であった。


 くっ、このゴスロリ店員ときたら、可愛い顔してなんという慧眼なんだ……!

 さすが自分の店を切り盛りしている個人事業主なだけはあるぞ!

 とりあえず出社さえすれば給料が出たサラリーマンの俺とは、人を見る目や人生に対する真剣さが雲泥の違いだ……!


 ――だが、しかし。

 たとえ自分では言い返せなくても、今の俺には心強い味方が傍にいるのだ。

 命をかけて共に戦ったナイアという戦友が、俺を俺たらしめる何よりの証人なのだから!


「ふふっ、強いも何も。何を隠そう、セーヤは今、巷で噂になってるマナシロ・セーヤの本物なのさ」


 ふははっ、見たかゴスロリ店員よ!

 ナイアさえいてくれれば、俺は本物の麻奈志漏まなしろ誠也たりえるのだ!

 ……あれ、なんか色々おかしいような?


 まぁいいか。

 そういうわけで――、


「《神滅覇王しんめつはおう》にして《王竜を退けし者ドラゴンスレイヤー》の麻奈志漏まなしろ誠也だ。よろしくな」


 せっかく紹介をしてもらったので、二つ名とともに名乗りを上げる俺。

 ラブコメ系S級チート『ただしイケメンに限る』も、しっかり発動している。

 練習の成果はばっちりだった。


「うわーお! おにーさん、カックイー! そも、ナイアちゃんがそんなちんけな嘘をつくはずがないから……、ってことは、おにーさんは本物のマナシロ・セーヤなんだね……! すごーい!」


 うんうん、これだよこれ。

 これこそ俺が求めていた反応なんだよ。

 俺は今、実に気分がいいよ。


「でもでもぉ、確かにかなり格好いいけど、出回ってる絵とはちょっと違うような? ほらこれ――」


 言って、カウンターから1枚の紙を取り出したゴスロリ少女。

 取り出された紙には「黒竜へ黄金剣を振り下ろすイケメン」が描かれており――、もちろん例のアレだった。


「その絵は、とある金髪ぺたんこお嬢さまの妄想の産物であって、あくまで本物は俺なんだ」

「ふーん」


 なにその、さっきとは打って変わって気のない返事……。

 確かに、確かにこの絵に描かれているヤツの方がカッコいいけれども!


 ……くっ、駄目だこれは、早くなんとかしないと……!

 可及的速やかにあの金髪ちびっ子お嬢さまに渡りを付けて、この絵を描きなおさせる必要がある……!


 このままでは、この謎のイケメンXがマナシロ・セーヤということになってしまうじゃないか……!

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