第111話 デートのナイア 5 ヤキモチ?

「なぁ、その耳って――」


 ゴスロリ店員さんと話していた俺は、とあることに気が付いた。


「――もしかして、本物のネコ耳なのか?」

 ゴスロリ店員さんは頭にネコ耳が付いていて――最初はネコ耳カチューシャかなと思ってたんだけど――なにせそのネコ耳ときたら、会話に合わせてぴくぴくと可愛く動くのだ。


「そーいえば紹介がまだだったねー。ココは獣人族ネコ耳科なんだよ、よろしくねー。おにーさんは獣人族を見るのは初めて?」

「あ、ああ、うん。初めてだ」

 というかそんな種族がいること自体、今初めて知ったぞ……。


「ま、獣人族は森の中を住処にするから、あんまり人族とは交流ないからねー」


 そして会話とともにまた、ぴこぴことネコ耳が可愛らしく動いた。

 思わず目が、その可愛らしい動きを追ってしまう。


「にひひ、ココの耳に興味津々だねー。ちょっとだけなら触ってもいいよ? 滅多に触らせてあげないんだけど、おにーさんはイケてるから、ちょっとだけと・く・べ・つ♪」

 小悪魔っぽく笑ったネコ耳ゴスロリ店員の提案を、特に断る理由もない。


「いいのか? こほん、ではせっかくの機会なので遠慮なく――」

 興味津々で手を伸ばしかけたところで、ナイアにぺしっと手を叩かれた。

「あの、地味に痛いんだけど……」


「ココ、獣人族が異性に耳を触らせるのは、求愛やプロポーズの意味があると聞いているけど?」

「えー? ココはー、難しいことはあんましわかんなーい!」


「アタイの記憶が確かなら、これはココから教えてもらったはずだけど?」

「そうでしたっけ? フフフ」


 言って、ぶりっ子スマイルでクルッと回って可愛くポーズを決める、ネコ耳ゴスロリな店員さん。


「まったく、君はいつもそうやって茶化そうとするんだから」

「あれぇ? もしかしなくてもヤキモチさんかな? いやー、ナイアちゃんも女の子だもんねー」


「アタイが本気でヤキモチを焼いたら、この店は跡形もなく吹っ飛んで『アトリエ・ココ』じゃなくて『青空・ココ』になるわけだけど、それでもいいのかな?」

「ココが、ココが悪うございました。お代官様、なにとぞ平にご容赦を~」

「はいはい」


 仲のいい姉妹って感じで、楽しそうにじゃれ合う二人。

 さっきも感じたんだけど、ココとの会話でナイアが見せる私的な一面は、カッコイイ公的な姿ばかり見せられてた俺にはすごく新鮮で。


「くっ、めっちゃ可愛いじゃねぇか……」

 ナイアの魅力に惹かれる自分がいることに、改めて気づかされたのだった。


「それにしても二人はほんと仲がいいんだな。けっこう昔からの知り合いなのか?」

 二人の関係は、いかにも竹馬の友って感じがしたものの、

 

「うーん実はそうでもないんだよね。昔ナイアちゃんに命を助けてもらったことがあって、その後は特に何があるでもなかったんだけど」


「ちょっと前にアタイがこの東の辺境に任務で赴任してきた、ちょうどその初日に偶然街でココと再会してね。懐かしい話で盛り上がって意気投合して、今に至るって感じさ」


 さらっと当たり前のように誰かを助けていたナイア。

 しかもそれを特段、誇るでもないのがまた素敵だと思います。

 

「あれは言うなればそう、運命の出会い……。はっ! ココわかったよ! ココはナイアちゃんと結婚する運命だったんだね!」


「はいはい勝手に言っときなさい。ま、こんな適当な子なんだけど、ココの仕入れの眼は折り紙つきだから安心して。アトリエ・ココは、アタイお勧めのアクセサリーショップなんだから」


「お勧めか。っていうか、ナイアってこういう可愛いのが好きだったんだな」

「……まぁその、なんだ。団員の子に詳しい子が居てね。アタイも自然と詳しくなったというか、特に深い意味はないさ。それより――」


 そのままナイアはさらっとこの話を流そうとしたみたいだったのだが、にやにや笑いを隠そうともしないココ店員に敢え無く阻まれてしまう。


「……あれぇ? 団員のみんなにお勧めだって紹介してくれたのは、ナイアちゃんでしょう? 《聖処女騎士団ジャンヌ・ダルク》団長の御用達ごようたしって評判がさらに評判を呼んで、おかげで今やアトリエ・ココは飛ぶ鳥を落とす勢いなんだもん! トラヴィス・ストリートに店を構える日もそう遠くないかな! ありがとね、これも全部ナイアちゃんのおかげだよ!」


「えっと……ナイア?」

「…………」

 ナイアが涙目&顔を真っ赤にしていた。


「なんだよ、別に隠さなくてもいいだろ? 可愛いものが好きって、女の子らしくていいじゃないか」


「だってさ。アタイの性格だと、そう言うのはあんまり似合わないってみんな思うだろ? だからつい、ね。でもそうか。セーヤが女の子らしいって言ってくれて、うん、アタイは今すごく嬉しいよ」

 ナイアがニコッと柔らかく微笑む。


「だからそんな風に面と向かって言われたら、恥ずかしいじゃないかよ……」

「だからアタイも恥ずかしいんだってば……」


 こそばゆい空気の中、お互い言葉をなくして見つめ合っちゃう俺とナイアだった。

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